「二人とも! いい加減にしてよ!」 目の前でいきなり殴り合いを始めてしまったアスランとシンに向かってキラは叫ぶ。だが、彼らが耳を貸してくれるはずがない。 アスラン一人であれば、何とか止められるだろう。 だが、シンも……となれば話は別だ。 さすがに、体格で彼らに負けている以上、止めるためには的確に急所をねらわなければならないだろう。 それができないわけではない。 だが、したくないのだ。 アスランはもちろん、シンもキラの中では《大切な人間》と言う存在になっている――もっとも、その《大切》の意味が微妙に違うのだが――だからこそ、彼らを傷つけるようなことがキラにできるはずはない。 せめて、後一人、誰かがフォローに来てくれれば…… キラがこう心の中で呟いたときだ。 「無事か!」 言葉とともにミゲルが室内に飛び込んでくる。その事実に、キラは思わずほっとしたような表情を作ってしまった。 「……無事じゃないな、これは……」 目の前で繰り広げられている殴り合いを見て、ミゲルは小さくため息をつく。 「止めたいから、手伝って!」 そんな彼に向かって、キラはこう叫んだ。 「手伝えって……お前一人でも何とかできるだろう?」 その気になれば、とミゲルは不審そうにキラを見つめてくる。 「でも、それじゃ……明日使い物にならなくなるかもしれないじゃないか……」 こういう問題でもないのだが、と思いつつ、キラはこう言い返す。本当はそれよりも訓練でもないのに彼らに拳を向けたくないだけだ、と言外ににじませる。 「本当にお前は……」 甘いよな……とミゲルは苦笑をにじませている。だが、それでも十分彼は理解をしてくれたらしい。 「仕方がない、つきあってやるか……」 そう言うお前が気に入っているんだから、仕方がないさ……と言いながら、ミゲルはキラの肩に手を置く。 「俺は……オーブのオコサマの面倒を見ればいいんだな?」 さらにこう付け加えてくる彼に、キラは苦笑を返す。こう口にしてくれたのは、きっと、アスランの性格も彼はわかっているからだろう。 「ごめん……」 「……まぁ、それも俺の役目だからな……」 パイロット達の面倒を見るのも……とミゲルは口にすると同時に、行動を開始した。それにあわせて、キラもまたアスランの背後へと移動をする。 二人同時に止めなければ意味がない。 お互いの表情だけで何を考えているかわかる。 これは腐れ縁のおかげだろうか。そう思いながら、キラはミゲルとアイコンタクトをとった。 タイミングを合わせて、アスランを羽交い締めにする。 もちろん、その時にはミゲルがしっかりとシンを押さえつけていた。 「放せよ!」 「何をする!」 当然のように二人はそれぞれ抵抗をする。 「いい加減にしろよ!」 もちろん、その程度で手を離すような二人ではない。 「アスラン、やめてってば!」 言葉を口にしながら二人はさらに腕に力をこめる。 「……キラ?」 さすがに、アスランには自分を今戒めているのが《キラ》だ、とわかったらしい。慌てたように首をひねると、視線を合わせようとしてきた。 「お願いだから、やめて……アスランが心配しているようなことは何もなかったんだし……ね?」 甘えるようにこう告げれば、アスランは困ったようにため息をつく。 「キラのお願いだから……聞いてはあげたいんだけど……」 でも、あいつは許せないんだ……とアスランは呟いた。 「何も知らないくせに……キラの優しさにつけ込んでいる、あいつが」 だから、そう言うことを言わないで欲しいのだ……とキラは思う。そう言うことをいうから、さらに、彼は煽られてしまうのだろう、と。 「アスラン……」 そんな彼を少しでもなだめようと、キラは言葉をつづる。 「誰が知らなくても、アスランだけがわかっていてくれたら、僕はいいんだよ?」 自分がどうして、こうしているのか……それをアスランだけが知っていてくれれば、それだけで自分は我慢できるから。キラはそっと囁いた。 「……キラ……」 この言葉がアスランの中にあった怒りを和らげたのだろうか。彼は全身から力を抜いた。その事実に、キラもほっと安堵のため息をつく。 そして、改めてシンの方へと視線を向けた。 「何すんだよ、てめぇ!」 しっかりとミゲルによって彼は床に組み敷かれている。それでもこう叫ぶ元気があるのであれば大丈夫なのだろうか。 「何するって……これ以上部屋を壊されるとまずいし……お前が怪我をしても、後々面倒だからな」 オーブとの関係が……とミゲルは冷静な口調で告げている。 「第一、キラが困っているだろうが……」 何をするにも、キラのことを考えろ……という言葉は何なのだろうか。 「……キラさんの迷惑……」 しかし、シンには有効だったらしい。愕然とした表情を作るとともに、彼は抵抗をやめる。 「お前が何かをすれば、責任はみんなキラに行くんだ。俺たちが失敗をすれば隊長が責任をとらなければいけないようにな」 「そう、何ですか?」 ミゲルの言葉に、シンがこう問いかけてきた。 「……よけいなことを……」 キラは思わずこう呟いてしまう。 確かに、それは事実だ。 「君をカガリ達から預かったのは僕だからね。そう言うことだよ」 ともかく、シンに少しでも気を遣って欲しくない。そう思ってキラはこう告げる。 「俺は……」 だが、彼は納得をしてくれなかったらしい。今まで以上の衝撃を受けた、と言う表情を彼は作っていた。 こういう事態に巻き込まれるのは、かならずミゲル……と言うことで(苦笑) しかし、本当にこの話のアスランはアホです…… |