ニコルの報告を耳にした者たちの反応は様々だった。その中で真っ先に行動を見せたのはイザークである。 「隊長!」 信じるのか……と彼は態度で問いかけてきた。 「信じる信じない、というのであれば、信じるべきだろうな。彼は、間違いなく我々の味方だ」 きっぱりと言い切れば、イザークは唇を咬む。 それは納得したという態度ではない。 しかし、クルーゼがそういうのであれば仕方がない、と判断しているかのようだ。 「あちらがそれなりの事をしているように、こちらも協力者を配置している、と言うだけだよ」 その中の一人が偶然、あの艦に乗り込んでいただけだ……とクルーゼは付け加える。 もっとも、それは正確ではない。 確かにメールを送ってきた相手は自分やキラにとっては味方だが、決して《ザフト》の協力者、と言うわけではないのだ。だが、それを口にする必要はないだろうとクルーゼは判断をする。 「そ、ういう事でしたら……納得致しました」 実際、イザークをはじめとした者たちはそれ以上追及してこようとはしない。ただ一人、キラだけが複雑な感情を瞳に映してはいた。それに気づく者がいるとすれば、自分とアスランだけだろうとクルーゼは心の中で呟く。 「では、それに関してはいいだろう。我々にとって大切なのはただ一つ。ラクス嬢を無事に救い出すこと、だ」 そのためには、全員の協調が必要なのだが……と言いながら、クルーゼは口元に微かな笑みを浮かべる。そして、そのまま全員の顔を見回した。 「そのためのフォーメーションだが……今回はアスランとニコルの機体が作戦の中心になる。他の者はそのバックアップだ」 とたんに、血気盛んな二人組をはじめとした者たちがが不本意そうな表情を作る。それはキラが危惧していたことだ、と言っていいだろう。同時に、彼の目の確かさにクルーゼは満足感を覚える。 「とは言っても、実際の戦闘を行うのは他の者たちだ。アスラン達はその機体の機能を最大限に生かして、敵艦の掌握及びラクス嬢達の保護に努めて貰う事になる」 そのためには、他の者たちが敵艦の目を引き付けておくことが重要だ、と付け加えれば、そんな彼らの表情から不安が消えた。 「キラは必要に応じてアスラン達の方へ向かうように。相手の顔を知っているのは、私以外にはお前だからな。あぁ、アスランも覚えているかもしれないか」 こう言えば、アスランには相手が誰なのか想像がついたのらしい。 「あの人ですか?」 直接名前は出さないものの、こう問いかけてくる。 「そう言うことだ。覚えているのであれば、キラがいなくても大丈夫だな?」 ならば、キラはかなり自由に動けると言うことになるな、とクルーゼは呟く。 「それはそれで有利な状況だ」 キラとミゲルが共にその場で判断を下せるような状況である、と言うことはな……と呟きながらクルーゼはあごに手を当てた。 「では、くわしい作戦を説明しようか」 そして、こう口にする。 その瞬間、その場の空気が張りつめた。 「あの人が……いつの間に……」 アスランは着替えながらこう呟く。 「……僕らが月にいた頃は、もう……だったはずだよ」 それをしっかりと聞きつけたのだろう。キラがこう言い返してくる。 「そんなに早くから?」 と言うことは、彼は地球軍の施設から自分たちに会いに来ていたのか……とアスランは眉を寄せた。 だが、そんな状況にもかかわらず《ザラ家》嫡男の自分が何の危害も加えられていなかったという点から考えても、間違いなく彼は自分たちの味方なのだろう。 「ラウ兄さんが本国に行くことが決まっていたし……地球軍のシステムを考えれば少しでも早い方がいいだろうって」 もっとも、そのセリフを素直に受け止めるわけにはいかないだろう。彼の場合、絶対、早く独立したかっただけだ、と言う可能性も否定できないのだ。 「……それにしても、誰の差し金なんだろうね、それは」 あるいは、キラが本国に来て、さらにザフトに入隊したのもその人物の意図をくみ取ってのことかもしれない。 だが、そのおかげでこうして側にいられるのだから、見知らぬ相手に感謝を捧げてもかまわないだろうと思うのはアスランの勝手なのだろうか。 「いずれ……わかるよ」 キラが苦笑混じりに言葉を返してくる。 「たぶん、ラクス嬢を救出した後には」 もっとも、他の人間には内緒にしていて欲しいけど……とキラは付け加えた。 それはそれだけ厄介な内容なのだろうか。アスランは微かに顔をしかめる。だから、父はあんな事をわざわざこの時期に通信をつなげて告げてきたのだろうか、とも。 「俺に教えてくれるならかまわないよ」 苦笑と共に、アスランはキラにこう言い返す。 「あの人がこっちに来てからなら、かまわないと思うよ。っていうか、本人の口から聞けば?」 どうせ、すぐに会えるんだし……とキラは口にしながら首元を整えている。 「そうだね。でも、俺はキラからも聞きたいな」 隠し事をしないで欲しい……とアスランは言外に告げた。 「……わかっているよ。話せるようだったら話す」 だから、絶対に生きて帰ってこい、とキラは続ける。 「もちろんだよ。危険度から言えば、キラ達の方が上だと思うけど?」 作戦の内容から考えれば、とアスランもまたパイロットスーツの確認をしながら言葉を返す。 「僕はストライクでの戦闘をもう体験しているし……それに、実戦経験もアスラン達より上だよ?」 もっとも、だからといって気を抜けないこともわかっているが、といいながら、キラはさりげなくアスランにすり寄ってきた。そのままふわっと微笑みを浮かべる。そのキラの表情に、アスランは一瞬見とれてしまう。 だが、アスランは必死に意識を現実に呼び戻す。 「それはわかっているけど……心配ぐらいさせてくれる?」 側にいられないだけに不安なのだ、と同時に口にした。 「僕だって同じだけど……でも、それが任務なら割り切らないと」 ね? といいながら小首をかしげてみせるキラは、本当に可愛らしい。はっきり言って、この場にいるのがおかしいのではないか、とすらアスランに認識させるほどだ。 「そうだね」 キラの言葉にアスランは頷いてみせる。 「でも……俺達は恋人同士だって言うこともわかっているよね?」 だが、次の瞬間、低い声でこう問いかけた。 「もちろんだろう?」 どうして? とキラは目を丸くする。 「だったら、心配するのが当然じゃないか」 万が一のことだってあるんだし……と囁けば、キラは小さく微笑む。そして、その表情のまますっと顔を寄せてきた。そうアスランが認識した瞬間、キラの唇がアスランのそれをかすめる。 「大丈夫。ちゃんと無事に帰ってこれる。そう信じているからだよ、アスラン」 そうだろう? とキラの瞳がアスランの間近で問いかけてきた。 「……そうだね」 お守りも貰ったことだし……とアスランも微笑み返す。 「じゃ、行こうか」 この言葉と共に、キラのつま先が床を蹴る。一瞬遅れて、アスランもまた同じように移動を開始した。 さりげなくラブラブ? いやここで少し入れておかないと、次回からは戦闘シーンなので(^_^; |