「あれは……」
 探索に出ていたニコルがそれを発見した。
「ともかく、報告に戻らないといけませんね」
 言葉と共に彼がブリッツの方向を変えようとした瞬間だ。
「……何で……」
 いきなり、メールの着信を知らせるアラームが反応をする。しかし、この近辺に味方はいないはずだ。
「でも、間違いなくこれは《ザフト》のフォーマットですね」
 そして、内容が内容だ。
 あるいは、とある可能性がニコルの脳裏に浮かび上がる。そして、それは決してあり得ない話ではないとも判断をした。
「ともかく、大至急帰還して、隊長の判断を仰がないと……」
 このメールの件も含めて。ニコルはこう口にすると、今度こそ帰還のためにブリッツの方向を変える。
 そのまま慎重に移動を開始した。
 この状況では、最悪、敵艦のセンサーに引っかかる可能性があるのだ。もっとも、キラの話ではそれを回避する機能がこの機体には付いているらしい。ただし、その場合PS装甲が使えないと言う話である以上、発見されてから使用するわけにはいかないだろう。
「帯に短したすきに長し……というのはこういう事なのでしょうか」
 もっとも、最初からその機能を使えばこちらが有利な状況に立てると言うことも事実。
 結局は運用の仕方なのだろう……とニコルは判断をする。
「これも、隊長の判断にお任せした方がいいのでしょうね」
 あるいは、他の者たちとの連携を考えるべきだろう。
 ニコルは遠ざかっていく敵艦を一度だけ振り向く。だが、すぐに視線を正面へと戻した。
 今は自分がなすべき事を優先させよう。
 自分に言い聞かせると、ニコルは慎重に速度を上げていった。

「大丈夫なのか?」
 はっきり言って、一部屋の中に閉じこめられている、というのはストレスがたまる。しかし、現状ではどうしようもないだろう。
「大丈夫ですわ。ご心配をおかけして申し訳ありません」
 実際、水を求めて部屋を出た所を見つかった瞬間、殴られたのだ。
 もっとも、自分はナチュラルのせいかかなり手加減はされたようだ。
 しかし、目の前の少女はコーディネイターであったが故に、そんな配慮はされない。顔だけは何かの時のためにと判断したのか跡が残るようなことはされなかったが、衣服の下に隠されている場所はどうなっているか。
「……お前、痛むなら、痛むと言え!」
 やせ我慢をするんじゃない、と付け加えながらも、彼女の脳裏にはある人影が浮かんでくる。その相手は脇で見ていていらつくくらいやせ我慢を得意としていた。そして、今はそのせいで――と言いきれないのだろうが――自分たちは離れ離れになっている。
 それに関して、自分がどうこう言える立場でないことはわかっていた。
 相手の行動は、全て自分のためなのだから。
 しかし、と思う。
 どんな些細なことでもいいから、自分に告げて欲しいと思っていたのだ。
「それとも、コーディネイターは皆、そうなのか?」
 目の前の少女も、同じように全て自分の中に抱え込んで、決して他人とは分かち合おうとはしない。
 その事実が悔しい。
 同時に、それはまだまだ自分が未熟だからなのか……と思う。その事実が口惜しいとも。
「どなたか……コーディネイターにお知り合いでもいらっしゃいますの?」
 彼女の言動から少女は推測をしたのだろう。こう問いかけてくる。
「あぁ」
 この艦に乗り込んでいる連中なら決して認めなかっただろう。
 だが、相手は自分と同じ立場の少女。そして、あいつと同じ《コーディネイター》だ。ならばかまわないだろうと心の中で呟く。
「私の……一番近しい相手が《コーディネイター》だ。それ以外にも、知人も多い」
 自分はオーブの人間だから……と言えば、少女は納得したようだ。
「では、あなたのお国では、コーディネイターもナチュラルも、仲良くしていらっしゃいますの?」
 そして、無邪気な口調でこう問いかけてくる。
 だが、それにすぐに同意を返すことが出来ない。
 そうだ……と言いたいのは山々なのだが、実際の所、オーブにもブルーコスモスは多く見られる。そして、その連中のせいで、と言うわけではないのだろうが、二つの種族に溝が出来つつあるのは事実だ。だが、そうさせまいと動いている者たちもいる。
「そういう国を作りたい……とは思っている」
 そうすれば、あいつは帰ってきてくれるだろうから……と彼女は心の中で呟く。
「諦めてしまえば、それまでだからな」
「そうですわね」
 彼女の言葉に少女も同意を示してくれる。
「努力をしなければ、意味がありませんもの」
 そして告げた言葉すらも、あいつに似ている……と彼女は思った。
 同時にあいつの側にいた少年にも、と。
「コーディネイターっていうのは、やっぱり自分に厳しいんだな」
 思わずこう言えば、少女ははんなりと微笑んでみせる。その笑顔から彼女は目を離すことが出来なかった。

「さて、信用してもらえるかね」
 シートにより掛かりながら、彼はこう呟く。
「あちらが《クルーゼ隊》なら、大丈夫だとは思うが……」
 そして、先ほど見つけた機体が《X―207・ブリッツ》であれば、その可能性が強いに決まっている。
 あの男が一度手に入れたものをそう簡単に他人に手渡すわけがないのだ。
 そして、あの男の側にはきっと《彼》がいるだろう。
 なら、余計に確率は高くなる。
「それにしても、この状況で帰還しろって言われてもなぁ」
 確かに潮時だとは思う。しかし、現状を考えて欲しいとは思うのだ。自分一人であればともかく、民間人の少女を二人、伴わなければらなないのだから、と。
「言うは易く行うは難しってな」
 それでも自分なら何とか出来るだろうと期待されているのなら、答えてやろうじゃないか、とも思う。
 そんな自分の性格を読まれているからこその命令なのだろうと言うことも彼にはわかっていた。
「フォローが期待できそうなことだけが救いか」
 苦笑と共に彼はこう呟く。
「さて……戻りますかね」
 そして、そのまま帰還のための操作を始めた。



と言うわけで、周囲の状況ですね。
しかし、進みそうで進みません(T_T)