「……マジ?」 目の前の相手を見て、ディアッカが驚愕に目を見開いている。いや、彼だけではない。キラを除いた者達すべてが信じられないというような表情を作っていた。 「お久しぶりです、アイシャさん」 ともかく、このままではいけないだろう。そう判断をして、キラは口を開いた。 「相変わらず、すてきなプロポーションですね」 にっこりと微笑んでこう告げれば、アイシャはさらに笑みを深める。 「当たり前でショ! でなければ、アンディのそばになんていられないわ」 彼のそばにいていいのは、最高レベルの人間だけ、と言いきった彼女に、キラはふわりと微笑んだ。 「もちろん、その中にはキラちゃんも入るのヨ?」 後ろの坊や達がどうかまではわからないけど……と言い切る彼女に、キラは思わずを抱えたくなる。 「……アイシャさん……」 「まぁ、レベルが足りないなら、鍛えるだけだけど、ネ」 お任せされる子は誰かしら、と楽しそうに赤い唇がつづった。それを合図にしたかのように、キラの軍服の裾が軽く引かれる。何事かと思えば、シンが不安そうな表情で自分を見上げているのがわかった。 「……どうしたの?」 声を潜めてこう問いかければ、 「あの人、本当に大丈夫なんですか?」 囁くようにこう言い返してくる。それが何を意味しているのか、キラにも十分わかった。と言うより、最初にあったときは、キラ自身そう思ったのだ。 「大丈夫。あの人はああ見えても歴戦の勇者だし、一応、教官としての資格も持っているから」 実際に教えたことがあるのかどうかはわからない。それでも、バルトフェルド隊に放り込まれた新人が、一月も立たないうちに十分使える人材になっていることは確かだ。 「それに……あの人は正式にはザフトの一員じゃない。君にはうってつけだと思うよ?」 違う、と付け加えれば、シンは微妙な表情を作る。 それはどうしてなのだろう、とキラは思う。確か、アストレイの開発陣は彼とギナを除けば皆女性だけだったはずなのに、と。 「……そう、ですか……」 それとも、別の理由からなのか。どちらにしても、ここにいるなら納得してもらわないと……とキラが心の中で付け加えたときだ。 「……えっ?」 いきなり脇から引っ張られる。そのままバランスを崩すようにして誰かの腕の中に倒れ込んでしまった。もっとも、それが誰かなど確認しなくても気配でわかってしまったが。 「アスラン……」 勤務中だろう、とかすかに非難をにじませて彼の名を口にする。 「すまん。ちょっと押さえられなかった」 シンの存在が、とアスランは言外に告げてきた。その内容に、キラは思わずため息をついてしまう。本当にどうしてここまでこの二人は相性が悪いのだろうか、と。 「まぁまぁ、キラ……恋する青少年には妥協してやれって」 そんなキラをなだめる――と言うよりはアスランをフォローする――かのようにミゲルが口を挟んでくる。 「そうは言うけどね、ミゲル」 「だから、後でしっかりと言い聞かせてやれって……アスラン、お前もだぞ。いい加減にしないと、隊長に怒られるどころか、他の隊に転属を言い渡される可能性もある。それでもいいのか?」 キラの言葉をさりげなく遮ると、今度はアスランに向けてこう言い放つ。そのミゲルの言葉に、アスランもうなだれるしかないらしい。 「すまない……気をつけているつもりなんだが、無意識に……」 キラを抱き寄せてしまったのだ、と付け加える彼に、キラだけではなくミゲルもため息をついてしまう。これはもう、病気と言っていいのだろうか。 「そこまでネ。恋人同士のじゃれ合いは見ていて楽しいけど、ほどほどにしないと、本当に嫌われるわヨ」 くすくすと笑いながら、アイシャも口を挟んでくる。 「ともかく、この子は引き受けたワ。隊内の決まり事と、心構え……後は、MSでの戦闘についてたたき込めばいいのよネ?」 ともかく、この場からシンを引き離してしまうのが一番だろう、と判断したのか。アイシャはこう問いかけてくる。 「お願いします。できれば……彼を実戦に出さなくてすむことを祈っていますけど」 オーブの人間だから、と言う言葉は口に出さなくても彼女にはわかったらしい。 「わかったワ。でも、そうならない可能性の方が強そうだ、と言うのが悲しいけど」 特に、あんな事があったばかりだから……と言う言葉から、何があったのかすでに彼女が知っているのだ、とキラは判断をする。もっとも、それも当然か、とすぐに思い直した。ここに来る前に、アイシャは間違いなくバルトフェルドのところに顔を出してきたのだろうから、と。 「と言うわけで、行きまショ?」 言葉とともに、アイシャは呆然としているシンの腕をとった。そして、そのまま引きずるようにしてこの場を離れていく。 「俺は、自分で歩けます!」 ようやく我に返ったらしい彼の声がキラ達の耳に届いたのは、二人の姿が兵の陰に隠れたときだった。 「……一体、何なんだ、あの服装は……」 あまりのことに圧倒されていたのか。それとも別の理由からか。今まで口を挟む気配がなかったイザークがこんなセリフを漏らす。 「いいんじゃねぇ? 少なくとも、目の保養にはなる。キラの言葉からすれば、実力もあるようだしさ」 そんなイザークに、ディアッカが苦笑混じりの言葉を投げかける。 「……知らないって言うのは、幸せだよな」 そんな二人の会話を耳にしたミゲルが小さな声で囁いてきた。 「そのうちわかるよ。アイシャさんの本当の怖さが」 アスランの腕の中で、キラもこう言い返す。 「そうなのか?」 「信じられねぇ」 「あんなに魅力的な方ですのに」 アスラン達が口々にこう聞いてくる。それに、キラとミゲルは意味ありげな笑みで答えた。 「それよりも、みんなの機体についてチェックさせてほしいな。アストレイに関しては大丈夫だろうけど、イージスの方はどうかわからないし。ストライクにも手をかけてやらないといけないか」 先ほどの事件で予定がずれているから、がんばらないと、とキラは付け加える。 「無理はだめだぞ、キラ」 そんなキラに向かって、アスランが即座にこういってきた。 「わかっているよ」 だが、少しでも早くやらなければならないことはやってしまおう、とキラは思うのだ。 「……まぁ、お前らがきちんと調整できていれば、無理はしたくてもできないんじゃないの?」 ミゲルのこの一言を耳にした瞬間、アスランだけではなくイザーク達も硬直している。 「……ひょっとして……」 「深く問いつめない方がいいと思うぞ、キラ」 呆然と言葉を口にしたキラの肩をたたきながらラスティが苦笑を浮かべる。その理由がわからないキラではなかった。 アイシャさん登場。 シンはキラだけではなく、彼女にも翻弄される予定。もっとも、シンだけではなさそうですけどね。アスラン達も遊ばれるでしょう、間違いなく(苦笑) |