「キラさん! アイシャさん!」
 アスラン達の耳にシンの叫び声が届く。
「無理だ! いいから君は、みんなを……」
 呼んできて! と付け加えられた声に、アスランは速度を上げる。そんな彼の周囲を銃弾がかすめていくが、まったく気にしない。
「ったく……」
 そんなアスランをあきれながらもミゲルがフォローをしてくれる。それはきっと、自分が傷ついたらキラが悲しむからなのだろう、とアスランは思っていた。同時に、それでもかまわないとも。
 大切なのは、少しでも早くキラの側に行くこと。
 ただ、それだけなのだ。
「キラ!」
 呼びかけとともに、アスランはほぼ直角を描いている角を曲がる。そこにはキラの姿があるはずだった。
 だが、アスランの目に飛び込んできたのは、MSのものとおぼしき巨大なマニピュレーターとそれに飛びつこうとしている真の姿だった。
 いくら何でも無謀だ、というのは見ているものであればわかる。だが、彼がそれをしている、と言うことは、あるいはあの中に《キラ》がいるのかもしれない。
「……シン・アスカ! どけ!」
 ならば、あれを破壊すればキラを助け出せるのではないか。
 その思いのまま、手にしていたミサイルランチャーを構える。シンに声をかけたのは、彼が傷ついてもキラが悲しむから……という理由からだ。
 アスランの声にシンは視線を向ける。
 そして、そのままランチャーの軸線から体をずらす。
 それを確認するよりも早く、アスランは引き金を引く。
「ちぃっ!」
 だが、相手はPS装甲を装備しているのか、少しも傷つけることができない。
 それでも《キラ》を助け出さないわけにはいかないのだ。
 アスランはその思いのまま再びランチャーに弾を装着する。
` 「無理だ、アスラン!」
 しかし、それの照準を合わせようとした瞬間、ミゲルが制止をしてきた。
「何で邪魔をする!」
 あの中に《キラ》がいるのに、とアスランは叫び返す。
「だからだろうが! あれを破壊するだけの攻撃をすれば、キラがどうなるかわからないぞ!」
 それがわからないわけではないだろう! と言われてしまえばアスランはそれ以上動けない。
 確かに、その可能性があることにようやく思い当たったのだ。
 だが、と彼は唇をかむ。
 このまま、キラを連れ去られていい訳がない。では、それを阻止するためにはどうすればいいのか、と。
「……キラさん!」
 アスランが攻撃の手を休めたからだろうか。
 それとも別の理由からか。
 いきなりマニピュレーターが後退を始めるのがアスランたちにも見える。そして、それに取りすがろうとしているシンの姿も。
 だが、キラ達の声はアスランの耳には届かない。
 それが何故なのか、とアスランは思う。
 しかし、それを確認する前にそれはアスラン達の視界から消えてしまった。
「……何故、邪魔をした……」
 アスランはミゲルに向かってこう問いかける。
「お前らに何かあっても意味がないだろうが……それに、隊長が出た……」
 バルトフェルドだけではなくラウも、と彼は付け加えた。
「クルーゼ隊長が?」
 二人同時に出撃するとは……とアスランは信じられない思いでいっぱいだった。今まではどちらかがかならず残っていたはずなのに。
「そう。だから、少しは落ち着け……俺たちよりも隊長達の方が確実にキラを連れ戻してくれるって……」
 それに、ラウはキラを大切にしているのだから、と彼は付け加える。それに関しては否定できない。
 だが、できれば自分の手で……とも考えるのだ。
「……キラが、無事に帰って来てくれるなら……」
 それでかまわないじゃないか……とアスランは呟く。それは自分に言い聞かせるものだ。
「絶対無事に帰ってきてくれるって……な?」
 だから信じようぜ、とミゲルは口にする。この言葉にアスランだけではなく近づいてきたシンもうなずいていた。

「……キラを、と言うことは、どちらの陣営だろうな……」
 手早く《ストライク》を起動させながら、ラウは呟く。これを選んだのは単に一番確実に自分の思い通りに動いてくれるだろう、と判断したからだ。
「それは、相手から聞けばいいか」
 まずは、キラと一緒にいるものを無事に保護しよう。ラウはそう考える。
『準備は?』
 バルトフェルドの声がラウの耳に届く。
「できていますよ」
 すぐにでも出撃できる……と言葉を返す。
『どうやら、アイシャも一緒らしいのでね……精一杯努力しないと後々何を言われるかわかったものではないからね』
 冗談めかしているように聞こえるが、実は彼も本気で怒っているらしい。
 と言うことは相手はただではすまないと言うことか、とラウは心の中で付け加える。もっとも、それは自分も同じなのだから、相手に同情する気にはならない。
「あの二人には傷を付けないよう、精一杯努力しないといけないわけですな」
 パイロットまでは責任を取るつもりはない……と付け加えながら、ラウは視線を不リッツへと向ける。
「ニコル?」
『わかっています、隊長!』
 準備は完了しています、と言う彼にモニター越しにうなずき返す。
「では、作戦通りに」
 この言葉とともに、誰もが一斉に動き出した。






間に合いませんでしたね。
しかし、そう言うことが可能なのかどうか……それはわかりません(^^;