「アレを操縦しているのは……本当にナチュラルなのかよ!」
 最後に敵艦に残されたと思われる機体を相手にしながら、ディアッカはぼやく。
 キラとイザーク、それに自分の三人がかりだというのに、未だに撃墜できないのだ。
 確かに、ナチュラルの中にもコーディネイターに劣らない身体能力を持った者はいる。だが、それでも全ての面において、ではないのだ。
 第一、自分たちが奪取してきた機体と同じOSを積んでいるのであれば、ナチュラルに操縦は無理だろうとも思う。
 それとも、自分たちと同じ《コーディネイター》なのか。
 その可能性が完全に否定できないことをディアッカも知っていた。
 世の中が単純に二つの種族だけで割り切れるわけではない。コーディネイターに生まれた自分を厭い、そんな自分の同胞を全て否定するために地球軍の中に身を投じたものもいるのだ。
 いや、それだけではない。
 中には『ナチュラルに奉仕』をするためだけに生み出された《コーディネイター》も存在しているらしい、と耳にしたことがある。
 そんな《道具》扱いをされている同胞が本当にいるのであれば、厄介だとしか言いようがないだろう。
「もっとも、それよりも自分の命の方が大切ってな」
 そして、その次に仲間達の存在が続く。
 身も知らぬ連中の命を救うために、自分の命をかけてたまるか……というのがディアッカの本音だった。
「だからさ……さっさと諦めろよな」
 お姫様をこちらに返して、といいながらディアッカは相手の機体をロックしようとする。しかし、まるでタイミングを外すかのようにそれは移動してしまう。
「ったく!」
 OSの調整は万全だったはずだ。
 相手をロックするためのシステムも、キラが問題ないと言ってくれた。
 と言うことは、相手の技量が自分以上だ、と言うことなのか……と唇を咬む。
「あるいは……これが経験の差って奴?」
 ミゲルやキラと言った者たちが口を酸っぱくして言っていた『シミュレーターと実戦は違う』というのをようやく実感できたような気がする。
 しかし、それに飲み込まれてはいけない。
「だったら、これからそれを積んでいけばいいってことだろうが!」
 こうなったら、意地でもロックしてやる、とディアッカは口にする。
 そして、そのためにバスターを出来るだけ最小限の動きで方向を変えた。
「だから、大人しく撃とされろよ!」
 こう言いながら、先ほどよりも素早く相手の機体をロックしようとする。だが、後一歩、と言うところでまた外されてしまう。
「……まだダメか……」
 なら……とディアッカは次に取るべき行動を脳裏で考える。
 そしてまた相手へと照準を合わせ始めた。

「……そろそろ、か?」
 いつになったら行動をすることが許されるのか。
 そんなことを考えながら、アスランはじりじりと待っていた。
「キラの一言がなければ……無理矢理突入していたかもしれないな」
 自分はそれほど気が長い方ではない。もっとも、それは全てではなく特定の条件があればどれだけでも待てる、と言うのも事実だが。
 だが、このような場で、ある意味、自分だけが安全な場所にいると言うことを納得できるか、と言うと答えは『否』である。
 しかし、そんな自分の性格を本人以上によく知っているキラが、一言囁いてくれたのも当然だろう。
『この作戦を成功させるのも、そうでないのも……全部アスラン次第だからね。一番辛い状況に置かれるかもしれないけど、僕は、アスランを信じているから』
 この言葉が、アスランの行動に抑制をかけてくれている。
 キラが自分を信じてくれているのであれば、どんなことでも出来る、と言うのが昔からのアスランの本音だ。
「しかし、予想以上に辛いな」
 モニターにいくつかの光が映し出される。
 それがキラだとは思いたくない。だが、仲間達である可能性は否定できないのだ。
「早く……合図が出てくれないか」
 アスランがこう呟く。
 その時だ。
 待ち望んでいた合図がニコルから送られてくる。
「ようやく、か」
 目的の機体がようやく把握できたらしい。その座標がモニターの隅に映し出される。
「ラクスとあの人を傷つけないように注意しないと……」
 こう呟くものの、アスランの心は既に現状から解き放たれることに喜びを感じていた。
「……目標捕捉……」
 アスランはこの言葉と共にイージスを発進させる。
 それと同時に、MS形態からMA形態へ変化をさせた。こちらの方が今回の作戦では都合がいいからだ。
 そのまま、最高速度へと移行する。
「っく……」
 その瞬間、全身を包み込んだ重圧に、アスランは思わずうめいてしまう。
 かなりの衝撃が来るだろうと思ったのだが、まさかここまでとは思わなかった……というのが事実だ。
 これが実戦とシミュレーターの差なのだろうか、とも思う。
 だからといって、ここで機体のコントロールを手放すわけにはいかない。そんなことになれば、自分だけではなく他の者たちの命すら失うはめになってしまうだろう。
 その中に《キラ》が含まれてしまえば、後悔だけではすまないのは分かり切っていた。
 だから、とアスランは歯をかみしめてこの重圧に耐える。
「目標、確認……」
 その彼の前に、教えられたとおりの特徴を持った機体が現れた。事実を認識すると同時に、彼の手がクローを操作する。そのまま、一気にそれを押さえつけた。
 それがしっかりと相手を固定したことを確認して、アスランは急速に戦場を後にする。もっとも、この速度にラクスが耐えられるかどうか、と言った不安がなかったわけではない。しかし、少しでも早くこの場を離脱する方が優先事項だと判断をして、そのまま方向を変えた。
「こちら、アスラン・ザラ。任務完了。このままヴェサリウスに帰還する」
 同時に、クルーゼへと報告を入れる。
『了解』
 即座に言葉が返ってきた。

 一分と経たないうちに、ヴェサリウスから帰還信号が発信された。それを確認したクルーゼ隊のパイロット達はそれぞれ戦場を離脱する。
 しかし、地球軍の追撃はなかった。



戦闘シーン後半ですが……何でこんな場面なのに長くなっているんでしょう。非常にまずいです。このままではまたのびそう(^_^;