「……動きが、止まったわね……」 アイシャが小さな声で呟く。それは、かなり無理しているとわかる口調だ。 「そうですね」 もっとも、キラにしても同じ状況ではある。 さんざん振り回されて――しかも、訓練では絶対にあり得ないような動きで――は、いくらMSのパイロットとはいえ乗り物酔いにならないわけがないのだ。 「アンディ達が何か手を打ってくれてるということなんでしょうけド」 それにしても、さっさと解放して欲しい。 アイシャのつぶやきはキラにとっても本音だ。 「そうですね……」 そうでなければ、本気で意識を失ってしまうかもしれない。だが、それでは万が一の時にすぐに対処ができないということでもあるのだ。何があるかわからない以上、それだけはさけたいと思う。 何よりも、女性の前でみっともないところは見せたくない。 その程度の矜持はキラにもある。 「……せめてここが……MSの中だったら、どんな場所でも何とかできる自信はあるんですけどね……」 直接この機体の開発には関わっていないが、それでも整備陣に負けない程度は構造を熟しているつもりだ。 だから、たとえそれが点検用の空間だとしてもそこから相手の動きを止めることができる。 しかし、マニピュレーターの中ではそう言うわけにはいかない。これは工具なしでは分解どころか傷を付けることすら難しいだろう。 「……そうネ……いくら何でも、ここで爆薬を使うわけにはいかないものネ」 だが、アイシャはさらに過激なことを考えていたらしい。 「……アイシャさん……」 ひょっとして、今もどこかに爆弾を隠し持っている、と言うことなのだろうか。それにしては、隠しようがない服装だ、と思うのだが……とキラは心の中で呟く。 「あら、身だしなみよ?」 だから、爆弾を持っていてもいいって訳じゃないだろう、とキラはつっこみたい。 「アンディにとって私が不利益になるようなら、死んだ方がマシだもの」 だが、こう言われてしまえば何も言い返せなくなってしまう。 「でも、今はしないわヨ? キラちゃんと一緒に、みんなのところに帰るんだもの」 アンディ達が動いているのであれば、絶対に大丈夫……とアイシャは微笑む。 「うちの隊長達も動いていますから……大丈夫ですよね」 問題は、アスランが暴走していないかどうか、と言うことか……とキラは心の中で付け加える。 いや、アスランだけではない。 シンもその可能性があるな、と彼は思う。あの二人を止められる人間は、と言えば、ラウかバルトフェルド、それにミゲルぐらいだろうか。その中の誰が欠けても、かなり厄介なのではないか、とキラには思える。 しかし、それ以上にあの二人が暴走したときの方が厄介なのだろうか。 特にシンが使っているアストレイは、他の二機と同様、OSにかなりキラの手が入っている。周囲に何の配慮もなくそれを使えばどうなるか。 民間人を巻き込むようなことはないとは思う。 だが、巻き込みたくなくても巻き込んでしまうのが戦争だ。 それを理解するまでは、彼にMS戦を行って欲しくない……というのがキラの気持ちでもある。それがどれだけ自分勝手な気持ちであるのかも理解はしていたが。 その時、今までとは違う振動が彼らを襲う。 「……また、何かあったわネ」 アイシャのこの言葉に、キラは小さくうなずき返した。 「逃げるぞ……どうする?」 足を止めるか、それとも見逃すか。 ディアッカはそのどちらの選択肢を取るべきかなやむ。 『ディアッカ……とりあえず、相手を予定ポイントへ追い込め』 そんな彼の耳にラウの冷静な声が届く。 「了解しました!」 こう答えながらも『さすがはラウだ』と思う。彼の位置からは自分の表情など読み取れるわけがないのだ。そして、先ほどのつぶやきは口の中でだけ呟かれたもの。 それでもこうして的確な指示を与えてくれるのは、彼が指揮官として有能だからだろう。 「……隊長とキラとミゲル……誰が欠けても、家の隊はなりたたねぇよな、やっぱり……」 ラウを支える二人がいるからこそ、彼は自由に作戦を組み立てられる。そして、それを確実に実行させるためには、自分だけでは力不足なのだ。 何よりも、暴走している同僚達を止められる人物は必要だという以上の存在だ。はっきり言って、彼がいてくれれば自分に降りかかる厄介事は減るのだし、とも。 「と言うわけで、やっぱ、返してもらわないといけないよな」 キラを……と呟きながら、ディアッカは唇をゆがめた。 「……と言っても、難しいよな……足を止めるっているのは……」 破壊するだけなら楽なのだが、今は下手に機体も壊せない。 そうであるのであれば、バスターの火力は強すぎる。 元々は後方支援を目的として設計された機体だし、自分の性格を考えればぴったりの機体ではある。だが、このようなときには宝の持ち腐れになるのではないか。 「こう考えると、やっぱ、デュエルかストライクだよな……汎用といえるのは」 もっとも、そちらに乗り換えるつもりは今更ないが。 自分にとって、一番の機体はやはりバスターだと思えるから……とディアッカは心の中で付け加える。 「これもまた、バランスだよな……」 それぞれが使っている機体――といっても、今ストライクに乗り込んでいるのはラウだが――は各パイロットの個性に合っているように感じられた。 つまり、それだけ自分たちの隊のパイロット達は個性豊かなのだと言える。 「……そのバランスを崩すんじゃねぇよ!」 言葉とともに、ディアッカはバスターのランチャーをザウートから微妙にずらした場所めがけて発射する。それはねらいを違わずに、機体ぎりぎりの場所を通過していく。 「……よっしゃ!」 ねらい通りだ、とディアッカは笑う。 そして、相手の期待も予想通りの方向へと機体の向きを変える。 「後は……任せたからな、ニコル……」 その方向をにらみつけながら、ディアッカはこう呟く。 結局は、今回の作戦の正否を担っているのは彼なのだ。だから、と。 後は祈るしかできない自分に、口惜しさを感じていたのは事実だった。 普通ならうれしいのでしょうが……さすがに、こう言うときには困るでしょう<美女との密着。 しかし、一体どこに爆弾を隠しているのでしょうか。あの服だと、アクセサリータイプにしかならないですよね、うん。 |