「アスラン……何か、おかしいよ?」
 昨日今日と、と二人きりになった瞬間、キラが口にする。
「わかってはいるし、自制していたつもりなんだが……」
 それでもからだが無意識に動いてしまったのだ、とアスランは言い返す。
「ミゲル達なら妥協できるんだが……あいつがキラにふれるのは我慢ができない……」
 彼らであればキラにいくらふれてもかまわない。いや、全く嫉妬心がわかないわけではないが、決してそういう感情からではないことがわかっているから妥協できるのだ。
 だが、シン・アスカはちがう。
 今はともかく、これからあの少年は自分たちの間に割り込んできそうな気がしてならない。
 いや、正確には自分たちの間に割り込んでくるのは彼ではないのではないか。
 オーブ。
 キラの血の源であり、そして、その存在ははぐくまれた国。
 その国が、自分とキラを引き裂くかもしれない。その不安がアスランの中に生まれたのだ。それも、先ほどのシンの言葉がきっかけで。
「やっぱり……おかしいよ、アスラン」
 今まではそんなことを言わなかっただろう? とキラは眉を寄せる。それでも、アスランが不安を抱えているのだけは間違いがないことだろうと察したのだろうか。
 キラは両手を広げて見せた。
 次の瞬間、そのキラの体をアスランはきついほどに抱きしめる。
「僕は君のそばにいる。僕がそう決めているのに、どうしてアスランが信じてくれないわけ?」
 それに負けないくらいの力で彼を抱き返しながら、キラがこう問いかけてきた。
「キラは信じている……」
 それだけは間違いのない事実だ。
 いや、キラを信用しないでどうするのか……と思うのだ。
「でも……オーブの人間は、信用できない……いつか、俺からキラを奪っていってしまいそうで……」
 自分たちの意志には関わらずに……とアスランは自分の不安を正直に口にする。
「バカだね、アスラン」
 そうすれば、キラは即座にこう言葉を返してきた。
「僕がアスランのそばから離れるわけないだろう? そりゃ、任務となれば別だけど……でも、僕が帰りたいのはアスランの隣なんだよ」
 オーブではなく、とキラは微笑む。その笑顔が、アスランにはとてもまぶしく思える。 「わかっている……でも、俺はバカだから、不安なんだ……」
 言葉だけじゃ、とアスランは呟くように口にした。
「……じゃ、確かめる?」
 体で、とキラはどこか恥ずかしさをにじませた声で囁いてくれる。それに、アスランは即座にうなずいて見せた。

「あっ……あぁっ!」
 耳に、キラの甘い声が届く。
 それ自体はある意味心地よいと言っていいかもしれない。
 だが、とシンな心の中で付け加える。
「……だめ、アスラ、ン……」
 甘えるように、彼の手がアスランの背中に添えられた。そのまま、爪を食い込ませる。
「痛いよ、キラ……」
 アスランが低い声で笑う。同時に、彼はキラの下半身をなぶる手の動きを微妙に変えた。
「あぁぁっ!」
 キラの唇から先ほどとは違う意味合いの甘い悲鳴が飛び出す。
 どうして、自分はそれを聞いているのだろう。
 どうして、自分は目の前の光景から目が離せないのだろうか。
 最初は、ただ、アイシャにほめられたことがうれしくてキラに報告をしに来たのだ。そして、できればキラにもほめてほしかった。
 第一、部屋にはロックがかけられていなかったし……と。
 だから、何の疑問も持たずに中に飛び込んだ瞬間、目の前に広がったのがこの光景だった。
「……ア、スラン……ねっ……」
 キラが何事かをアスランにねだっている。
「もう少し、我慢して、キラ……もっとよくしてあげるから……」
 アスランがそんなキラをなだめるように囁く。と同時に、彼の唇がキラの頬に落ちた。それから次第に移動して、やがて二人の唇が重なる。
 そこまで確認したところで、シンはとうとう耐えきれなくなった。
 はじかれたようにきびすを返す。そして、そのまま、部屋から飛び出した。
 背後でドアが閉まる音がする。
 それは、彼らの耳にも届いただろうか。
 一瞬そんな考えがシンの脳裏をよぎる。だからといって、確認をしに戻ることもできないだろう。その思いのまま、少しでもあの部屋から遠い場所へと向かう。
 だが、どうして自分はこんなにもあの光景がいやだったのだろうか。そして、どうして目を離すことができなかったのか。
 それを考えて、シンは自分の中にあるある考えに行き着いてしまった。
 キラの媚態を見ているのはいやではない。むしろ、もっともっと見ていなかったような気がしてならない。
 と言うよりも、自分があの肌に触れたかったのだ。
 だから、アスランが彼にふれているのが許せなかったのかもしれない。
「……どうして……」
 アスランの立場に自分がいなかったのだろうか。
 二人は幼なじみなのだ、とミゲル達からは聞かされている。そして、三年前別れるときから、お互いの気持ちを確認していたのだとか。それだから、今更自分が割り込めるはずがない、と言う言葉にはある程度納得するしかないだろう。
 だが、と思う。
「人の気持ちに……絶対なんてないんだ……」
 だから、あるいは自分がアスランに変わってキラの隣に建てる日が来るかもしれない。もちろん、そのためには多大な努力が必要だろうが。
 だが、とも思う。
 どうして、自分は彼よりも後に生まれてしまったのだろうか。
 もし、同じ年に生まれ、当然のように出会っていたならば……と思わなくもない。
「だから、俺は……あんたが嫌いなんだ、アスラン・ザラ」
 シンは深紅の瞳にある決意を浮かべると、こう呟いた。





アスランとキラはラブラブですが……見てはいけないものを見てしまったシンの気持ちは(苦笑)
それにしても、これでまた波乱の予感でしょうか。