シンがまず感じたのは、全身を襲う鈍い衝撃だった。
 そして、呼吸ができないことに対する驚愕。
「アスラン!」
 最後に認識できたのは、キラの驚愕と非難をこめた声だった。
「俺以外のやつが、キラにのしかかっているところを見て、黙っていられるか!」
 だが、アスランも負けじとこう叫び返している。
「彼が倒れたから、支えようとして失敗しただけだって」
 キラは苦笑混じりにこう告げた。だから、アスランが心配しているようなことはない、とも。
「そうかもしれないが……俺が、我慢できないんだ!」
 他の人間がキラを抱きしめているのを見るのが……とアスランは口にする。
「ミゲル達なら、まだ妥協できる……でも、そいつは信用できない」
 そんな勝手なアスランの言い分に、シンは怒りがわき上がってくるのを感じた。そして、人間、限界まで怒りがふくれあがれば、逆に冷静になれるものだ、と言うことも、だ。
「……勝手なことを言うな!」
 この叫びとともに、シンは飛び起きる。
 その瞬間、体中に痛みが走った。同時に、自分がアスランに殴られた衝撃で、全身を壁にたたきつけられたのだ、と理解をする。
 しかし、それ以上に、今のシンには怒りの方が大きかった。
「キラさんはあんたの所有物じゃないだろうが!」
 その思いのまま、こう叫ぶ。
「第一、キラさんは、俺を慰めてくれていただけだ!」
 確かに、そう言うことをしなかった……とはいえない。しかし、キラは《アスラン》がいるから、と自分の思いを受け止めてはくれなかった。
 だが、それでも傷ついた自分を慰めてくれていたこともまた事実。
 そんなキラの優しさがつらくない、と言えば嘘になるだろう。だが、きっぱりと拒絶されなかったからこそ、自分は救われた、と言う事も事実だ。まだ、可能性が残されていると――たとえ、その可能性が、限りなくゼロに近いとしてもだ――信じられるからかもしれない。
 同時に、幼なじみというだけで、当然のようにキラの側にいられるアスランが気にくわない、とも思う。
 もし、彼と自分の立場が逆であったとすれば……と思うのだ。
 第一、今のことでアスランがキラを信用していないのではないか、とも思える。
 本当に信じていれば、いきなり殴り飛ばすようなことをしないのではないか。もし、疑っていたとしても、まずは説明を求めるだろう。
 自分なら、そうする、と思う。
「結局は、あんた自身が、キラさんを信じていないんだろうが」
 だから、俺に当たるんだ……とシンは付け加える。
「お前……何が言いたい……」
 この言葉が、アスランの逆鱗に触れたのだろうか。自分が持っている色彩とはまったく正反対の色の瞳に怒りを燃え上がらせながら、こう問いかけてくる。
「だって、そうだろうが! キラさんが信じていれば、いきなり殴りかかるなんてするはずがないだろう!」
 口で言えばいいだけだ、とシンは言い返す。
「結局は、キラさんの自分への気持ちを信用してないから、そう言う行動に出るんじゃないか!」
「お前に何がわかる!」
 シンの言葉を、アスランが強引に遮る。
「俺が、キラをどう思っているか……なんて、お前に決めつけられたくはない!」
 自分がキラを信じていないなんて、あるか……とアスランははき出す。
「キラが俺を信用してくれなかったとしても、俺はキラを信じる!」
「なら、何で今は信用してあげないんだ!」
 キラを信じているのであれば……とシンは言い返した。
「お前が相手だからだろうが!」
 そうすれば、アスランはきっぱりと言い切る。
「さっきも言ったじゃないか! 他の仲間達なら、まだ我慢できる、とな」
 あるいは、バルトフェルド隊の者達か、とアスランは付け加えた。
「……俺が何でダメなんだ……」
「お前が、キラに惚れているからに決まっているだろうが!」
 結局は、アスランにばれていた、と言うことか、とシンは心の中で呟く。
 だから、と言ってどうするつもりもない、というのは事実だ。
「それが、キラさんに何の関係があるんだよ。俺がキラさんを好きなのは、俺の勝手じゃないか!」
 違うのか、とシンは言い返す。
「それが、許せない人間もいるんだよ……特に、お前はオーブの人間だからな……」
 オーブの人間は、一度、自分からキラを取り上げたのだ……とアスランは呟く。その言葉に、キラが困ったような表情を作る。
 どうやら、彼らの間では何かあったらしい。
 しかし、とシンは思う。
「そんなこと、俺に何の関係があるんだよ!」
 俺の気持ちは、俺だけのものだ、とシンは叫ぶ。
「黙れ!」
 それをアスランはどう受け止めたのか。
 あるいは、反論のしようがなくなったのかもしれない。
 アスランはとうとう実力行使に出た。
「アスラン! やめてってば!」
 キラの叫びが室内に響き渡る。だが、それでやめられるようであれば、こんな行動には出なかっただろう。
 そして、シンにしても同じ事だ。
 こうなれば、決してかなわないとはわかっていても実力でそれをアスランに伝えるしかない。
 その思いのまま、アスランへと反撃をし始めた。




シン、反撃中……もっとも、彼も自分が負けると自覚しているようですが……それでも一矢報いたいと思うところが男の子でしょうか。