「外出、ですか?」
 シンのシミュレーションを横目で確認しながら、キラはアイシャに問いかける。
「そうヨ。大丈夫。三人だけじゃないから」
 バルトフェルドが視察に行くのだという。それについて行こう、と彼女は笑った。
「ですが……」
「……というのは名目。あるいは、何か釣れるかもしれないでショ?」
 一番いいのは、この基地のシステムにあれこれ細工をしてくれた連中の仲間だ、とアイシャは続ける。
「それはわかっています……ですが、そのために隊長をおとりに使うのは……」
 いいのか、とキラは思う。彼に何かあれば、ただではすまないだろう……とも思うのだ。
「大丈夫でショ。なれているもの、彼は」
 しかし、アイシャはあっさりとこう告げる。
「私としては……アナタを連れて行くべきなのか、と言った方が問題なのよネ」
 そして、こう付け加えられた。
「僕は……」
「たぶん、ねらわれているのはアナタも一緒。だから、ネ。一応は悩んだのヨ」
 それでも、大物を釣るなら、餌は多い方がいいだろう、と判断したのだ、とアイシャは苦笑を浮かべる。
「と言っても、ダコスタ君が、ちゃんと護衛を手配してくれるって言っていたし……キラちゃんはアンディから離れなければ大丈夫かなって思うのヨ」
 彼であれば、キラを守りきれるだろうから……と言う言葉に、キラは頭痛すら覚えてしまう。
「それは……逆じゃありませんか?」
 本来であれば、守られるべきなのは隊長クラスの人間であって、自分ではない。それなのに、彼女――おそらく、そう判断したのはバルトフェルドだろう――は『キラを守る』と判断したのだ。それを素直に認められるかというとちょっと問題があるのではないか、とキラは思ってしまう。
「あら……でも、そうでしょ? キラちゃんが怪我をしたら、私も悲しいもの」
 アンディだって同じヨ、とアイシャは気軽に口にする。
「第一、キラちゃんにはあの子の面倒を見てもらわないといけないワ」
 おそらく、実戦になるだろう。
 それを初めて経験するシンが、ショックを受けずにいられるだろうか。
 アイシャは眉を寄せると言外にこう告げる。
「そうですね……僕が連れてきた以上、僕が責任をとらないといけませんよね……」
 少なくとも、彼は無事にオーブに返してやらなければいけないのだから。
「そして、アナタの責任はアンディがとる。そう言うことでショ?」
 だから、キラは気にしなくていいのだ、と彼女はさらに笑みを深める。
「アンディの面倒は、私とダコスタ君が見ることだし」
 みんな持ち回りよね……と言う言葉はちょっと違うのではないだろうか。
「そう言うことなら、おとなしく、守られることにします」
 どちらかというと生身の戦闘は苦手だし……とキラは苦笑を浮かべる。訓練ならばそれなりにいけるのだが、と。結局は自分もシンのことを言えないのかな、と心の中で呟くキラだった。

「……偵察、ですか?」
 クルーゼ隊の面々もまた、バルトフェルドの行動について聞かされていた。
「そうだ。それにキラとシン・アスカも同行をする。ただし、それだけでは不安なのでな。ニコル。君にも行ってもらいたい」
 公私混同だと思われるかもしれないが、とラウは口元に苦笑を浮かべながらこう付け加えた。
「それはかまいません。キラさんをお守りすればいいのですよね?」
 その言葉に、ニコルはあっさりとうなずく。
「……隊長……」
 しかし、アスランとしてみれば、それは自分の役目ではないか……という思いがある。
「残念だが、こちらの作戦上、他の者達は全員、待機だ」
 しかし、その言葉を口にする前に、ラウがこう言い切った。
「最悪、敵のMSが出てくる可能性がある。すぐに対処できるよう、ニコル以外のものはそれぞれの機体で待機だ」
 さらに付け加えられた内容では、納得しないわけにはいかない。
 だが、ともアスランは思う。
「……敵がMSまで持ち出すと、そうお考えなのですか?」
 その疑問を自分の代わりに口に出してくれたのはイザークだ。
「可能性は否定できまい。そして、わずかでもその可能性があるのであれば、我々としては対処をしないわけにはいかない。そう言うことだ」
 すぐに動けなければ厄介だろう。
「残念だがな。先日の件がある以上、今回のこともすでに地球軍もしくはブルーコスモスに知られていることだろう。もっとも、こちらもそれを見通しての行動だが……」
 危険と紙一重なのは否めない。だからこそ、キラの側には外見上、警戒をされにくいニコルを置き、他の者はMSで待機をさせるのだ、とラウは告げる。
「もっとも、君たちの機体が実戦に耐えないというのであれば、話は別だが」
 この言葉の裏に潜んでいる意味に気が付かないアスラン達ではない。うかつに同意をすれば、それは最悪、自分たちが『使い物にならない』という烙印を彼に押されかねない、と言うことでもあろう。
「それに関しては大丈夫だ、と思いますよ」
 こう言って口を挟んできたのはミゲルだった。
「キラが、今朝、全部の機体をチェックしていきましたから」
 ストライクも含めて……とかれが付け加えれば、ラウは彼にしては珍しく感情をあらわにする。
「本当にあの子は……」
 休めと言われたら、おとなしく休めばいいものを……とさらに付け加える言葉から、二人の間でそのような会話があったのだ、とアスランは推測をした。そして、キラの行動を考えれば、それは夕べのことだろうとも思う。
「それが《キラ》ですからね。万が一、この中のメンバーに不慮の事態が襲いかかってしまうよりは……と考えたのでしょう」
 その気持ちは痛いほどわかる……とミゲルはさりげなくキラをフォローする。
「それは私もわかっているがな……それであの子が倒れてしまえば本末転倒だろう」
 まして、現在キラは何者かにその身柄をねらわれているらしいのだから、とラウは呟く。
「……ともかく、ニコルはキラとともにバルトフェルド隊長に同行。他の者は、何かあった場合、すぐに発信できるように待機をするように」
 しかし、ラウのそんな態度も一瞬のことだった。すぐにいつもの態度に戻ると、彼はこう告げる。それは、体の責任者としての意識故だろう。
 その態度は見習わなければいけないのではないだろうか。キラもそう望んでいるだろうし。
「了解!」
 こう考えて、アスランも意識を切り替える。
 そして、即座に行動を開始した。






シン君にとって、いいのか悪いのか……本人は、キラとのデートと考えているのでしょうけど、そうは問屋が卸しません。