「……キラ?」 キラの声が聞こえたような気がして、アスランは振り返る。だが、そこに彼の姿があるわけはない。 「どうした、アスラン?」 隣に座っていたミゲルが不審そうに問いかけてきた。 「何でもない……気のせいだ」 そんな彼に、アスランはこう言葉を返す。だが、胸の中で何かが警鐘を鳴らし続けている。 それはいったい何なのだろうか。 「……キラ達に……何かあったのか?」 思わずこう呟いてしまう。 「……大丈夫だ。ラスティもフラガさんもついて行っているだろうが」 あの二人がいて、キラに危害を加えさせるようなことはしないはずだ……としっかりと聞きつけたミゲルが囁き返してくる。 「そう、だといいんだがな」 それでも納得できないのは、キラ達から聞かされたあれこれがあるからだろうか。 どう考えても、あの国はキラにとって安全ではない。 ザフトの――ヴェサリウスの中にまで手を伸ばしてくるような存在がいるのだ。その本拠地であるといえるオーブが安全であるわけはない。例え、カガリを始めとするアスハの者たちがキラを守ろうとしてくれていてもだ。 そう考えれば、キラを行かせたくはなかった。 だが、キラ以外の者がカガリを送っていくことは不自然だった。 そして、あの地にはキラの《両親》がいる。 久々に甘えたいと思う気持ちは尊重してやりたい、と思う。自分にはもう二度とかなわないことなのだから。 「……ラスティだって、一応《紅》だしな。キラにいたっては言わずもがなだろう」 だから、信用してやれ……とミゲルは付け加える。 「第一、キラ個人の実力に関して言えば、お前よりもはっきり言って上だぞ」 下手に付いていけば逆にアスランの方が守られてしまうに決まっている、とミゲルは断言をした。 「そうだな」 確かに、キラの方が強い。 守るためなら、きっと誰かを傷つけることも厭わないだろう。 しかし……とアスランは心の中で付け加える。その後で、キラはきっとひどく落ち込むのだ。 そんな彼を抱きしめてやるだけでも違うのではないだろうか。 あるいは、何も考えられない状況に追い込んでしまえばいいのかもしれない。 例えば……と考えたところで、アスランは自分の失敗に気づいた。 ゆうべ、自分とキラが何をしたのかをしっかりと思いだしてしまったのだ。その結果、若い彼の体は勝手に反応を見せてくれる。 だが、今の状況では処理のために席を立つなんてできるわけがない。 深いと息を吐き出しながら、アスランは何とか熱を散らそうと努力し始める。 「……本当、バカだな、お前は」 そんな彼の耳に、ミゲルの呆れたような声が届く。 「……悪かったな……」 若いんだよ、俺は……とアスランは囁き返す。 「似たようなもんだろう、お互い」 くすりとミゲルが笑いを漏らしたときだ。クルーゼ達が姿を現した。その瞬間、周囲の空気が変わる。 アスランとミゲルにしてもそれは同じだ。 これから彼らの口から作戦内容が告げられる。 それが、自分たちにとってはどれだけ大切な内容なのか、アスラン達もわかっていた。 その上、キラ達が戻ってきたときにはそれを説明できるようにしておかなければならない。 一言も聞き逃すことは出来ないし、彼ら――というよりはキラ――が疑問に思うであろう事はしっかりと確認しておかなければいけないだろう。はっきり言って、それはかなりの難問なのではないだろうか。 キラの思考は慣れているアスランですら時々《突飛》と思うような方向に行ってしまうのだ。 「待たせたね」 こう言いながら、クルーゼがアスラン達へと顔を向ける。 もっとも、彼の視線が何処を見つめているのか、それは仮面のためにわからないが。 ただ、アスランには自分に向けられているような気がしてならなかった。 もちろん、それは錯覚かもしれない。 だが、その可能性は否定できない、とアスランは心の中で呟いていた。そして、それは決してうぬぼれではないだろう、とも思う。《クルーゼ》ではなく、《ラウ》であれば、キラのために自分の存在を失いたくはないはずだ、と、そう考えるに決まっているのだ、と。 「我々がなすべき事は簡単だ。この地にいるらしい、地球軍の新型の奪取もしくは破壊だ。幸い、宇宙で建造されていた機体に関してはクルーゼ隊が無事に確保してある。だが、情報では、後三機、地上で建造されているらしい。そして、そのテストがこの地で行われているらしいのだ」 クルーゼの脇にいたこの地域を管轄しているバルトフェルドが口を開く。 「クルーゼ隊の面々も、我々に協力をしてくれる。もっとも、それはあくまでも補佐であり、彼らが奪取してきたMSの性能テストの一環だと思ってくれて良い。砂漠で二本脚は使い物にならないだろうからな」 このセリフに、イザーク達が微かに反応を見せる。だが、それでも不満を口に出さないのは彼らなりの自制心だろうか。 と言いつつ、この後が怖い、と思うのはアスランだけではないだろう。既にミゲルは小さくため息をついている。 「……本当、ここにキラがいてくれればな……」 もう少し楽なのに……とミゲルがぼやく。 「諦めてくれ……あちらはあちらで、今頃厄介事の最中だと思うぞ」 カガリがいるからな……と、先ほどとは違ってアスランがミゲルを諫める。 「わかっているけどなぁ」 だが、キラがいるといないとではイザーク達――というよりは、イザーク個人か――の態度が違うのだ。どちらが扱いやすいか、と言えば言うまでもないであろう。 しかし、いないものは仕方がないのではないか。 以前はミゲルだけで何とかしていた、というのは事実なのだから、とアスランは考える。 「問題は、敵のパイロットも我々の同胞の可能性がある、と言うことだ」 そんな二人の会話とは関係なく話はすんでいく。 「中には、プラントよりも地球連合を選んだバカもいるがな。それ以上に厄介なのは……奴らによって生み出された、支配されることを普通と感じるように教育された同胞の存在だろうな」 彼らについてどう判断をするか。それは本国でもまだ結論が出ていないのだ、とバルトフェルドは口にする。 それは、そうかもしれない。 彼らも見方を変えれば被害者なのだから。 「それともう一点……この場にいるかどうかはわからないが、人為的に能力を高められたナチュラルの存在もあるらしい。その者たちの能力は未確認だ」 不意にクルーゼがこう告げる。 「と言うことだから、決して敵を侮らないように……あぁ、クルーゼ隊の坊や達には意地悪をするなよ。キラに恨まれるぞ」 不意に口調を変えてバルトフェルドがその後を引き継いだ。 「……あいつは……何処までシンパを作っているんだ」 キラの才能を考えれば十分あり得る話だろう。しかし、ついついこうぼやきたくなってしまうアスランだった。 と言うわけで、アスランとミゲル側……と言うよりはクルーゼ隊の面々の話になります。バルトフェルド隊長が出てきたのは、もちろん私の趣味です(^_^; しかし、今回、キャラクター入り乱れ……になりますね。オリキャラだけは出さないようにしたいですが……危ないですね、このままでは。 |