「……誰をねらっての犯行だろうな」
 報告を耳にしたパトリックがこう呟く。
「わからんが……ともかく、誰の命も失われずにすんでよかった、と言うところではないか?」
 それに言葉を返したのは、ユーリ・アマルフィだった。
 強硬派と穏健派、と言う立場の違いはあれ、二人ともザフトに深く関わっている。そして、その子息はともにクルーゼ隊に属しているのだ。
「有能な兵士とその副官……と言うだけではなく、オーブとの関係上、彼らには生きていてもらわなければならないからな」
 我々のために、とパトリックが口にすれば、ユーリはあきれたようにため息をつく。
「正直に口にすればいいものを。キラ君の心配をしていると」
 気に入っているのだろう、と彼はさらに言葉を重ねた。
「……そうは言うがな、ユーリ……」
 パトリックは苦虫を噛み潰したような表情を作ると、重々しい口調で言葉をつづり始める。
「我々が、一部の者だけを特別扱いをするわけにはいくまい」
 表向きは、と付け加えれば、ユーリも小さくうなずいて見せた。
「確かにな。我が子であれ、ひいきはできぬのがつらいところだ」
 それでも、と彼は付け加える。クルーゼの元であれば、彼らが生き残る可能性は高いであろう、と。
「でなければ……預けんよ」
 これも公私混同なのであろうが、とパトリックは苦笑を浮かべる。
「確かにな……まぁ、その礼に、多少イレギュラーな事態でも目をつぶるべきなのだろうな。彼の国の技術力とデーターをかいま見るため、と言うことにしてでもな」
 それが何を指しているのか、もちろんパトリックにもわかった。
「それと……さりげなく、こちらの手の者をあの隊に配備しておくか」
 彼らをフォローできるように、とパトリックは呟く。
「その程度ならばかまわないのではないか? あぁ、いざとなれば、キラ君の同期を配属するという手もあるぞ」
 自分のところにも一人いるが、とユーリが苦笑を浮かべた。
「どうかしたのか?」
「いや、彼らの話では、MSに乗っていないときのキラ君は、自分たちが守らなければならないのだそうだよ。だから、ミゲル・アイマンが現在同じ隊にいるのは喜ばしいのだそうだ」
 そして、できるなら、自分も同じ隊に行きたかった……と言っていた、と彼は付け加える。
「それも、また彼の魅力の一つなのだろうな」
 そうして人を集められると言うことも、またキラの才能の一つかもしれない、とパトリックは思う。だからこそ、彼を手放したくないのだが……とも。
「ともかく、できうる限りのフォローをすべきだろう。とりあえずは……バルトフェルド隊の者達の再調査か……」
 ザフトは志願兵だ。その同期さえ認められれば、誰でも入隊できる。だからこそ、あちらのスパイが紛れ込んでいる可能性もあるのではないか。
 ユーリはこういいたいのだろう。
「それが無難かもしれんな」
 あちらもそれに関しては動いているだろうが、とパトリックは思う。
 しかし、こちらでも動けばそれだけ対処が早くとれると言うことでもある。
 そう考えて、彼は誰にその役目を与えようか、人選を始めた。

「バカですねぇ」
 報告を受けて、アズラエルはこう口にする。
「いくら何でも、基地の内部をねらっては、肝心なものまで壊してしまうことになりかねないでしょうが」
 それでは意味がないだろう、と彼は思う。
 必要なのは《生きている》あれなのだから、と。
「……しかも、今回のことであれらが無用な警戒をしたらどうするんですか」
 そうすれば、あれを手に入れることすら難しいだろう。それでは、自分の計画が無駄になるのではないか。こう考えるだけで、忌々しさが増してくる。
「本当に……その指揮を執った無能者をどうしてやりますしょうか」
 それで溜飲が下がるわけではない。それでも、とアズラエルは思う。少しは気晴らしになるだろう、と。
「アズラエル様、それは……」
「わかっています。せっかくの駒をこんな事で捨てるわけにはいかないのでしょう?」
 本当は、今すぐにでも切り裂いてやりたいのだが、とアズラエルは心の中で付け加える。
「ただし、釘を刺しておいてください。次はありませんからね!」
 こう告げる彼に、部下はしっかりと首を縦に振って見せた。

「……ねらいは、なんだと思っているのかね?」
 二人きりになった執務室――と言っていいのだろうか――で、バルトフェルドがこう問いかけてくる。
「あの子だろうね」
 即座に、ラウはこう言い返す。
「そう断言できる理由はあるのかな?」
 もっとも、聞いていいのであれば……と彼は付け加える。それは、自分たちがどのような立場であるのかを知っているからだろう。
「……奴らにしてみれば、自分たちに都合がいい傀儡がほしいだけだろうが……」
 それにキラを選んだ理由がわからない、とラウは思う。
 奴らの思想からいけば《キラ》よりも《カガリ》の方が適任だろう、と思うのだ。しかし、それでも《キラ》を選ぶというのであれば、それこそやっかいな状況だと言っていいかもしれない。
「あの子がそんなに御しやすいと思っているのかね」
 見た目はともかく、中身は逆だぞ……と笑うバルトフェルドに、ラウもうなずいてみせる。
「あの子は頑固ですからね。こうと決めれば、他の誰も動かすことはできない。もっとも、それを知らぬからこそ、馬鹿な行動をとる者が出るのでしょうが……」
 キラもまた、大切な者を守るためであればどのような無茶でもいとわないと考えているはずだ。そう考えれば、目を離せないのではないか、とも思う。
「どちらにしても、頭が痛いことだな」
 こう口にしている割には、どこか楽しげに聞こえるのはラウの錯覚であろうか。
「まぁ、そろそろアイシャも帰ってきてくれるはずだし……オーブの坊やを使えるように鍛えてもらおうかね」
 それまでの間、キラに関してはアスランをサポートにつければいいだろう。彼はこう告げる。
「後は……今回のことを手引きした者が誰か、それを調べるだけですな」
「そうだね……まずは、お子様達のお手並みを拝見、かな?」
 その間は、外に出て行くことはないだろうし……とバルトフェルドは笑う。それにラウもうなずき返した。





今回は大人達の事情です。しかし、この話のラウさんとバルトフェルド隊長は仲がいいですね。そして、結局は最高評議会議員までも魅了しているキラ……はい、私の理想です(苦笑)