微妙な人間関係と雰囲気のまま、それでも時間は進んでいった。
「……まぁ、これで大丈夫じゃないかな?」
 本来の目的であったストライク以下五機の地上での適応テストも終了したし、アストレイの方も、それなりのデーターの蓄積ができた。
 また、キラ拉致事件に関してもそれなりに調査が進んだ、と言っていいのだろうか。
「地球軍のマザーに侵入しないと……これ以上は無理ですよね……」
 キラが小さくため息をついて手を止める。そして、確認を求めるかのように振り向いた。
「今は、そこまで必要ないんじゃないかな?」
 それに言葉を返してきたのはバルトフェルドだ。
「そうネ。ここまでわかれば十分。後は、別のつても使えばいいもの」
 アイシャもうなずいてみせる。
「それに、これ以上、キラちゃんをここに縛り付けておけないものネ……本音を言えば、ずっといてもらいたいんだケド」
 ラウが手放すわけはないし……それ以上に、アスランの様子を見ていれば、引き離すのはかわいそうだものね……とアイシャは笑う。
「そう言えば、あの部屋に後二人いるんでショ? いいの?」
 不意に声を潜めると、彼女はこう囁いてきた。
「何のことでしょう?」
 しれっとした口調でキラは言い返す。
「ミゲルもラスティも、結局は同じ穴の狢ですから……というのは脇に置いておいても、今のところ、そう言う気持ちにはなれません」
 第一、している時間もない、とキラは付け加える。もっとも、それはそれでありがたいのだが、とは口に出さない。でなければ、絶対ラスティがあの言葉を実行に移すに決まっているのだ。
 ミゲルには一応釘を刺しておいたが、どうなることか。
 それも悪くはない、と思っている自分がいることもキラは否定しない。
「あら、そうなの?」
 それじゃダメでしょう、と彼女はまるで茶者猫のような笑みを口元に浮かべた。
「そう言う意味でのコミュニケーションも大切でショ? 恋人同士ならなおさらネ」
こういう点も彼女の魅力なのだろう。だが、今はちょっと……とキラは心の中で呟く。
 アスランのことだけならいいのだ。
 もう一人、シンのことも考えれば、あまりうかつなことをして彼を重来たくないかもしれないとも思う。
 恋情ではない。
 それはわかっている。
 だが、それでも彼の存在を無視できないのはどうしてなのだろうか。
 そして、彼の前ではあまりアスランといちゃついてはいけないような気がしてならないこともまた事実だ。
 あるいは、彼が離れていくのがいやなのかもしれない、とキラは思う。
 それは、彼が初めてあった自分と同年代の《オーブ籍の第一世代》だからなのかもしれない。
「アイシャ、そこまでにしておきなさい」
 苦笑混じりにバルトフェルドが声をかけてきた。
「キラからその時間と気力を奪っているのは僕たちだろう?」
 もっとも、それも今日までだが……と彼は付け加える。
「そうなんだけどネ」
 だからといって……と彼女は小さくため息をつく。
「それに、僕たちだって、そっちの方面のことで周囲からあれこれ言われたくないだろう?」
 それとも、みんなに知られたいのか……とバルトフェルドがからかうように口にすれば、アイシャは仕方がないというようにため息をついてみせる。
「わかったワ」
 これに関してはここまでにしておきましょう、と渋々ながら口にしてくれた。その事実に、キラは少しだけほっとする。
 どうせ彼女のことだ。
 この程度で終わるわけがないことはわかっている。それでも、この場でこれ以上話題にされないのはありがたいと思う。
「では、僕はクルーゼ隊長の方に戻ります」
 こう言いながら、キラは腰を上げる。
「あぁ、待ちなさい。今誰かを……」
「たぶん、外にシン君がいると思いますので」
 彼が一緒であれば、大丈夫ではないか……とキラは微笑む。あるいは、バルトフェルド隊の誰かも一緒かもしれないとも。
「確認してくるわ」
 ちょっと待っててね……と身軽にアイシャが移動をする。その後ろ姿を見送りながら、キラは困ってしまう。
「この基地内で、これ以上、君に危害を加えられるのは、僕がバカされていることと同じだからね」
 だから、妥協してくれるかな、とそんなキラに向かってバルトフェルドが苦笑を向けてきた。
「そう言うわけではなく……ただ、本来であれば僕がするべき役目だな、と思っただけで……」
 女性を守るのが男の役目なのに……とキラは呟く。
「だからだよ。アイシャとしては、守られるよりも守りたいと思っているらしいからね」
 そう言う女性もいるのだとバルトフェルドは笑う。
「それも、わかっているつもりだったのですけどね」
 ミナもそう言う人間だし……とキラは旧知の相手を思い出しながらうなずいた。
「ただ、僕としては……」
「たまにはいいんじゃないかな?」
 お姫様役でいるのも……と切り替えされて、キラは内心むっとしてしまう。だが、彼に悪気がないだろうと言うことはその表情からもわかった。だからこそ、厄介なのだ、とも思う。
「君の場合、ナイトはもちろん、王子様役に立候補するものも多そうだしね」
 そのセリフは何なのかと思う。
「僕は、自分で王子様役をやりたいんですけど」
 言っても無駄だろう、と思いつつ、それでもこう主張しておく。
「それは他の機会でいいんじゃないのかな?」
 ほら、王子様候補が来たよ……と彼は笑いながら視線を移した。そこには、アイシャとともに歩いてくるシンの姿がある。
「キラさん、もうよろしいのですか?」
 口元に笑みを浮かべて駆け寄ってくる彼の様子は、言葉は悪いが子犬のようだとも思う。だから、突き放せないのかもしれない。
「ここでの仕事はね。後は、またあちらに、戻って機体のチェックかな」
 あるいは模擬戦闘を行ってもいいかもしれない、とキラは心の中で付け加えた。ラウに話せばきっと許可をもらえるだろう。もっとも、ついでとばかりにバルトゲル度が乱入してきそうな気もするが。
 こんなことを考えながら、キラは視線をバルトフェルドに戻す。
「では、僕はこれで」
「了解。ご苦労さんだったね」
 この言葉を合図に、キラは彼の前から辞した。





こういうことを聞けるのはやはりアイシャだけでしょう(苦笑)
さすがは、バルトフェルド隊最強キャラです。