「どうだ? 使い物になりそうか?」
 結局、ミゲルに担がれたままキラはラウ達のところへと出向くことになってしまった。だが、それを気にすることなくバルトフェルドが声をかけてくる。
「いや、すごいですって。機体そのものもそうですが、相変わらず怖い位のプログラムを組んでくれますよ、こいつは」
 キラより先にミゲルが彼に言葉を返した。
「……ミゲル……」
 そこまで言われるものではない、とキラは思っている。実際、あのOSは使う人間を選ぶのだ。ミゲルであれば可能だろうが、汎用というにはほど遠い。それを手放しでほめられても意味はない、とキラは思っているのだ。
「そうか。十分使い物になるわけだな、機体の方は」
 だが、キラに口を開かせる間を与えずに、バルトフェルドまでがうなずいている。
 頼むから、自分に口を開かせてくれ。
 キラは心の中でこう呟く。だが、それはどうやら、叶えられないらしい。
「なら、問題はあの少年の方か」
 データーでは、それなりのようだが……とバルトフェルドが呟く。
「もっともデーターではわからないことも多いがな」
 本人の性格などは……とラウも口にする。
「ラスティは、あんなもんだと言っていましたが?」
 キラの体をおろしながら、ミゲルは言葉を口にした。
「ただ、このままでは死ぬ可能性も高い、ともいっていましたけど」
「彼にないのは……経験と、戦いに対する心構えですよ」
 ミゲルのこの言葉で微妙な間が生まれる。そのおかげで、ようやくキラも口を挟むことができた。
「もっとも、それはオーブという国に住んでいるものであれば仕方がないことではないか、と思いますが?」
 自分たちという存在を知っているカガリですら、あのような反応を見せたのだ。戦争なんか、別の国のことだと思っている人間であれば、その心構えがなくても仕方がないのではないか、とキラは思う。
「確かに……あの国の住人ではそうかもしれないね」
 バルトフェルドもそんなキラのセリフに納得をしたというような表情を作る。
「なら、遠慮なくしごかせてもらおうか」
 にやり、と笑いながら、彼はこう付け加えた。
「バルトフェルド隊長」
 一体何をするつもりなのだろうか、彼は……とキラは思う。
 だが、それを問いかけるよりも早く、何かがキラの視界をかすめた。
「危ない!」
 それが何であるのか認識すると同時に、彼はミゲルに押し倒される。他の二人も、とっさに行動を起こした。
 次の瞬間、ガラスが壊れる音が周囲に響く。そして、何か激しい衝撃が彼らの体を包み込んだ。

 シミュレーションの結果はさんざんだと言っていい。
 だが、ある意味、それは予想していたことでもあった。だが、もう少し何とかなるのではないか、と思っていたことも事実だった。
 それだけの力を、自分は持っているはずだ、と。
「……畜生……」
 だが、それはただのうぬぼれだったのか。
 それとも、オーブという国の中で培ったそれは、戦場という場では役に立たないものなのか。
 シンは悔しさを少しでも紛らわそうと唇をかむ。
「まぁ、これなら妥協範囲か?」
 そのときだ。シミュレーターの外からこんな声が届く。しかし、それはシンには聞き覚えがないものだった。 「そうですね。よくやっている方でしょう? 実際の戦闘経験がないのであれば」
 さらに付け加えられた声も、同様だ。
 と言うことは、この基地にいるパイロット達なのだろうか。ある程度は認められたのだろう、とシンは思う。
 だが、一番認めてほしい相手はこの場にはいない。
 その代わりにいるのは、一番、気に入らない相手だ。
「まぁ、キラが使えるって判断したんだからさ。そう判断してもらわないと困るんじゃねぇ?」
 この声は知っている。ラスティだ。
「さすがに、連れてきてすぐに死なれたら……キラとしても寝覚めが悪いだろうし」
 この言葉に、シンは眉を寄せる。
 つまり、彼も自分が戦場に出れば死ぬ、と考えているのだろうか。それとも、別の理由からそう思っているのかもしれない。
 だが、はっきり言って思い切りおもしろくない。
 自分の今まで行ってきた努力が無意味だ、と言われていることと同じだ出はないだろうか。
 もっとも、その言葉を口にしたのがキラであれば納得できたかもしれない。
 彼は、オーブのために努力をしてきた存在だから。同じように、まだ顔を見てはいないが《ラウ・ル・クルーゼ》が相手でも同じだっただろう。
 だが、目の前の連中は違う。
 彼らはプラントの第二世代だ。自分たちが努力をしなければ身につけられない知識や技術を、ある意味、何の苦もなく手に入れられる存在でもある。
「……だから、気に入らないんだ……」
 その上《キラ》の気持ちまで手に入れ、その上、それを周囲――と言っていいのだろうか――の人間からも認められている存在が。
 同時に、どうして誰よりも早く彼と出会うことができなかったのか……とシンは心の中で付け加えた。そうであれば、当然のように彼の隣にいることができただろうに、と。そう思うのだ。
 しかし、今更そんなことを言っても仕方がないことはわかっている。
「チャンスを与えられたんだ……それを意地でも生かしてみせる」
 そして、キラに自分の存在を認めてもらうんだ、とシンが心の中で決意を新たにしたときだ。
 外からざわめきが響いてくる。
「……マジ? で、怪我人は?」
「隊長方は無事なのか?」
「ミゲルとキラは?」
 さらにこんなセリフが耳に届く。その中に《キラ》の名前があったことを、シンは聞き逃さなかった。
「何があったんだ!」
 こう口にしながら、シンはシミュレーターから飛び出す。だが、周囲の誰も、それに耳を貸してくれる余裕はないのだろう。答えは返ってこなかった。





またしても事態が複雑に……何とかなるはずなんですけどね、一応プロットでは……