実のところ、ミゲル達にそんな余裕はなかった。特にミゲルには……だ。 「……まったく……」 何で俺が……と言いながら、新しく愛機になるディンの調整に四苦八苦をしていた。 宇宙で使っていたものは一つの設定だけ変えればそれですんだ。 だが、地球上では細かな気象条件の変化や地形の変化によって設定を変えなければいけない。 「どうなっているんだよ、この飛行システムは……」 ずいぶんと無駄なシステムが組まれているような気がするのは、ミゲルの錯覚だろうか。 「くそ……」 こう言うときにキラがいてくれない……というのはかなり辛い。彼であれば、もっと効率的で、ミゲルにとってはわかりやすいOSを組んでくれたのではないか。そう思うのだ。 だが、状況を考えれば仕方がない。 「このままじゃ、キラにはバカにされるだろうし……ラスティに見捨てられるかもしれないな……」 それだけは何としても避けなければいけない状況だ。 でなければ、アスランにすら何を言われるかわからない。 「まぁ、あちらよりはましなのか?」 このフォーマットは飛行システム以外はジンのものを流用しているようだ。 だから、それ以外の部分は十分理解できる。飛行システムにしても、今は理解できないが、もう少し時間をかければ何とかなるだろう。 それでなくてもこれは現在既に運用されているのだ。整備兵に質問すれば何とでもなるはずだ。 ただその時間がもったいないのと、無駄なシステムが気に入らない。第一、彼らは別口で忙しいのだ。だから、あえてそれをしたくない、と言うところだったりする。 しかし、アスラン達は違う。 彼らはあの機体をそのまま持ち込んでいるのだ。 イージスのMA形態時やストライクのエール装備を除けば自力で飛行することは不可能だと言っていい。 そのためにグゥルという飛行ユニットを使わなければいけないのだが、それも急造らしく、結局はテストのためのテスト、という状況らしいのだ。 あるいは開発の連中は《キラ》がいることを予想してそんなものを回してきたのかもしれない。 だが、現実として、キラは今オーブだ。 「……まぁ、最初からあてにされていないようだし……」 それはそれで気に入らないが、じっくりと調整できるのはありがたいかもしれないな……とミゲルは心の中で付け加える。 もちろん、自分が……ではない。 アスラン達が、だ。 それに関しては、何とかフォローをしてやらなければいけないか……とミゲルは口の中だけで呟く。 その時だ。 聞き覚えがありすぎる声がミゲルの耳に届く。 「あいつは……思いきり不本意なようだがな」 視線を向けなくても、イザークがディアッカあたりに八つ当たりをしているだろうことは簡単に想像が出来る。 「さて、どうするべきな」 なだめに行くべきか、それとも無視をするか。 こう言うときにオロール達がいないのは辛い。クルーゼがそんな些細なところまで面倒を見られない以上、副官である自分がやらなければいけないのだ。 「本当、キラがいてくれれば、半分は押しつけられるのに」 あるいは、ラスティがいてくれれば、多少は精神的に楽なのに……とミゲルは心の中でぼやく。 「と言っても、これ以上クルーゼ隊の評判をおとすわけにはいかないからな」 諦めるしかないか……と判断をすると、とりあえず今手を付けていたOSを保存して終了させる。 そのままシートから立ち上がると、コクピットから滑り出した。 「だから! 何で俺達が待機なんだ!」 地球軍の新型がいるんだろう……と叫ぶイザークをディアッカが必死に押さえている。でなければ、今すぐにでもバルトフェルドの元へ怒鳴り込みそうだ。その様子に、ミゲルはまたため息をついてしまう。 「本当にあいつは……」 プライドが高いのはかまわない。 だが、そのせいで周囲の状況を把握できなくなるのは困る。 「困ったお子様だ……こっちはあくまでもまがりしているだけだって認識して欲しいよな」 ついでに、出来れば自分の手を煩わせないで欲しい。 そう思っても罪はないのではないか。思わずこんな事まで考えてしまう。同時に、どうして自分はこんな役回りを引き受けてしまったのだろうか、とも。 「イザーク」 彼の側まで歩み寄ると、ミゲルは少しだけ厳しい声で呼びかけた。 「ミゲル! 何で俺達は出撃できないんだ!」 その意味がわかっているのかいないのか。イザークがこう食ってかかってくる。 「俺達の現在の任務は、地上でも十分機体を使用できるようにすることだ。今の状況では、バルトフェルド隊のお荷物にしかならないだろうが!」 そんな状況で出撃をして死にたいのか、とミゲルはさらに口にした。 「誰が死ぬんだ!」 「お前に決まっているだろうが。お前だけが死ぬならいいけどな……無謀な行動をして周囲を巻き込んだら、クルーゼ隊全員が笑いものになるぞ!」 それでいいのか、お前は……とミゲルはさらに詰め寄る。 「良いとは……」 言っていないだろう、とイザークは口にした。 「なら、バカなことで時間をつぶす前に、やるべき事をやれ!」 他の二人は大人しく作業をしている、とミゲルは口にした。 「第一、キラにばれたらどうなると思うんだ、お前は……」 間違いなく、OSに仕掛けをされるぞ……とミゲルは脅しをかけるように付け加える。その瞬間、イザークの表情が強張ったのをミゲルは見逃さなかった。 「まぁ、がんばるんだな」 そして、最後にはこう締めくくる。これで、イザークは完全に毒牙を抜かれたように肩から力を抜いた。 それを確認したのだろう。イザークを押さえつけてきたディアッカがほっとしたような表情を作る。 「キラに見せてもそこそこ合格点をもらえるようなシステムを作っておけ」 さらにこう付け加えるとミゲルはきびすを返した。そして、再び自分に与えられた機体へと戻っていく。 「って、俺も人のことは言えないけどな」 こっそりとこう呟くと、彼は苦笑を浮かべた。 相変わらずですね、彼らは。ミゲルは不幸か…… あんな事を言った罰かもしれないですね(^_^; |