「……あれは……」 双眼鏡で目の前の機体を確認しながら、ラウは言葉を口にする。 「間違いない。宇宙で我々が遭遇したものと同じ機体だな。もっとも、細かな装備は異なっているようだな」 あるいは、こちらは地上専用に特化されているのかもしれない、と付け加えれば、バルトフェルドは納得したようだ。 「なるほどね。ジンとバクゥの違いのようなものか」 おおざっぱな分類で言えば……とバルトフェルドはさらに言葉を口にする。 「隊長……それは……」 あまりにあまりなセリフではないか、とため息をついたのは彼の副官であるダコスタだ。 「どちらかと言えば、ストライクのバックパックの違い考えた方が正しいのではありませんか?」 そして、さらにこう付け加えた。 「どちらにしても、あれのテストをこれ以上ここで続けさせるわけにはいかないんだけどね」 そんなことになれば、ようやく落ち着いてきたこの地の平穏が乱される。無駄な血は流したくないのだ、とバルトフェルドは声を潜めて笑った。 「本当に変わった方だ、貴方は。キラが懐くのもわかりますね」 自分のようにキラは割り切って考えられない。だからこそ、ラウ出来るだけあの子供を実際に戦場に出さないようにしていたのだ。だが、そんなクルーゼの気遣いも、キラの才能の前にはなし崩しになることも多い。 それでも、自分の手元にいれば何とかすることが出来た。あるいは、バルトフェルドのように考えてくれている者の所に、か。 「それは嬉しいね。僕は、あの子のような子供が欲しいんだよ」 「なら、まずは正式に婚姻をされることですね」 今のままでも彼らは子供を持つことは可能だろう。だが、キラのような子供であれば、周囲からも祝福されなければいけない。そして、何よりも大切に愛しんでやるべきだろう。 キラはかなり難しい状況に置かれていたのは事実だ。 だが、それを補っても余るくらい自分たちはあの子供を大切にし、愛情を注ぎながら見守ってきた。 そして、アスラン。 彼がキラを《キラ》として見てくれていたからこそ、あの子供はただ一人の存在として成長することが出来たのだ。 もっとも、それはアスランも同じ事だったらしい。 こう考えれば、あの二人の出会いは、まさしく《運命》だったのかもしれない、とラウは思う。 「そうしたいのは山々なんだけどね。問題はアイシャなんだよな」 彼女がOKを出してくれなければ意味がない、とバルトフェルドは臆面もなく口にする。こういう態度も、キラが彼に好意を寄せる原因になっているのだろう。それは、自分の兄に似通ったものなのだ。 「まぁ、この戦争さえ終わればゆっくりと口説けるとは思うが」 そのためにも、あれは何とかしなければいけないね……とバルトフェルドは表情を引き締めると視線を再びあの機体に向ける。 「とはいうものの、あれは調べたいな。キラでなくても興味をひかれるだろうしね」 ラウ達が奪取したあの機体の性能を考えれば、なおさらだ……とバルトフェルドはさらに言葉を重ねた。 「そうですな」 使えるものは何でも使う。 最終的に、自分たちが――キラやカガリを始めとした子供達が幸せになれればいいのだ。 愛しい子供達のためになら、いくらでも自分は捨て石になれる。 ラウは心の中でこう呟く。 「あれのバリエーションがまだあるようであれば……今後の戦闘は辛いものになりますしね」 量産されれば、間違いなくパワーバランスが崩れる。その前に、こちらの陣営を整え直す必要があるだろう。 そう言えば、とラウは心の中で呟く。 サハクの双子から聞かされたあの機体は、今、どうなっているのだろうか。 ストライクを始めとした地球軍の試作機を作り上げたのはモルゲンレーテだ。その技術で作られた機体に、キラが作り上げたOSが乗せられれば……それこそ、オーブは強大な力を得ることが出来るだろう。 それは悪いことではない、と思いたい。 だが……と心の中で誰かが警鐘を鳴らすこともまた事実だ。 それでも、ムウやウズミ達がいれば何とかしてくれるだろう。 「無事にあの子が戻ってくることを期待するしかないか」 無意識のうちにこんな言葉が唇からこぼれ落ちる。 「そうだねぇ。僕も久々にあの子とお茶をしたいしね」 この言葉をしっかりと聞きつけたのだろう。バルトフェルドも笑いながら言葉を返してくる。 「その前に、あれを何とか出来ることを期待しよう」 さて、作戦を考えようか。こう付け加える彼にラウも頷き返した。 「……何で……」 自分自身によほど自信を持っていたのだろうか。目の前のモニターを見つめながら、シンが呆然呟いている。 「そりゃ、経験の差、だろう」 自分だって、豊富と言うほどではない。だがそれを補うかのように、キラ達が一生懸命鍛えてくれた。だからこそ、戦場で死ぬ確率が減ったのだが……それでも皆無ではないのが悔しい、とラスティは心の中で付け加える。 「お前も、確かにそれなりに使えるけどな……それはあくまでもデーター上のもので、実践で培ったものじゃない。そう言うことだ」 口で言うと一言だ。だが、その差は果てしなく大きいだろう。 「俺だって……」 ザフトに入れば……とシンは口にしようとする。 「……シン君……」 「そんな考えなら、間違いなく死ぬよ、君は」 マリューが何かを口にしようとした。だが、それよりも早くキラがこう言い切る。そうすれば、シンが忌々しそうにキラを睨み付けた。 「きっついな、キラは」 そんな彼の瞳からキラを隠すかのようにムウが位置を変える。 「まぁ、俺もそう思うがな。ちょっと甘やかしすぎたか、マリュー?」 そして、苦笑混じりにこう付け加えた。その言葉の中にミゲルが自分に対して小言を言うときのような甘いものをラスティは感じていた。と言うことは、この二人の間には、そういう関係があると言うことだろう。 「君は戦場に出ることを考える必要はない。大切なのは、オーブを守る事じゃないのか?」 そんな空気を壊すかのように、キラは淡々とした口調でこう告げる。 「大切な者を守る。そのために何をするかは、個人個人違って良いはずだしね」 それは正論だろう。だが、相手がそれで納得したかどうか、というのはまた別問題らしい。忌々しさは消えたが、悔しさを隠すことなく、彼はキラを見つめている。 「ところで、どうだった?」 その視線を無視して、キラがラスティに問いかけてきた。 「……パワーゲージは良いけどバランスが今ひとつかな? OSで何とかなるレベルだと思うけど……」 実際、キラが作ってくれたものでは彼らが予想していた以上の性能を引き出せたらしい。だが、自分たちが手を出していいものか、とラスティも思う。 「そっか……う〜ん……」 だが、キラは何かを考え込んでいるかのような表情を作った。その後に続く言葉が怖い、とラスティは思う。 「……ミナさん」 にっこりと微笑みを浮かべると、キラは背後にいる彼女に視線を向ける。 「後で、あれに乗せてください。ギナさんと実地をしてみたいのですが」 どうせ、彼も関わっているのだろう、とキラは付け加えた。 「……いっちゃったよ、本気で」 こうなるんじゃないか、とは思っていたが、実際に耳にしたくはないセリフだった、とラスティは思う。 「キラだからなぁ」 それに同情するかのように、ムウがラスティの肩を叩いてくれた。 バリエーションが多そうなのはカラミティかなっと。MSVでもあれこれでているので。 シンは、どう見ても経験不足の上に実践とシミュレーションの差がわかっていないでしょう。と言うわけで、今回はラスティの勝ち、です(苦笑) |