「地球の気候というのは……侮れないものだな」 話には聞いていたが……とアスランは小さくため息をつく。 「そうですね。それと、地面の状況ですか? バクゥが開発された経緯も理解できますね」 確かに砂の上では二本脚より四本脚の方が効率が良さそうだ、とニコルも同意を見せた。 「その上……キラが構築したらしいOSだしな、あれに積まれているのは」 機体が元々持っている性能を十二分に引き出すことが可能だろう、これなら……とアスランは付け加える。 「だから、ここでもキラさんの人気が高いのですね」 そこまではわからなかった……と口にしながら、ニコルが頷いた。 どうやら、彼はバクゥのOSを見てもキラの癖を発見できなかったらしい。 しかし、それも無理はないだろう、とアスランは思っている。あれのOSはイージスを始めとしたクルーゼ隊が使っているものとは違って、キラの癖が極力排除されているのだ。幼い頃からそれを飲み込んでいるアスランも見逃しかねないほどにしか残っていなかった。 「その恩恵にあずかっている身としては……迂闊なことは出来ないな」 でなければ、キラの人気を失墜させてしまうことになりかねない。 「そうですね」 既に危ないような気もしないでもないが……と、ニコルは苦笑を浮かべる。その視線の先にはイザークとディアッカの姿があった。先ほどミゲルが注意をしていたが、彼らにそれなりの意味を持っているのかどうかわからない、とアスランは思う。 ディアッカは、まだ信頼できるかもしれない。 問題なのはあくまでもイザークなのかもしれないが……と考えれば、ため息が出てしまう。 「アスラン?」 どうかしましたか、とニコルが問いかけてきた。 「……キラがいてくれればいいのに……と思っただけだよ」 まさかイザークに対する不満を口にするわけにはいかないだろう。そう思って、曖昧な表情のままアスランはこう告げる。 「そうすれば、もっと早く、実戦……とは行かなくてもテスト運行ぐらいは出来るだろうに、と思っただけだ」 結局、頼ってしまうことになるが……とアスランは眉を寄せた。 「そうですね。キラさんがここにいらっしゃれば話は早いのでしょうが……その分負担を増やすことになるでしょうね」 出来れば、彼が戻ってくるまでに自力で何とかしたいのだが、というニコルの言葉にアスランもまた同意をする。そして、そのまま視線をストライクへと向けた。 それはここにいない主を待つかのようにデッキの端でひっそりと佇んでいる。 あれが再び、本来の色を取り戻すときが早く来ればいいのに……とアスランは心の中でこう付け加えた。 地上から見る、あの青い空の下でなら、あの鮮やかな色合いはさらに映えるのではないだろうか。 本来であれば、武器であるMSにそんな感想を持ってはいけないのかもしれない。だが、キラが搭乗している、というだけでアスランの中でストライクは特別な存在として認識されてしまうのだ。 そんな自分に、アスランは自嘲の笑みを禁じ得ない。 「向こうでも、元気でやっていてくれればいいが……」 キラの微妙な立場を思い出して、アスランはこう呟く。 「大丈夫ですよ。ラスティが張り切って付いていきましたし……元々、あちらの方でしょう? フラガさんを含めて、味方がたくさんいらっしゃるのではありませんか?」 だから、心配しない方が良い、とニコルは口にする。 「そう、だな」 キラのことだから、きっとあの地にも味方がたくさんいるだろう。だが、その中に今、自分がいられないことが悔しい。そう思ってしまうアスランだった。 目の前にあるものを見て、キラは思わず目を丸くしてしまった。 「……ストライク?」 ラスティが小さな声でこう呟くのがキラの耳にも届く。 「いや、違う。確かに、同じコンセプトで設計されたものではあるがな。まぁ、フレームを設計した人間が同じである以上、似ていると言われても仕方がないかもしれん」 ただ、これにはPS装甲は組み込まれていないのだ……と何処か悔しそうにミナが付け加える。 「……それでも……」 こんなものを作ってしまうなんて……とキラは口の中だけで呟いた。 「仕方がないな。MSがザフトだけの物であれば我々も妥協したが……地球軍も既に実践に投入しているらしい」 しかも、それを動かしているパイロットのほとんどがナチュラルに対する忠誠心を刷り込まれたコーディネイター《ソウキス》だという。 一応は聞かされていた事実ではある。だが、改めて聞かされれば嫌悪が浮かんでくる。 「その上、人体改造か……地球連合って言うのは……」 うめくようにラスティが呟く。だが《ナチュラル》ではなく《地球連合》と口にしたところに、彼なりの気遣いが見えた。 「奴らにとって見れば、国家が大切なのだろうな」 人はそれに付随する物。だから、国さえあれば後から付いてくるものでもある、とミナが忌々しそうに呟く。 「だが、我々は違う。そして、プラントも、そうだろうな。ただ、我々とプラントでは《人》に関する認識が微妙に違うだけだが」 それは乗り越えられない障壁ではないだろう、と彼女は続ける。 「そうですね。どうやら、ヴェサリウスの中では、ムウ兄さんやカガリのおかげで、ナチュラルに関する認識が変化してくれたようですから」 第一、他にもナチュラルを認めてくれる人々もあそこにはいるのだ。だから、きっと分かり合える、とキラは信じたかった。 「ところで……ムウ兄さんに関わる面白い物って、あれですか?」 話題を変えようかとキラはこう口にする。 「それは……あぁ、今来たな」 くすり、と笑いを漏らしながらミナが視線を移動させた。そうすれば、視線の先にこちらに向かってくる数名の人影が確認できる。 「……こちらだ、マリュー」 その中の一人にミナが呼びかけた。そうすれば、メンバーの中で一番年長と思われる女性がこちらに向かって小さく頷いてみせる。そして、他のメンバーを促して歩み寄ってきた。 「はじめまして。マリュー・ラミアス、ですわ」 柔らかな微笑みと共に、彼女はこう告げる。しかし、その立場がわからない以上、キラはどう反応を返すべきか悩んだ。 「ムウの、恋人で……これらの機体のテストパイロット達の掌握をしてくれている女性だ」 開発は別の相手だが……とミナが、そんなキラに向かって説明の言葉を口にしてくれた。 「そうですか。はじめまして。キラ・ヤマトです。こちらは、僕の同僚のラスティ・マッケンジーです」 ムウが選んだ存在であれば、自分たちに対する偏見はないだろう。そして、自分に関する知識もそれなりに持っているはずだ。そう判断をして、キラは言葉と共に手を差し出す。 「よろしくね」 そうすれば彼女もまた同じように手を差し出してくれた。柔らかなそれを握りながら、キラは自分に突き刺さってくる視線を感じている。 誰だろうと思いながら視線を向ければ、彼女の背後にいる、自分たちとそう代わらない年代の一人の少年に行き着いた。 「あぁ、紹介させて頂くわね。この四人はあの機体のテストパイロット達なの。彼はあなた方と同じコーディネイターで、シン・アスカ。他の三人はナチュラルで、アサギ、ジュリ、マユラよ」 もっとも、と彼女は眉を寄せる。 「残念なことに、現在あれらの機体を十分に動かせるのはシンだけなのだよ。OSの問題だとは思うが……」 その後を受けて、ミナがこう言って苦笑を浮かべた。 「……補助システムがあれば、あるいは……とは思いますけどね」 まだそれを開発できないでいる、という言葉に、キラは彼女たちが何を言いたいのか想像が出来てしまう。だが、それをしていいのか、キラは判断に悩む。 「……マリューさん」 その時だ。キラの悩みを吹き飛ばそうとするかのようにシンが口を開く。 「シミュレーションでかまいません。そいつと戦わせてください」 彼の言葉に、キラに対する憎しみのような物が見え隠れしているように感じるのは錯覚だろうか。 「シン!」 「その前に、俺とやらない? キラは俺より強いんだし……それで勝てない奴が向かっていっても意味はないだろう?」 それに、あの機体に興味もあるし……と口を挟んできたのはラスティだ。 「マリューさん?」 彼の言葉にプライドを傷つけられたのだろう。シンはマリューへと詰め寄る。 「……他の方々からも許可を取ってから考えましょう……」 仕方がない、と言うように彼女はため息をつく。 「ラスティ……」 「訓練、訓練……あれのデーターをもらったら、OSの修正よろしく」 こう言って笑うラスティに、キラもまたため息をついた。 シン登場です。いや、この後どう絡めようか(^_^; ネタは出来ているのですが、未だにシンの性格が掴めていないので……まぁ、ねつ造だし、こちらは……いいことにしよう、うん。 |