結局の所、キラの希望を今日叶えるのは無理、という結論に達したらしい。そう言うわけで、彼らは自分たちの与えられた部屋に戻っていた。 「……ここって……」 室内の内装に、ラスティは目を白黒させている。 「僕の部屋だよ。客間、と言われたけど、こっちの方が落ち着くだろう? だから、ラスティ用のベッドを入れて貰ったんだ」 シンプルなのは自分の趣味だ、とキラは口調混じりに言葉を返す。 「納得」 だが、この言葉でラスティは全てを飲み込んだらしい。室内の探検を終了させて、キラの脇に腰を下ろした。 「で、ここって、監視カメラとかあるわけ?」 そして、こんな疑問を投げつけてくる。 「ないはずだけど? セキュリティーだけはしっかりかけているけど」 それがどうかしたのか、とキラは小首をかしげて見せた。そうすれば、ラスティは意味ありげな笑みを返してくる。 「ならさ。誰にも邪魔されないって事だよな?」 だから何が、とキラは思う。だが、直ぐにそれが何であるのか思いついてしまう。 「ラスティ……僕は今、したくないんだけど」 約束はしたが、その気にならないのにつき合えないよな、とキラは心の中で呟く。だから、一応こう釘を刺してみた。 「でも、俺がその気だから」 熱が収まらないんだよなぁ……と彼は苦笑と共にキラにしなだれかかってくる。 それから何とか逃れようと――それも、ラスティを傷つけないようにして、だ――キラは体をずらす。 そうすれば、即座に間を詰めるかのようにラスティがにじり寄ってきた。 「さっきの奴、それなりの実力だったけど……燃焼不足なんだよな、俺」 だから、とラスティはキラの首筋に息を吹きかけてくる。それが、ぞくぞくっとした感覚をキラに与える。 ひょっとして、これもミゲルがいつもやっている行動なのだろうか。こんな事を考えて、キラは必死にその感覚を散らそうとしていた。 しかし、ラスティがそれを許してくれない。 「……キラも、わかるだろう?」 この感覚、とラスティはさらに熱い息を吹きかけてくる。 「……わからなくはないけどね……」 でも、今は別のことを考えたいんだけど……とキラは言い返した。 「それに、ご褒美、だろう?」 さっきの、とラスティは笑ってみせる。 「本当に……その押しの強さがあったから、ミゲルが落ちたわけだ」 あの男が誰か一人に縛られる日が来るとは思わなかったし……とキラは言い返す。 「だって、仕方がないじゃん。好きになっちまったんだからさ」 諦めきれなかったし……と言いながら、ラスティはキラの首筋に顔を埋めてくる。 「んっ」 下から舐めあげられて、思わず声を漏らしてしまった。 「やっぱ、可愛い」 この言葉に、キラはむっとしてしまう。 「……ラスティにだけは言われたくないよね」 そして、お返しとばかりにその背に腕を回した。そのまま指先で背筋をなぞる。 「……んぁっ!」 そうすれば、ラスティの唇から声がこぼれ落ちた。 「ふぅん……やっぱり、ここ、弱いんだ」 ミゲルのとのじゃれ合いを見ていて、そうじゃないか、とは思ったんだけど……とキラは笑う。 「……そう言うこと、してくるわけか……」 なら、お返し……と言い返しつつ、ラスティもまたキラの体に手を這わせ始める。 そのまま、なし崩しにふれあいが始まってしまった。 ひょっとして、これもラスティの作戦の内だったのだろうか。 キラがその考えに行き着いたのは、お互いがとりあえずすっきりした後だった。 砂漠の空気は乾燥しているからだろうか。 それとも、周囲にはレセップス以外の人工物がないからか。 空を見上げれば星がよく見える。宇宙で見るのとはまったく違う光景に、アスランは思わず身動きすることすら出来なくなってしまった。 「凄いな……」 これだけは、宇宙に暮らしている人間は体験できない光景なのではないか――もっとも、その代わり別の光景を目にすることは可能なのだが――とアスランは思う。 同時に、これと同じ光景をキラも見ているのだろうか、とも考えてしまうのだ。 「だとしたら……嬉しいんだけどな」 離れてしまっていることに不安があるわけではない。 あの三年間に比べれば、お互いの居場所がわかっている今の方がましだ。 それでも、側にいて欲しい、とアスランは心の中で呟く。 「アスラン、何をしているのかね?」 その時だ。ラウの声がアスランの耳に届く。 「眠らなければ、明日に差し支えるぞ」 彼の口調は普段と代わらないようだが、それでも何処か優しさを感じる。あるいは《隊長》としての彼ではなく《保護者》としてのセリフなのだろうか。アスランはこんな事を考えてしまう。 「星を、見ていました。地上からはこんな風に見えるとは思っていませんでしたので」 だからだろうか。素直にこう口にしてしまったのは。 「そうか」 珍しく、ラウが柔らかな笑みを口元に浮かべる。 「では、しばらく付き合わせて貰おうか」 久々にアスランにゆっくりと付き合うのもいいだろう……と彼は付け加えた。 「……ラウ……兄さん……」 今なら怒られないのだろうか。そう思いながら、アスランは昔のように彼に呼びかける。 「明日からは、また戦闘になるか……何時になったら、昔のように穏やかな気持ちで星空を見上げられるのだろうな」 それに対する叱咤は彼の口からは出てこない。その代わりに、昔のように優しい手がアスランの肩に置かれた。 「何があっても、生き抜くこと。私がお前達に望むのはそれだけだよ」 優しい声がアスランの耳に届く。 「はい……わかっています」 でも、彼にも死んで欲しくないのだ。アスランは心の中でこう付け加えた。 初志貫徹……と言うことで、あの二人はじゃれ合いの真っ最中です。でも、最後までいっていないから……浮気じゃないらしい、と考えているのがラスティとミゲルです(苦笑) アスランは、珍しくラウ兄さんと話をしていますね。結局、ラウもアスランを気に入っていますから……もちろん、キラのためです。 |