「……さて……この襲撃だけで終わるかね……」
 周囲の子供達をさりげなくフォローしながら、バルトフェルドがこう口にする。
「それはあり得ないわネ」
 きっぱりとした口調でアイシャが答えを返す。
「ある意味、今が絶好のチャンスでショ? アナタとキラちゃん、二人そろって外出しているなんて、ネ」
 バルトフェルド一人ならともかく、キラもセットというのは二度とないのではないか。そう考えていたとしてもおかしくはないだろう、とアイシャは付け加える。
「まぁ、そうなんだけどな」
 それにしても、とバルトフェルドは眉を寄せた。
「だが、そのために民間人を巻き込むことは許せないな」
 しかも、ここにいる人々はほとんどがナチュラルだ。それを平然と巻き込むブルーコスモスの精神には感心するしかないだろうな、と彼は口元にどう猛な笑みを浮かべる。
「と言うわけで、早々に消えてもらいたいね」
 この世界から、と彼ははき出す。
 もし、あの連中がいなくなれば、二つの種族はもう少し歩み寄れるだろう。対等の存在としてお互いを見ることができれば、戦争など起こらなかったはずだ。そう思うのだ。
「……大本は難しいけど、目の前の連中だけなら、何とかなるんじゃないの?」
 第一、奴らには消えてもらわないと、子供達の身が危険だわ……と彼女はいつもの口調で続ける。その言葉だけを聞いていれば、本当にこの状況が理解できているのか、と言われそうだ。だが、彼女の表情を見ればそうではないことがわかるだろう。
「もちろんだよ。そろそろ、周囲に展開している者達が動いてくれるはずだしね」
 こちらに関しては大丈夫だろうが……とバルトフェルドは小さく呟く。だが、問題なのはもう一つの方だ。
「そちらは、クルーゼ隊長やダコスタ君が何とかしてくれるでショ。私たちは、あの子達の安全と、自分の身を守ることを考えればいいわ」
 違うの? と言うアイシャの言葉はもっともなものだろう。
「そうだな」
 特に、オーブの少年はこの状況にかなり衝撃を受けているらしい。
 それは、最初からわかっていたことだ。
 誰でも、初めての戦闘の時は衝撃で動けなくなるもの。だから、バルトフェルドは兵士が初陣の時には必ずベテランの兵士をフォローにつけるようにしている。
 だから、キラには彼の面倒だけを見るように、と指示を出していた。
 しかし、あそこまで衝撃を受けるとは考えていなかったというのは本音だ。だが、オーブの人間であれば仕方がないのだろう、とも思う。
「ここで我々が傷ついては、悪影響を残しかねないからね」
 彼のためには、それはよくないだろう。
 バルトフェルドがこう言いながら、また一人、銃で動きを止める。
 しかし、さすがにそろそろつらいぞ、と彼は心の中で付け加えた。銃弾も無限にあるわけではないのだ。
 その時だった。
 ようやく、周囲からブルーコスモスの連中をめがけて銃弾の嵐が降り注ぐ。同時に、自分たちの前には装甲車が盾を作ってくれた。
「やれやれ……ずいぶんと時間がかかったな……」
 それでも、これで一安心か。彼が安堵のため息をついた瞬間だった。
 地面を大きな影が覆う。それが何かを確認すると同時に、鮮やかな色を身にまとった機体が空を駆け抜けていった。

『ミゲル・アイマン他クルーゼ隊の諸君。敵MSを確認した。発進どうぞ』
 通信機からこんな声がこぼれ落ちる。
「了解」
 宇宙とは違い、地球ではデッキから直接発進ができた。だから、複数のMSが即座に行動ができる。
 それはありがたいが問題でもあるな……とミゲルは心の中で呟く。
 理由は簡単。
 アスラン達の存在だ。
「作戦を無視して、キラを助けに行きそうだよな、あいつは……」
 そうなれば、イージスの穴を他の機体で埋めなければいけない。だが、イージスはかなり独特の機能を持っている。それを埋められる機体はないのだ。
「……そこまでバカだ、とは思いたくはないがな……」
 やりかねない可能性はあるよな……とミゲルはため息をつく。
 キラが絡めば、常識が吹っ飛ぶのがアスラン・ザラという人間だ、と言うことを先日改めて認識させられたばかりなのだ。
「そのうち、俺、はげるんじゃないのか……」
 コーディネイターにはハゲ因子はない。だが、心労ではどうだろうか。そう思ってしまうのだ。
「キラも、マジで厄介なやつを好きになったもんだ」
 それとも、あの勢いで押し切られたのか。
「……その可能性は否定できないな……」
 こんな事を考えながらも、ミゲルは自分のアストレイを発進位置まで移動させていた。
「……こいつもストライクも……バックパックがあればグゥルを使わなくてもすむ……っていうのは助かるな……」
 とっさの時の反応が違うのだ、とミゲルは意識を切り替えるように呟く。
「さすがは、オーブと言うべきか……それとも、これだけの動きができるようにOSを組み立てたキラがすごいと言うべきか……」
 どちらかと言えば、後者の方がパーセンテージが高いか、と結論を出す。
「……やっぱ、キラをあちらに持って行かれるのはまずいな……」
 そうさせないためにも、この作戦を成功させなければいけない。
「ミゲル・アイマン、出る!」
 まずは、キラ達がいる場所へ向かっている地球軍のMSを阻止する必要がある。そして、できるのであれば、あの機体を拿捕したい。
『了解。気をつけて』
 この言葉を合図に、ミゲルはアストレイをレセップスから発進させた。
「他の連中に半殺しにされないためにもな……」
 その後を、他の者達も追いかけるように発進してくる。とっさにアスランの動きを確認したが、彼も今のところきちんと作戦通りの行動をとっているようだ。
「……頼むから、最後まで暴走するなよ、お前ら……」
 祈るようにこう呟く。
 その言葉が、バルトフェルド隊のものの耳に届かなかったのは、クルーゼ隊として喜ばしいことなのだろうか。
 そう考えるまもなく、ミゲルは相手の機体を捕捉していた。






ミゲルがはげるかどうかはともかく、胃を壊したら、間違いなく原因はアスランでしょう……