久々に、ミゲルとラスティは自分たちに与えられていた部屋に戻っていた。
「……こうなると、チャンスは限られてくるってことだよな」
 荷物を整理していたときだ。
 ミゲルの耳に、ラスティのこんなつぶやきが届いた。
「お前……まだ、あきらめていなかったのか?」
 それが何を指しているのか、ミゲルにも当然わかる。
「悪いか?」
 そんな彼に対して、ラスティは平然と言い返してきた。
「初志貫徹! それが俺のモットーの一つなんだけど」
 さらに付け加えられた言葉に、ミゲルはあきれたようにため息をついてしまう。
 そう言えばそうだった、とついでのように心の中で呟いた。
 よく言えば、勇猛果敢。
 悪く言えば、猪突猛進。
 もっとも、自分たちの関係はそんなラスティの性格があったからこそ始まったのだ。今になってしまえば、それはよかったのだと思える。
 だが、キラもそうだと考えてくれるとは限らないのだ。
「キラのあの時の表情って、マジでそそるんだよな」
 くすり、と笑いながらラスティはこう呟く。
「なんか……俺がお前を満足させていないみたいだな」
 そんなことを考えているなんて……とミゲルはわざとらしいため息をついて見せた。間違いなく、あとからキラにそう言われるだろう、と言うこともわかってしまう。
「そんなことはないけどな。ミゲル以外としたいって思わないし、俺」
 キラとだって、最後までする気はないのだ……と彼は主張をする。
「第一、それをたきつけたのはミゲルじゃん」
 元はと言えば、と彼は付け加えてきた。
「そうなんだけどなぁ……お前が浮気するとは思っていなかったんだけどさ……やっぱ、俺の目が届かない場所だし……だったら、キラが一番マシカナって思ったのは否定しないが」
 それが、今まで尾を引くとは思わなかったのだ、とミゲルははき出す。
「第一、何にでも刺激は大切だとは思わない?」
 マンネリは油断を招くよな、とラスティは笑う。
「油断も何も……キラを本気で怒らせる方が俺としては怖いんだが」
 マンネリからくる油断であれば、いくらでも打開策はある。と言うよりも、それができなければ既に自分は宇宙の藻くずになっていたかもしれない。
 だが、キラを怒らせれば、確実に厄介な事態が自分たちの上に振ってくるのではないだろうか、と思う。
 いや、この前の会話を思い出せば、あるいは……という気がしないわけでもない。
 しかし、キラが明言をしていない以上、それは逆の意味を持っている可能性もあるのだ。
「大丈夫だと思うけどなぁ」
 キラはきっと受け入れてくれると思うけど……と言いきれる根拠は何なのだろうか。それとも、実はラスティもこっそりとキラとそう言う話をしていたのかもしれない。
「……お前って、実は結構運だけで世の中を渡っているタイプか?」
 それが悪いとは言えないけが、いつか地雷を踏むのではないか……とミゲルは不安になる。
「知らなかったのか?」
 こう言うと、ラスティがミゲルに歩み寄ってきた。
「ラスティ?」
 何だ、と言うようにミゲルは彼へと視線を向ける。そうすれば、ラスティはにちゃっと笑う。 「じゃ、お裾分けしてやるよ、俺の運」
 次の瞬間、彼の唇がミゲルのそれへと重なってきた。

「思ったより……荷物が増えちゃったね」
 同じように荷物を整理していたキラが、小さくため息をついたのがアスランにはわかった。
「増やさないようにしていたのに」
 さらに付け加えられた言葉に、
「仕方がないさ。カガリやおばさま達があれこれ持たせて寄越したんだろう?」
 とアスランは言葉を返してやる。
「そうなんだけど……でも、こんなに、ヴェサリウスに持って帰れないよ」
 かといって、捨てていくわけにもいかないだろう、とキラは呟く。
「どこかに送り返すか?」
「それも考えたんだけどね……オーブに送るのは難しいし、あとがうるさいかなって思うんだ」
 特にカガリが、と言う言葉に、アスランもうなずき返す。
「どうして自分が贈ったものを、とか言いそうだよな、カガリなら」
 しかし、持って行くのが難しいのであれば、どこかに送りつけるしかないだろう、とアスランは思う。
「本国は?」
 あそこであれば、ここから荷物を送ることもできるだろう、とアスランは言外に告げた。
「受け取る人がいないよ」
 そうすれば、キラは手を止めてアスランに視線を向けてくる。
「僕も、ラウ兄さんも……結局はヴェサリウスが家みたいなものだからね」
 休暇でもなければ家には誰もいないのだ、とキラは口元に苦笑を刻んだ。
「……仕方がない……アイシャさんに相談をして……」
 誰かに引き取ってもらうよう手配をするしかないか、とその表情のまま彼は言葉を重ねる。
「なら、家に送る?」
 本当は手放したくないのだろう。アスランはその表情からキラの気持ちを読み取った。だから、こう問いかける。
「キラの荷物であれば、父上も文句を言わないよ」
 その方がいいだろうとアスランはキラに提案をした。
 もちろん、それはキラを喜ばせようと思ってのセリフだというのは否定しない。同時に、少しでもキラを喜ばせたかったというのも事実だ。後々のことを神庭得れば、そうした方がいいだろう、とも。
「……でも、迷惑をかけるんじゃ……」
「そのくらい何でもないって。部屋だけはあるからね」
 しかも、誰も使っていない……とアスランは付け加える。その言葉に、キラは小さく首をかしげた。
「アスラン……」
「……父上はアプリリウスだし、俺もキラと一緒だからね。だからいいんだよ」
 こう言えば、キラはかすかに微笑んでみせる。
「ところでアスラン」
 だが、それはいつもの表情へと変化していった。
「何?」
 その裏に何かまずいものを感じてしまう。
「僕に、何か隠している?」
 キラのこの言葉に、アスランはどう答えるべきか悩んでしまった。






あきらめていなかったのか、ラスティ……と言うことですね。
アスランはアスランでまずい状況だし。
さて、どうなりますでしょうか(^^;