「……マジ?」 アスランから内緒の相談がある。そう言って呼び出されたのはつい先ほどのこと。だが、どうせ、キラとのことだろう、とミゲルは高をくくっていた。 しかし、彼の口から出た内容はそれ以上に複雑なものだったと言っていい。 「……キラは気づいていないと思うんだが……あいつに見られた……」 やっているところを……とアスランは吐息だけで告げる。 「ロック、していなかったのかよ、お前ら……」 つっこむべきところはそれなのか、と自分でも思う。だが、まず真っ先に口から出たのがこんなセリフだった。と言うより、これ以外に出るべき言葉がなかった、と言うべきなのかもしれない。 いくら何でも、それはないだろう。 と言うより、そんな状況に自分が陥ったらどうするべきなのか。はっきり言って今のアスランどころの状況ではすまないのではないだろうか。 「……俺が、忘れていたから、俺の責任か……」 と言うよりも、そんな状況ではなかったのだ、とアスランは肩を落とす。 「いちいちキラのそばに寄ってくるやつに嫉妬していたら、やってられないだろうに」 自分をはじめとした同期の者はもちろん、クルーゼ隊やバルトフェルド隊の面々ですら、キラの周りを取り巻いているのだから、と。そんなメンバー全員をキラから切り離すことも不可能だと言っていいのに。と言うよりも、そんなことをしたらアスランの身の安全が確保されるかどうか難しいと言うべきなのか。ミゲルは本気で悩む。 「……お前らはいいんだ……整備兵もかまわない。と言うよりも、みんながキラのそばにいてくれるのは俺としても鼻が高い」 キラの才能と人望を確認できて、とアスランは呟くように口にした。 「だけど……あいつだけは別なんだ……」 さらに彼は、はき出すように言葉を続ける。 「お前達とは違って……あいつは、俺の存在を認める気がない」 それどころか、自分をキラの隣から排除しようとしている。だからこそ、自分も相手を認められないのだ。 アスランはこう告げてくる。 「……同族嫌悪か……」 要するにそう言うことなのだろう。その感情であればミゲルも理解できる。 「しかし、何とかしないわけにはいかないな」 見られた以上、言い逃れはできない。 いくら、キラとアスランが公認の関係とはいえ、さすがにまずいだろう。まして、それをキラ本人に知られた場合、彼がどんな行動に出るか想像できるだけによけいにだ。 「……今は、キラの意識がないからいいけど……」 目覚めたときに自分の姿がなければ不審に思うだろう。アスランはそう言ってため息をつく。 「その間に対策を考えるのは不可能だぞ」 いくら何でも、とミゲルは指摘をする。 「わかっている……」 それでも、少しでも道しるべがほしいのだ、とアスランは呟く。その気持ちも、ミゲルには理解できる。 「だから、さ……いっそ、謝っちまえ」 キラの性格であれば、先に動いた方がいいぞ……とミゲルは口にした。そうすれば、その場では怒っていても、後々まで引きずることはないはず、と。 「……そう、かな……昔はそうだったけど……」 今もそうなのだろうか、とアスランは付け加える。 「変わってないはずだぞ。だから、キラが目を覚ます前にさっさと戻れ」 その間に、自分の方は何とか対策を考えておいてやるから、とミゲルは口にした。 「……頼む……」 珍しくも、アスランは肩を落としたまま頭を下げてくる。 「任せておけ……って言い切れないのが悲しいがな」 さすがに、こういう状況は自分も初めてだ、とミゲルは素直に口にした。 「すまん……でもお前以外に相談できる人間がいないんだ……」 さすがに、と言われてミゲルはさらに苦笑を深める。 「わかっているって。だから、一人で悩むな」 ともかく、キラに謝ってこい、と言葉を重ねればアスランはようやく動き出した。それでも、彼の足取りは重い。 「さて……どうしたもんかな……」 その後ろ姿を見送りながらミゲルはこう呟く。 「何とかしてやらなければならないんだろうけどさ」 本当、難しい問題だ……とミゲルはため息をつくと自分もまた、ラスティが待っているであろう部屋へと戻っていった。 「アスラン?」 部屋に入った瞬間、キラがこう声をかけてくる。その声がかすれているのは、間違いなく自分のせいだろう。 「ごめん……ちょっとやっかい事が……」 そして、これの原因も、間違いなく自分だろう。ともかく、ミゲルの言葉通りに正直に告げることにした。 「やっかい事?」 何、とキラの瞳が告げてくる。 「……しているところをあいつ……に見られた……」 自分が鍵をかけ忘れたせいだ、とアスランは白状をした。そうすれば、キラは呆然とした表情を作る。 「……見られた?」 だが、すぐにはアスランの言葉を理解できないのだろう。恐る恐るといった様子でキラが確認を求めてきた。 「……ごめん」 アスランは言葉とともに頭を下げる。 「そうか……見られちゃったんだ」 だが、キラの反応はアスランが考えていたものと違った。 「仕方がないか。先に引導を渡せてよかった、ともいえるし」 アスランがいる以上、彼の気持ちを受け入れるつもりはないのだ、とキラは言い切る。 「キラ……」 「もっとも、アスランが迷惑じゃなければだけどね」 キラが言葉とともに意味ありげな笑みを浮かべた。 「迷惑なわけ、ないだろう!」 誰よりもキラのそばにいたいと思っているのは自分なのだから……とアスランは口にする。同時に、キラの体を抱きしめた。 「だから、俺のそばにいて」 頼むから、とアスランは付け加える。そんな彼に、キラは抱きしめ返してくる腕に力を込めることで同意を示してくれた。 結局、巻き込まれるのはミゲル……と言うことですね。ある意味、哀れなやつ……と言うべきでしょうか(苦笑) |