相手の驚愕が機体越しに伝わってくるような気がしてならない。 「だから、あなた方はうかつだ、と言うのですよ!」 もっとも、自分たちの機体の特性を完全に伝えていたわけではないのだから仕方がないのか。そうも思う。 だが、とニコルは目を細めた。 元々これらの機体は全て――モルゲンレーテの協力があったとはいえ――《地球軍》が開発をした機体だ。その情報をブルーコスモスが掴んでいないわけはない。 だが、目の前の相手はそれをしてなかった。 つまり、命令は与えられていても、それに関わるデーターまでは彼らの手には届いていなかった……と言うことだろう。 「結局、あなた方は使い捨ての道具だ、と言うことですよね」 ザウートの腕をブリッツで押さえつけながらニコルは口にする。 もっとも、相手も必死に振り切ろうと努力していた。このまま力比べをすれば、キラ達にきがいがおよぶかもしれない。それだけは何に置いてもさけなければいけないのに……とニコルが眉を寄せたときだ。 モニターの端から見慣れたカラーリングのマニピュレーターが現れる。 「イザーク?」 それがデュエルのものだ、と言うことにニコルは一瞬気が付かなかった。 『何をしている!』 しかもだ。その手にはしっかりとビームサーベルが握られている。 『これを機体からはずしてしまえばいいだけだろうが!』 そうすれば、問題はないだろう、と言いきれる彼の単純明快な思考がうらやましい。だが、彼はブリッツにはその装備がないことを忘れているのではないか、とも思う。 「切断する場所を気をつけてくださいよ!」 でなければ、爆発をするかもしれない。 装備のことを口に出す代わりにニコルはこう告げた。 『わかっている!』 普段であればよけいなことを言うな、と言う言葉が返ってくるはずだ。だが、こう言い返してきた、と言うことはイザークにしてもそれが当然の忠告だと考えているのだろう。 『俺だって、キラを失いたい訳じゃないからな!』 言葉とともに、彼はザウートの両手を肘から切り落とす。それをニコルはしっかりと受け止めた。 『さっさと安全な場所に移動しろ!』 「それこそ、わかっています!」 キラ達を安全な場所に連れて行く方が、相手を捕縛――あるいは撃破――するよりも重要だ、とニコルは考えている。だから、そのまま彼は切り取られたMSの手を抱きかかえるようにしてブリッツを後退させた。 そして、安全だと思える場所まで来たところでそうっとそれをおろす。 次の瞬間、その周囲にザフトの兵士が集まってきた。 だが、その中にもブルーコスモス関係者がいるかもしれない。 こう考えれば、すぐに二人を解放するための行動を起こせなかった。 しかし、見慣れた姿を確認してニコルは警戒を緩める。 「アスランとミゲル……それにシン君がいれば大丈夫ですね」 いざとなれば、ブリッツで何とかすればいいか。 そう判断をしてニコルはしっかりと組まれていた手をはずした。 「……どうやら、無事にキラ達の身柄を確保したらしいぞ」 ミゲルのつぶやきを耳にした瞬間、アスランとシンが先を争うように行動を起こした。 「お前ら……」 その様子が、まるで飼い主が帰ってきたときの子犬のようだ、とミゲルは思う。どちらが飼い主にほめてもらうかを競っているようだと。 だが、と彼はため息をついた。 「……キラがどこにいるのか、わかっているのか?」 そして、こう口にする。 次の瞬間、彼らはほぼ同時に足を止めた。 「それと、念のために銃を持っていけ」 万が一のことがあるといけないからな……と付け加えれば、アスランは盛大に顔をしかめる。 「まだ、ブルーコスモスのやつが隠れていると?」 「否定できないからな……不本意だが」 あのパイロットだって、バルトフェルドから信頼をされていた一人なのだ。それなのに、今ああして捕縛されている。他にもいないとは限らないだろう。 それがラウ達の出した結論だった。 それを告げられたとき、ミゲルも信じられなかったというのは事実だ。 だが、それは考えておかなければいけないことでもあろう。指揮官というのは最悪の事態を考えて動くものなのだから、と。 「……ともかく、キラの居場所はどこなんだ……」 そちらの方が先決だ、と言いきれるアスランが少しだけうらやましいかもしれない。 「どうやら、MSハンガーの前に下ろすつもりらしいな……」 ニコルは……と口の中だけで付け加えた。 あそこであれば、ブリッツも十分に動けるだけの余地がある。それも考えての行動だろう。 「わかった」 もっとも、それもアスランにはどうでもいいらしい。 本気で《キラ》しか見えてないんだな、とため息が出てしまう。そして、それはシンも同じことだ。 「仕方がない……追いかけますか」 このままでは、連中が暴走しかねない。それを止めないと、クルーゼ隊の評判は地をはうことになるのではないか。そう判断すると、ミゲルもまた走り出す。 しかし、本当に予想外の行動を取ってくれるものだ、とすぐに頭を抱えたくなった。 どうやら普通に降りるのはまだるっこしいと判断したのだろう。 二人とも適当な階まで階段を駆け下りると、そのまま踊り場の窓から飛び降りたのだ。 アスランがそうすれば、当然シンもまねをする。 「本当にあいつらは……」 似たもの同士だよ、と呟きつつ、ミゲルもまたそこから飛び出した。 身軽に着地をすると、そのまま彼らを追いかけて走り出す。 そんな三人を確認したのだろう。ブリッツがゆっくりと動き始めた。 重ねられていたザウートの腕が持ち上げられる。その中に、見慣れた《紅》が確かに存在していた。 キラ確保。 と言うわけで、そろそろアスランがキラバカになります、きっと(^^; |