「……何?」
 キラのもとにも、爆発の振動はしっかりと伝わっていた。
「また、テロ?」
 ならば、すぐにでもラウのところへ行かなければいけないだろう。
 そう思って、キラは座っていたいすから腰を上げた。そのまま足早にドアの方へと向かう。
「えっ?」
 だが、外から響いてくる銃声と足音がこちらに近づいているように感じられて、キラは動きを止める。
「……何故……」
 こちらにあるのは、キラ達クルーゼ隊の面々の私室だ。そして、現在そこにいるのはキラだけだと言っていい。
 襲撃者が場所を間違えたのでないとすれば、ねらいは《キラ》だ、と言うことになる。
 それが、クルーゼ隊の副官であり、OSの開発の一端を担っている技術者としての《キラ》をねらってのものなのか、それともオーブの獅子《ウズミ・ナラ・アスハ》の隠された血縁である《キラ》をねらってのものなのか。
 それによって対処が変わってくるのだが……とキラは眉を寄せる。
「どちらにしても……捕まるわけにはいかないか……」
 そうなれば、自分よりも周囲の者達に迷惑をかけてしまう。
 とっさに、キラは部屋のロックを厳重なものへと切り替えた。
「いつまで、保つかな……」
 とは言っても、元は普通のホテルを接収して使っている宿舎だ。軍の施設と違っていつまで保つかわかったものではない。
 だからといって、前にラウ達が狙撃されたことを考えれば、うかつに窓の方によるわけにもいかないだろう。つまり、そこから逃げ出すという選択肢もとれない、と言うことだ。
「……どう、しようかな」
 かといって、ここにこもって誰かの助けを待つ、と言うのもできない。と言うより、そこまで守られなければならない存在ではない、と思うのだ、自分は。
「と言うと……残る方法は一つかな」
 キラはにっと唇をゆがめる。そして、そのままバスルームへと向かった。
 中に入ってキラが手を伸ばしたのは空調のチェックに使われるふただった。それを手早くはずしながら、キラはさらに楽しげに目を輝かせる。
「こう言うときに言うセリフじゃないけど……いっぺん、やってみたかったんだよね」
 昔、映画を見たときから……とキラはことさら明るい口調で呟いた。それがある意味、虚勢であることはわかっている。それでも、自分があきらめるわけにはいかないのだから、とキラは思う。
「……前に来たときに、バルトフェルドさんが教えてくれたしね」
 この中がどうなっているかを、と付け加えたところで、キラはあることに気が付く。
「って、あの人……ここを使って逃げ出していた訳じゃないよね?」
 よく、行方不明になっていたけど……呟いた。そのせいで、危なくヘリオポリスへ向かうシャトルに乗り遅れそうになったことまで、キラは連鎖的に思い出してしまう。
「まさか……ね」
 あはははは……と乾いた笑いを漏らしながら、キラは身軽に体を天井裏へと移動させる。そして、今度は今開けたふたを閉じた。

「……一体どこから……」
 手早く装備を取り上げながらイザークは眉を寄せる。
「捕縛してきた連中……と言いたいところだが、違うらしいぞ」
 こう告げたのはディアッカだ。
「どういうことだ?」
 いつの間にそんな情報を仕入れてきたのだろうかと思いつつ、イザークは聞き返す。
「……中に、ザフトの軍服を身にまとっている連中もいるらしい……」
「何!」
 忌々しそうに付け加えられた言葉に、イザークは驚愕を隠せなかった。
「噂が本当だった、って事だろう」
 そんな彼の耳に、今度はラスティの声が届く。
「昔から言われていたらしいぜ。ザフトにブルーコスモスのスパイが紛れ込んでいるらしいって」
 ただ、それが全員、第一世代だから区別が付かなかっただけらしい……とラスティは付け加えた。
「……そんな奴らが、何故、今になって……」
「本気で《キラ》が欲しいらしいな」
 イザークの言葉に、ラスティはきっぱりとこう言い切る。
「そう言う動きがあるっていう話は俺も聞かされていたんだが……本当だとは思わなかったぜ」
 しかし、現実に見せつけられては信用しないわけにはいかないだろう。ラスティは弾薬の残りを確認しながら、こう呟く。
「それよりも、さっさと行った方がいいよな……アスランがぶち切れる前に」
 うまくいけば、他に潜入しているメンバーについての手がかりを聞き出せるかもしれないのだ。だから、できれば一人ぐらいは生きたまま確保したい……と付け加えられて、イザークだけではなくディアッカもアスランの方へと視線を向けた。
 そこでは、ニコル達に必死になだめられているアスランの姿が確認できる。
「……俺たちが先行した方が良さそうだな……」
 少しはマシだろう、とイザークは口にした。
「賛成だな」
 それに、ディアッカ達もうなずいてみせる。
「じゃ、アスランに気づかれる前に、さっさと行きますか……」
 キラのところへ……とラスティが口にした。それを合図にして三人はそのまま移動を開始する。
「俺の邪魔をするな!」
 そんな彼らの背中を、アスランの声が追いかけてきた。
「だから、落ち着け!」
「キラさんはご無事だそうですから……それよりもその装備では無理です!」
 それをなだめるミゲルとニコルの声も彼らの耳に届く。
「……まずは……キラの身柄を確保することが最優先かもしれないな……」
 でなければ、アスランがスパイ達を皆殺しにしかねない。
 今はともかく、本気でぶち切れたアスランをなだめられるとすればキラだけだろう。
「そうだな」
 敵だけならともかく、味方まで巻き込まれかねない……とディアッカもため息をつく。
「と言うわけで、がんばりますか」
 本当、キラとつきあうようになってからいきなり任務がハードになったぞ……とラスティが苦笑をにじませる。
 それでも、彼を失えないというのは事実なのだ。
 アスランとは違った意味で、自分たちも彼が好きなのだから。
「当たり前だろう!」
 イザークはこう告げると、真っ先に駆けだした。






アスランもキレモード……大丈夫でしょうかね、ミゲル(苦笑)
本当に、今回は貧乏くじですね、彼