室内に入ってきた相手にラスティは警戒を隠せなかった。
 キラの知人であることは間違いはない。そして、フラガ達が入室を許可したのだからキラに危害を加える相手ではないこともわかっていた。
 それでも、瞳の奧に見え隠れしているものが素直に相手を信じることをさせてくれないのだ。
「ミナさん!」
 だが、キラがこう呼びかけた瞬間、相手の瞳が柔らかい光を帯びる。
「元気そうで何よりだね、キラ」
 そして、その唇から出たのは柔らかな声だった。それで、ラスティにも相手が女性であるとわかる。
「みんながいてくれますから。今回も、ムウさんがいるから心配いらないって言ったんですけど、ラスティに付き合って貰うことになりましたし」
 ラスティの驚愕に気がついたのか。それとも、彼女の表情から何かを読みとったのか。キラはさりげなくこう口にする。
「そうか。ロンド・ミナ・サハクという。キラとは……そうだな、従姉みたいなものだ」
 よろしく、と微笑んだ彼女の言葉にラスティは内心焦る。  サハク家と言えば、キラ達のアスハ家と並ぶオーブ首長家のはずだ。そんな相手がキラとここまで親密にしている――ムウ達公認らしい――と言うことは、特別な理由があるのかもしれない。
「はじめまして。ラスティ・マッケンジーともうします。こちらではキラにくっついていますので、お見知りおき頂ければ幸いです」
 こう言うときは笑顔だ。そう判断をして、ラスティは控えめなそれを浮かべると自己紹介の言葉を口にする。
「ふむ……アスランではないが、どうやらムウとラウ、それにアスランの公認の相手のようだな」
 なら、信頼させて貰おう……と彼女は意味ありげな表情で微笑む。
「ミナさん……そう言えば、ギナさんは? 先ほどは、一緒にいらしていたようですけど」
 それを感じ取ったのだろう。キラはさりげなく話題を変えようとこんなセリフを口にした。
「あぁ。ウズミの所だ。先ほどの一件が気になったらしい」
 状況次第では、自分たちも動かなければいけないだろう、と彼女は付け加える。
「ミナさん?」
「オーブ首長家にコーディネイターを排斥したい者がいるのであれば、私達も人ごとではないからな」
 そうだろう、と告げられた言葉から、彼女たちもコーディネイターなのか、とラスティは推測をした。それを確認するようにさりげなく視線をキラに向ければ、彼は小さく頷いてみせる。つまり、ラスティの推測はあたりだ、と言うことなのだろう。
 だが、同時にオーブという国家の奥深さに恐怖すら感じてしまった。
「今回のことに関しては我々にも責がありそうだしな」
 そうである以上、キラの身柄を守るのは自分にとっても義務だ、と彼女は言外に告げてくる。
「……と言うことは、やはり僕たちが奪取したMSに関しては、サハク家も関わっていた、と言うことですね」
 アスハも……とキラはめを眇めた。
「否定しないよ。我々にしても、自分たちを守るための剣が欲しい、と思っていたし……地球連合との仲を、あの時点で最悪にするわけにはいかなかったからな。もっとも、あれを全て連中の手に渡したくなかった、と言うことも事実だ。だから……ラウに情報を流したのだよ」
 もっとも、これに関してはザフト上層部にはオフレコで頼む、とミナは小さな笑いとともも付け加える。
「それに関して、キラが動くであろう事は予想していたし、陰ながらフォローさせて貰ったつもりだ。ただ、あのじゃじゃ馬が動くとは私やギナはもちろん、ウズミも考えていなかった、というのは事実だが」
 そのせいで、キラに予想以上の負担をかけてしまった、と彼女は笑みに苦いものを含ませた。
「カガリを守ることも……僕の義務ですから」
 大切な相手だから、とキラは微笑む。
「ギナさんがミナさんを大切にされているのと同じ理由です」
「カガリも……同じ事を口にしていたよ。さすがにあのじゃじゃ馬も今回のことは堪えたようだ」
 良いことだ、とミナが呟く。
「それには、君たちの影響もあるようだからな。他の方々にはお会いできるかどうかわからないから、代表と言うことで謝礼を受けてくれるかな? ラスティ君」
 そして、この言葉と共に真っ直ぐにラスティを見つめてきた。
「自分たちは……ザフトの人間として当然のことをしただけです」
 例えナチュラルであろうと、民間人なら守らなければいけない。それが自分たちの義務だ、とラスティは口にする。
「そう思わないザフトのものも多いのだがな。ラウの教育が行き届いている……と判断させて貰おう」
 良いことだ、とミナは頷く。
「だが、実際にカガリに良い影響を及ぼしてくれたのは事実だ。だから、礼を言わせて貰おう」
 何かあれば、サハクの家の者はラスティを始めとしたクルーゼ隊のパイロットを快く迎え入れる、とミナは言い切った。
「ミナさん」
 これにはキラも驚いたらしい。目を丸くしている。
「何。次代を担うものを守ってくれたのだ。これくらい当然だよ」
 それに、万が一のことがないとは言えないからな……とミナは不意に表情を変えると口にした。
「あるいは……オーブも安全ではないかもしれん」
 悲しいことだが……と彼女は小さくため息をつく。その言葉の裏に、何か複雑な事情というものがあるような気がしてならない。だが、それを問いかけることは自分の役目ではないだろう、とラスティは判断をした。
「それに関しては……ミナさんやウズミ様達にお願いするしかないですね。僕は、現在、傍観者ですし……もっとも、祖国がなくなることだけは不本意ですけど」
「わかっている。ぎりぎりまで努力をするつもりだよ」
 キラの言葉にミナはまた柔らかな笑みを浮かべた。
「あぁ、そうだ。ここでは退屈だろう。少し私に付き合わないか?」
 おもしろいものを見せてやろう、とミナは口にする。
「ですが、勝手に出歩くなと……」
 第一、キラはともかく、自分は迂闊に出歩かない方が良いだろう、とラスティは思う。万が一のことを考えれば、なおさらだ。言い訳が出来ない状況になってしまえば、彼らに迷惑をかけてしまうだろうし、と。
「かまわんよ。どうせ、ここの敷地内だ」
 第一、自分が一緒であれば文句を言うものはいない……と言いきれる自信に、彼女の首長家の一員としての矜持が見え隠れしていた。
「それに、どうせムウも付き合うはずだからな」
 小さな笑いと共に彼女は視線をドアの向こうへと向ける。
「ミナさん?」
 彼女のその言動に、キラも疑問を抱いたのだろうか。小首をかしげている。
「付き合ってくれればわかるよ」
 楽しいものが見られると思う。こう付け加える彼女に、ラスティはどうしたものか、と言うようにキラを見つめる。
「……ムウ兄さんがいいと言ってくれるのでしたら、おつき合いします」
 その視線を受けながら、キラはこう口にした。





ミナ様登場。
アストレイキャラですね、彼女は。ギナもそのうち出てきます。
と言うわけで、オーブもなかなか複雑だ、と言うことで(^_^;