そうは言っても、事態がやっかいだというのは変わらない。 どこにいてもシンの視線がアスランを追いかけてきているような気がしてならない。そして、それは錯覚ではないだろう。 「……お前、なんかしたわけ?」 あいつに……と問いかけてきたのはディアッカだ。どうやら、キラがいない隙を見計らって声をかけてきたらしい、彼は。 「……キラがらみ、で、ちょっとな」 隠していてもいずればれるのだ。だったら、適当にごまかしておいた方がいいのではないか。そう思って、アスランはこう口にする。 「……そうか……」 そうすれば、ディアッカはそれ以上つっこんでこようとはしない。 「お前も大変だな」 それどころか苦笑混じりにこういってくれる。 「……と言うことは、イザークは抑えておいた方がいいか……」 少なくとも、その方がアスランだけではなく、キラの負担も減るだろうから、と彼は付け加えた。 「……すまん……」 その言葉に、アスランは頭を下げる。 「気にするなって。なんせ、あいつがああだからな」 しかし、そんなアスランの態度をディアッカは笑い飛ばす。 「俺としては、キラに倒れられると困るんだよ。あいつら……昨日の一件の犯人捜しもしているんだろう?」 システムから……とディアッカは眉を寄せる。そして、そのまま視線をデュエルへと向けた。つられたように、アスランもまた、そちらへと視線を向ける。 「さすがに……俺たちにはシステムにふれる許可が出ないからな」 キラであれば信用がある。だから、バルトフェルドも許可を出したのだろう。だが、自分たちにはまだそれだけのものはない。 だから、手伝いたくてもできないのだ。 その事実が歯がゆいというのは事実である。だから、できるだけキラの負担にはならないように、と思うのに……昨日のような失態をしてしまったのだ。その事実が口惜しいと思う。 「OSだけは自力で……と思うが、今手をつけると取り返しの付かないことになりそうでな。あいつのように」 微妙に声の口調が変わったのは、今、どうしてキラがデュエルのシステムに手をつけているかを思い出したからだろう、とアスランは考える。 「あいつも……少しは妥協すればいいのに……」 おとなしく、ディアッカ達のようにキラが来るまで待っていればあそこまでの事態にはならなかったのではないか、とため息をつく。 「もう、あきらめてバックアップデーターと差し替えればいいのにな、あいつも」 そして、キラが最初から構築した方が早いのではないだろうか。 ディアッカのこの言葉に、アスランも同意を示すようにうなずいてみせる。 「でも、キラは他人の努力を無駄にできるような性格じゃないから……何とかしようと思っているんだろうな」 それが自分の首を絞めているとわかっているだろうに、とアスランは思う。だが、そんなキラも好きだから仕方がないのか、とも。 「まぁ、俺たちだけはこれ以上、キラの負担にならないようにしないとな」 実はそれが一番難しいのだが。そう思ってしまうアスランだった。 いきなり、エラー音が鳴り響いた。 「ちっ!」 シンは盛大に舌打ちをすると、それを止めようと手を伸ばす。 「今日はどうしたのかしら?」 そんな彼の耳に、アイシャの声が届く。 「昨日とはまったくちがうわネ」 自分でも、その自覚はある。だが、その理由を口に出すことはできない。そう思う。 いや、アスランのことだけであれば話してもかまわないのだ。 タイミングが悪くて、事の最中に踏み込んでしまった……とそう告げればいいのだから。そして、やるなら鍵をかけるべきだろうとも訴えられる。 だが、アスランの相手が《キラ》ではそう言うわけにはいかない。 幸か不幸か、初日のうちに自分が彼に恋をしているらしいことは見破られているのだ。だから、そんなことをしたなんて彼女に知られたら、何を言われるかわかったものではないのだ。 「……教えてもらえないと言うことは、信用されていないのかしら?」 だが、アイシャの方が一枚上手だったらしい。こう言って彼女は小さくため息をついた。 「そう言うわけでは、ありません」 開発局でのすり込みで『女性には優しくするもの』とたたき込まれたシンにとって、彼女のこの反応は見過ごせないものだ。慌ててそれを否定する。 「ただ……自分で解決をしなければ意味がないことだし……と、そう思っただけです。ご心配をおかけして申し訳ありません」 そして、こう口にする。 「ナラ、いいのだけど、ネ」 この言葉に、アイシャは意味ありげな笑みを浮かべた。 「でも、無理矢理はダメよ? あくまでも、相手の合意をとらなきゃ」 この言葉に、シンは思わず変なキーを押してしまう。そうすれば、当然、エラー音がまた周囲に響き渡った。 「アイシャさん!」 せっかく、自分が出したエラーを修正したのに……とシンは彼女を見上げる。 「アラ、本当のことでショ? アナタの失敗の原因は」 違うの? と彼女は首をかしげてみせる。 「キラちゃんはイイコだし、人気があるワ。それに、別に同性同士だからって、差別する気は私にはないもの」 でもネ、とアイシャは微笑む。 「あの二人の間に割り込むのは大変ヨ?」 両思いだから、と指摘されなくても、シンにはわかっていた。昨日のキラは、あんな事をされてもいやがっていなかった。それどころか、もっととねだっていたではないか、と。 「……それは、わかっています」 だから、アスランの一方的な思いで結ばれた関係ではないことは重々わかっている。それに、ここに来る前にさんざんムウにも釘を指されたのだ。 「でも、俺があの人を好きになる気持ちまでは……誰にも止められないと思います……」 そんなことができるのであれば、とっくの昔にあきらめている、と思う。でなければ、ただの尊敬だけにすませただろうか。 最初は、自分と同じくらいの年齢なのにずいぶん偉そうだ、と思った。 だが、それは彼の実力が裏打ちしたもので、しかもそれを身につけるまでにかなりの努力をしたのではないか、と判断できた。 そうすれば、改めて彼の容姿や言動に視線を向けられるようになった。そして、その繊細とも言える彼の容姿や柔らかな微笑みに見せられてしまったのだ。 彼に思い人がいると知らされたのはその後だった。 それでもあきらめきれなかったのだから、とシンは心の中で呟く。 「それに、俺の方があいつよりいい男になるって言う可能性だってありますし」 その時に、キラが自分の方を向いてくれる可能性だってゼロではないだろう。シンはそう思う。 「理由は何であれ、向上心のある子は好きヨ」 だから、キラが拒まないうちは応援してアゲルとアイシャは微笑む。 それはありがたいと言うべきなのだろうか。悩んでいるシンの耳にさらに彼女の言葉が届く。 「まずは、それを終わらせてネ」 この言葉に、シンは苦笑を返した。 仲間達の心の揺れに一番先に気づくのはディアッカだと思うんですよ。もっとも、そのせいで貧乏くじを引くのも彼でしょうけど。 それにしても、シンには味方が入るのかいないのか、微妙なところですね。アイシャは……楽しんでいるだけのような気もします。 |