「……そうですか……」
 報告を耳にした瞬間、男は満足そうに微笑んだ。
「では、それをここに連れてきてください」
 そして、こう口にする。
「……それは……」
 だが、それは予期されていなかったセリフらしい。周囲から驚愕の声がこぼれ落ちた。
「連れてきてください。使えるものは有効に使う。それがどんな化け物だとしてもね」
 違いますか? と男はさらに笑みを深める。
「優秀な存在であれば、あれのパーツとして十分使えるでしょう? それに、あれの立場を考えれば、オーブの抑えになるはずです」
 必要なのは、それが生きていると言うことだけ。
 それの意思も自我も、まったく必要ないのだ……と男はさらに言葉を重ねる。
「まぁ、人間としての外見だけは残してあげてもいいですけどね」
 作り物らしく、見た目は整っているようだから……と男はさらに笑いを深めた。
「置物に、丁度良い……と?」
 そんな彼に向かって、控えていた部下の一人がこう問いかける。
「同じ道具でも、デザインは重要でしょう?」
 と男は同意を求める。
「それに、外見が残っている方が、後々都合が良いでしょうしね。オーブを再び連合の一員として迎えるときに」
 それを使って、オーブをコントロールできるだろう。男はさらに付け加えた。
「さすがに、ナチュラル相手では気が引けますが……作り物ならかまいませんでしょうしね」
 ただのスピーカーにしてしまうのも、と笑みを深める。
「……あれは、どうなります?」
 今、思いついた、と言うように、取り巻きの一人が新たな疑問を口にした。
「今まで、かなり都合良く動いてはくれましたが?」
 さらにこう付け加えられて、男は一瞬考え込むかのような表情になる。
「でも、あれは育ちすぎていますし……こちらの都合ばかりを考えてはくれませんからね。適当なところで処分しても惜しくないのではありませんか?」
 その一言が全ての決定だった。
「では、そのように」
「清浄なる世界のために」
 この言葉が、室内に響き渡る。それに、男は満足そうな笑みを浮かべた。

「……キラ……」
 ムウは固い声で彼に呼びかける。その隣にはカガリの姿もあった。
「お前……」
「大丈夫。ちょっと確認したいだけだから」
 こう口にするところを見れば、彼もまた同じ疑念を抱いているのだろう、と言うことがわかる。だが、それはそれで厄介だ、とも思うのだ。
「……あいつは……強いぞ?」
 ともかく、注意を促すためにこう告げる。
「わかっています。ミナさん達には、あの機体の限界を知りたいから……と言ってありますし……本気を出してもかまわない、と思える相手はギナさんだけだ、とも告げてありますから」
 だから、ミナを始めとした者たちは、自分が本当は何を知りたいのか気づいていないだろう……とキラは付け加えた。
「ただ、どうしてなのか……がわからないんだけどな」
 口を挟んできたのはラスティだ。
「あの人は、一応、オーブの首長家の一員なんだろう? でもって、コーディネイターのはずなのに、ってさ」
 それなのに、どうして地球軍に協力をするのか……と、ラスティはもっともなセリフを口にする。
「コーディネイターだからかもしれんな……」
 こう言いながら、ムウは視線をカガリに向けた。そうすれば、彼女は不思議そうな表情を作る。
 次期首長とはいえ、彼女はまだその手の話を知らないのだろう、とムウは判断した。
 そして、それはそれでかまわないのだが、とも思う。
 ただ、同じ立場であるべきキラとの比較を考えれば、ため息が出てしまうのは否定できない。
「ウズミ様を始めとしたアスハ家はまだましだがな……他の連中はサハクを出来ればつぶしたいと思っているんだよ」
 アスハと違い、現在の当主が二人とも《コーディネイター》だから……とは敢えて口にしない。それでも、キラ達には十分伝わったらしい。忌々しそうに顔をゆがめている。
「ただ、ミナは周囲とあわせることも出来る。多少のことも妥協できるようだ。しかし、ギナはな……」
 なまじ、有能なだけにそれができないのだ……とムウはため息をつく。
「でも、ギナ様は私達には……」
 しないぞ、とカガリは口にした。どうやら、カガリがヘリオポリスに行ったときに手助けをしてくれたのは彼らしい。
 同時に、ある疑念がムウの中で生まれた。
 だが、それを今は口にしない。
「そうだな。お前はそんなことを気にしないだろう? キラも同じだ」
 その代わりというようにこう告げれば、カガリは何処か納得したような表情になる。
 このストレートさは本当に愛すべき存在だな、とムウは心の中で呟く。そして、その代わり彼女の側には裏のことを引き受けられる存在が必要だと改めて認識する。だからこそ、彼女の婚約者としてラウが選ばれたのか、とも。
 一方、キラの方はムウが何を考えているのか理解しているらしい。微かに眉を寄せている。
「まぁ、あれのOSも好きなようにしてかまわないだろうし……テストパイロット連中にはいい刺激になるだろうからな。好きなだけ、本気を出せ」
 もちろん、その他のことも……とムウは言外に付け加えた。
「そうさせて貰いますよ」
 キラもまた、いつもの笑みを口元に浮かべると頷いてみせる。
「キラ、さん……ミナ様とエリカ主任がお呼びです」
 その時だ。
 こう言ってシンが彼らを呼びに来る。そのシンクの双眸が、何か意味ありげに輝いているのは、きっとこれから起こることに関係しているのだろう。
 あるいは、キラが負けることを期待しているのかもしれない。
「だ、そうだ。行くか」
 もっとも、そう上手く行くかな、とムウは思う。
 マリューから入手したデーターから判断をして、同じ条件であれば、互角には戦えるだろう、とムウは判断している。
 もっとも、相手が本気を出していれば、の話だが。
 だが、それはキラも同じだろうとムウは思っている。
「負けるなよ、キラ」
 こう言いながら、キラにまとわりつくラスティに、本人は意味ありげな笑みを浮かべて見せていた。





と言うわけで、出てきてしまいましたアズ様(^_^;
新盟主よりもアズ様の方が顔が好みです。性格は……まだ出てきていないのでわかりませんね。
キラの方は久々に何かを考えているらしいです。それは次回、でしょうかね(^_^;