「どうやら、怪我はないようですね、二人とも」
 ドクターがこう言ってくれる。しかし、彼らが診察を受けた場所はいつもの医務室ではなかった。その事実に、キラはかすかに眉を寄せる。
「そうネ。ひょっとして、ドクターの方が重病人?」
 軍服の間から見え隠れしている包帯を見つめながら、アイシャがこう問いかけた。
「私は幸い擦り傷だけですみましたが……爆弾を埋め込まれた者は……」
 その言葉の後を彼は飲み込む。どうやら、彼にとっては敵味方関係ないらしい。ただ『怪我人を救えなかった』と言うことに憤りを感じているらしい彼に、キラは好感を抱いた。
「それにしても……地球軍にとって、コーディネイターはただの道具なのでしょうか……」
 あんなことをされれば、当然生きてなんていられないだろうに……と彼は顔を曇らせる
「……わからないわ……でも、その可能性があるからこそ、私たちはこうして戦っているんじゃないのかしら?」
 違う、とアイシャが彼に問いかけた。
「そうですね……コーディネイターもナチュラルも……同じ人間である、と認めてくれるだけでいいのに……」
 そうすれば、こんな風に戦争を起こさなくてもすんだのではないか。キラはそう思う。
「だから、がんばって勝たないとね?」
 この戦争を……とアイシャが微笑む。
「そうですね」
 本当は戦争になんて関わりたくはない。だが、自分たちの未来を掴むためには仕方がないだろう。もし、ザフトが地球軍に破れることになれば、最悪の事態がプラントにだけではなくオーブにも及ぶに決まっている。
 それがわかっているからこそ、自分は自らの手を汚すこともいとわなかったのだ。
 キラは心の中でそう呟く。
「それにしても……彼らは一体どんな扱いを受けてきたのかしらネ」
 そして、それをどう思っていたのだろうか。アイシャはため息とともに告げる。
「……わかりません……あるいは、疑問すら持っていなかったのかもしれませんね」
 そのように育てられれば……とキラは付け加えた。
 月にいく前の自分がそうだったのだ。
 アスラン達と出会うまでは、コーディネイターである自分は、オーブのためだけに生きなければいけない。家族を除く周囲の者達からそう教え込まれていたのだ。
 父や母、それにウズミ達は『そんなことはない』と言ってくれた。
 だが、他の者達がそんな風に生きている以上、自分もそうするべきなのではないか、と思っていたこともまた事実だった。
 しかし、アスランがそうではないと教えてくれた。
 確かに、果たさなければいけない義務はある。
 だが、同じように自分らしく生きていてもいいのだ、と彼は行動で教えてくれた。
 その経験がなければ、自分も彼らと同じように生きていたかもしれない。
 こんなことを考えていたときだ。
「キラ!」
 いつもの余裕はどこに行ったのかわからない様子のアスランが飛び込んでくる。
「アスラン」
 ふわっと微笑めば、彼の腕がキラの体をきつく抱きしめてきた。

「……やっぱり……と言っていいのかな?」
 控え室に戻ってきた瞬間飛び込んできた光景に、ラスティはこう呟く。
「何が、だ?」
 そんな彼の耳に、どこか疲れ切ったミゲルの声が届いた。視線を向ければ、げんなりとした表情の彼が確認できる。
「アスランが暴走しているだろうな、って思ってただけだよ」
 自分が直接キラを助けにいけなかったから……とラスティは苦笑を浮かべた。
「ついでに、ミゲルがものすごく疲れているようだからさ」
 大変だったんだろうな、と思っただけ……と付け加えれば、ミゲルが抱きついてくる。
「大変だった……なんてもんじゃねぇよ……」
 本気でいっぺん、締めてやろうかと思った……と彼はラスティの肩に額を押しつけたまま呟く。
「そりゃまた……」
 実際にキラを救いにでていた自分たちとどちらが大変だったろうか。そんなことすらラスティは考えてしまう。
「ご苦労さん……」
 後でサービスしてやるから……とラスティは彼の耳元で囁く。
「それに……どうせなら、あいつらも巻き込んでしまおうぜ」
 今回の借りを返させるためにも……とラスティはさらに声を潜めて付け加えた。
「……おい……」
 さすがにこれは予想していなかったのだろう。ミゲルははじかれたように顔を上げると目を丸くしている。
「キラのさ……あの時の表情って、すごく可愛いんだよな……」
 くすり、と笑いながらラスティは白状をした。それにますますミゲルの目が丸くなった。
「お前……マジで実行したのかよ」
 そりゃ、たきつけたのは俺だけど……とミゲルはため息をつく。
「だってさ……やっぱ、な……」
 寂しかったし、とラスティが口にすれば、
「いいけどな。それだけ、お前に余裕はあったってことだろうし……」
 キラ相手では最後まで言っていないだろうから……とミゲルはさらにため息をはき出した。
「だけど、アスランの説得は難しいぞ」
 キラなら何とでも言いくるめられるが……とミゲルは囁いてくる。
「だから、キラの方から籠絡すればいいじゃん」
 キラもアスランについて微妙に怒りを感じているようだし……とラスティは思う。だから、言いくるめればいくらでも協力をしてくれるのではないか、と主張をする。
「結局、いつもの組み合わせになるんだしさ」
 たまには刺激的でいいんじゃないのか? と笑う。
「だな……キラを言いくるめるか……」
 どうやら、ミゲルも開き直ってくれたらしい。これなら、大丈夫だろう……と、ラスティは心の中で付け加えた。





キラも罪作りな……こうして、アスランはますます暴走することに(苦笑)
そして、もう一人暴走中の男が……いいのか、ラスティ。
楽しいからいいことにしましょう、うん