「……どう、フォローすればいいのかな……」
 キラが言葉とともに小さくため息をつく。
 それに、アスランは『放っておけ』と言いたくなってしまう。だが、そんなことを言えば、キラがショックを受けるだろうと言うこともわかっていた。
「あいつの気持ちが、押さえられなくなる前に……現実を認識させるべきだ……」
 それでも、何か声をかけないと……と思い、アスランは口を開く。しかし、実際口から出たのは自分が思っても見なかったセリフだった。
「アスラン……」
 キラがそんな彼に即座に言葉を返してくる。かすかに非難の色がそこに含まれているのは否定できない事実だろう。
「俺が……何の努力もなくキラの隣にいられる……と思われたのが、気に入らないんだ……」
 初めてあったあの日から、キラの周囲はもちろん、自分の周囲の者達にも認められるよう努力してきたのだ。
 それなのに、シンは自分がキラの《幼なじみ》だから、その延長で今の関係になっていると考えているらしい。その事実が悔しい、と思うのだ。
「……バカだね、アスラン……」
 キラがため息とともにこう告げる。
「僕は……アスランがどれだけ努力をしていたのかを知っている……それだけじゃダメなの?」
 言いたい人間には、好きに言わせておけばいいのに……とキラはアスランを見つめてきた。
「……俺が何かを言われるのは我慢できるが……キラのことまで悪く言われるのは……」
 自分が我慢できないのだ、とアスランは付け加える。
 次の瞬間、キラの腕がアスランの首筋にからみついてきた。
「アスランと……ラウ兄さんやミゲル達……後はオーブにいる父さんや母さん、カガリにムウ兄さんがわかってくれるなら、誰に何を言われても、僕は気にしないよ」
 そして、全員が自分たちの味方だろう? キラが耳元で囁いてくる。
「そうだな……」
 腕の中の体を抱きしめ返しながら、アスランも言葉を返した。
「あきれながらも、俺たちの関係を認めてくれる連中もいるし……応援してくれているやつもいる。そいつらにだけ、わかってもらえればいいのか……」
 そう割り切ってしまえば後は簡単ではないか。アスランもそう思う。
「必要なのは……戦場での実力だけ、だろう?」
 ザフトにとっては……とキラは付け加える。
「もちろんだ」
 それがあれば、そのほかの場所で何をしていても文句を言われることがない。それだけは間違いようのない事実だ。
 同時に、自分は何を悩んでいたのだろう、とアスランは思う。
「やっぱり……俺にはキラが必要なんだ……」
 こう呟けば、
「僕にも、アスランが必要なんだよ」
 キラもこう言い返してくれる。
 その事実がうれしくて、アスランは彼の唇に自分のそれを寄せていった。
「……んっ……」
 キラの唇が、先を促すようにうっすらと開く。その隙間から、アスランは舌を滑り込ませた。
 そのまま、キラの舌先を捕らえる。そうすれば、アスランの首筋に回された彼の腕に力がこもる。だが、いやがっているわけではないらしいことは、アスランにもわかった。
 だから、このまま……と思ったことも事実。
「……そこまで、な……」
 だが、何故か邪魔が入ってしまったのだ。
「え? ミゲル?」
 慌てて唇を離したキラが、信じられないというように目を丸くしている。同時に、アスランは彼をにらみつけた。しかし、その程度でどうこうするミゲルではない。
「悪いな、キラ。邪魔をする気はなかったんだが……」
 こう言いながら、彼は二人に歩み寄ってきた。
「そいつがな……隊長の指示を放り出している以上、放っておけなくてな」
 そして、アスランの耳をつまみ上げる。
「仕事が終わっているなら、俺だってこんな野暮なことはしないんだが……」
 いくら待っても戻ってこない以上、許せよな……と言いながら口元をゆがめているミゲルの目がまったく笑っていなかった。
 それだけならばいい。
「アスラン!」
 さらにキラのお小言まで始まってしまった以上、アスランとしては言い返す言葉を見つけられなかった。

「……間違いなく、同胞だ、と思われます……」
 端末越しに、軍医がバルトフェルドに向かってこう報告をする。
「ただ……微妙に気になる点があります。詳しく検査をしたいのですが……残念ながら、ここの設備では難しいかと……」
 精神に関しても、誕生前からあれこれ操作をされているようだ。だから、と軍医は付け加える。
『そうか……』
 さて、どうしたものか……というようにバルトフェルドが考え込んだのが、モニター越しにも確認できた。
 それも無理はないであろう、と軍医は思う。
 彼は立場上、地球連合が自分たちの奉仕させるためだけに生み出した《ソウキス》と呼ばれる同胞の事を聞いたことがある。だが、実際に彼らを保護できた事例は今まで無かったのだ。
 彼らは、捕まると同時に自殺を図る。
 その徹底ぶりに、間違いなく洗脳されているのだろう、とは言われていた。
 その彼らを何とか保護することができたのだ。できれば、普通の同胞と同じように自由に生きて欲しいと考えたとしても不思議ではないだろう。
『上と話をしてみる……その間、ここでできる限りのことをしてやってくれ』
 軍医が望む言葉を、バルトフェルドは口にしてくれる。その事実に彼が胸をなで下ろしたときだ。
「おい! どうした!」
 背後から、衛生兵のせっぱ詰まったような声が響いてくる。
『何かあったのかね?』
 それが端末越しにバルトフェルドの耳にも届いたのだろう。即座に問いかけの言葉が届いた。
「今、確認を……」
 彼はこう言い返す。
 だが、その言葉を最後まで口に出すことはできなかった。
 激しい衝撃が、負傷したソウキス達を収容していた病室から彼を襲う。それが爆風だ、と認識したのを最後に、彼の意識は闇の中へと吸い込まれてしまった。






御邪魔虫もミゲルですね……本当に、タイミングが悪い(苦笑)