クルーゼ隊の面々に割り当てられている控え室に、残りの三人も姿を現した。だが、目の前の光景には、さすがに絶句しているらしい。
「何なんだ、あれは……」
 何と言っていいのかわからない、と言う表情でイザークがこう呟く。
「まぁ、あの二人はそう言う関係ですし……」
 こんな事態があったばかりなのだから、仕方がないのではないか、とニコルはフォローの言葉を口にした。
「だよなぁ……俺たちのことはともかく、どこにまだ何が潜んでいるのかわからないんだし」
 ああしているのが一番安全なんだろう、と言うこともわかる……とディアッカもうなずいている。
「だからといってだなぁ!」
 しかし、イザークには納得できないらしい。
 それも無理はないのではないだろうか……とニコルは小さくため息をついた。確かに、あれはやりすぎではないか、と思うのだ。
「あきらめろ」
 そこに、ラスティが口を挟んでくる。その隣では、ミゲルが口元に苦笑を張り付かせていた。
「あれでも、マシになった方なんだからさ」
 どこか疲れ切った口調でこう告げたミゲルの様子からすれば、かなりのインパクトがあったのではないだろうか。
「だからといってだなぁ!」
「隊長も、好きにさせておけ……と言っていたしさ」
 イザークのセリフをミゲルはこの一言であっさりと封じ込めた。
「そうそう。キラも動けるようになったんだし……任務に支障がないんだから放っておけって」
 あれが一番、確実にキラの身を守れると判断されたんだし……とラスティも付け加える。
「独り身のお前らにとっては視力の暴力だってことはわかっているけどな」
 俺たちだってそう思えるんだから……と言う言葉がイザークの矜持を刺激したのだろうか。思い切りむっとした表情を彼は作っている。
 しかし、ラスティは気にする柚須を見せない。
 あるいはわかっていてやっているのかもしれないな、とニコルが心の中で付け加えたときだ。
「……アスラン……」
 キラの声が彼らの耳に届く。
 その後に続く言動を興味津々で確認しようとしたとしても彼らに罪はないのではないだろうか。
「何だ?」
 キラの体を抱きしめたまま、アスランが聞き返す。
「ちょっと、モニターが見えにくいから……壁になって」
 キラが顔を上げることなくこう告げた。
「仕方がないな、本当に……」
 そんな彼に対し、アスランはふっと微笑む。そして、キラを膝に乗せたまま、体の向きを変えた。
「……何か、ものすごくばかばかしい光景を見たようなきがするんですが……」
 ニコルはこう呟く。
「だから言っただろう? 放っておけ……って」
 ミゲルの言葉に、これほど真実みを感じたのは初めてかもしれない。ニコルはこう考えていた。

「……どうやら、地球軍とブルーコスモスの間では意思の疎通ができていないようだね……」
 バルトフェルドがいすに腰を下ろしながら襟元をくつろげる。
「そのおかげで、今回は助かったわけですな」
 ラウはそんな彼にこう告げた。
「ブリッツの機能を知られずにすんだわけですから」
 でなければ、こんなにあっさりとキラ達を取り戻すことは不可能だったろう……と。
「そうなんだけどねぇ……何か引っかかるんだよ」
 はっきりとは言えないのだが……とバルトフェルドは呟く。
 それは明確な根拠があるものではないのだろう。しかし、そう思える何かがあるのだ、と言うことをラウにもわかっていた。
 戦場で生き抜いてきた者の中でも一部のものしか手に入れられることができない《勘》と言うものだろう。
「同感です」
 ある意味、自分もそれを抱いていたのかもしれない。ただ、それを自覚していなかっただけなのだが、とラウは心の中で付け加える。
「あるいは……」
 そして、自分の中でも明確な確証があるとは思えない仮説を口にし始めた。
「あの子をほしがっていたわけではなく……我々に注意を促していただけ、かもしれませんな」
 それは、ブルーコスモスの中に離叛者がいると言うことなのだろうか。
 可能性は限りなくゼロに近いのだが、そうとしか考えられないこともある。
「そうであれば……今回の稚拙さも納得できるか……だからといって、許せるわけではないがな」
 地球軍にいたコーディネイター、そして医療兵達の命を軽んじられたのだから……と彼はうなるように呟く。その気持ちはラウにもわかる。
「……結局は、目的以外の存在は捨ててもかまわない道具だ、と言うことでしょうね」
 でなければ、あんなにあっさりと使い捨てにできるわけがない。それはこちらに潜入していたものにも言えることだろう。
「本当に気に入らないね」
 自分たちの手が届かない場所でそんなことが行われていている……と言うことは。バルトフェルドのつぶやきに怒りがにじんでいる。
「なら、それを邪魔してやればいいでショ」
 不意に華やかな声が二人の耳に届く。
「私としても、きちんと借りを返さないと気が済まないもの」
 危なく握りつぶされそうになったんだから……とアイシャは凄艶な笑みを浮かべている。
「そうだねぇ……でも、難しいと思うよ?」
「あら、心配しないで。私が勝手にやるから」
 それならかまわないでショ? とアイシャはさらに笑みを深めた。
「ただ、施設だけは貸してね?」
 その許可だけが欲しいの……と彼女は甘えるように口にする。でなければ、他の場所に行ってでもやるわよ、とも。
「君にいなくなられるのは困るね」
 いろいろな意味で、とバルトフェルドは笑い返す。
「そう言うことだからね、クルーゼ隊長?」
「聞かなかったことにすればよろしいのですかな? それとも、応援が必要でしょうか」
 どちらが必要なのか、とラウは微苦笑とともに問いかける。
「とりあえず、黙認していてくださる?」
 あれこれと、とアイシャは意味ありげな口調で言葉を返してきた。
「うちのパイロット達に被害が及ばないのであれば」
 とくにキラとアスランに……とラウは心の中で付け加える。今回のことで一番衝撃を受けているのはあの二人だろうから、とも。
「あら……残念ね」
 しれっとした口調でアイシャはこう言い返してくる。と言うことは、そのつもりだったのだろうか。
「……あの子達のフォローを考えなければいけませんからね」
 だが、それを表に表すことなく、ラウはこう言って苦笑を深めるだけにとどめていた。





イザークがあきれていますね、本気で……
こんなやつをライバル認定してよかったの、本当に(苦笑)