この雰囲気までは予想していなかったな。
 キラは心の中でそう付け加える。というよりも、アスランがここまで心が狭いとは思わなかった……というべきなのだろうか。
「アスラン!」
 それでも、キラが呼びかけただけでいきなり彼の全身にはえていた棘が消えるあたり、愛されているんだろうか……とキラは小首をかしげたくなってしまう。
「何だ?」
 そして、その表情のまま彼は駆け寄ってくる。
「……ミゲルがどこにいるか、知らない?」
 しかし、その表情もこの一言であっさりと瓦解してしまった。
「さぁ……そこいらにいるんじゃないのか」
 普段なら、知らなければ一緒に探してくれるのに、今日はこの一言で終わらせてしまう。これは本気でまずいかもしれない、とキラは心の中で呟く。
 少なくとも、今朝は機嫌がよかったのだから、これは間違いなく《シン》のせいだろう。
「……困ったな……隊長のところに行く約束だったのに……」
 この一言が少し効いてくれればいいのだが……と思いつつ、キラはため息をついて見せた。
「隊長のところ?」
 そうすれば、予想通りアスランがこの一言に反応を返してくる。
「そう。バルトフェルド隊長の手が空く、という話だったから彼を連れて行って……という話になっていただけ。アスランも一緒に来る?」
 その後は、バルトフェルド隊の方で、基地内の案内や設備の説明をしてくれることになっていたのだ……とキラは付け加えた。
「そうなんだ」
「……聞いていませんよ、俺は……」
 どこかほっとした表情のアスランとは違って、今度はシンがむっとしたような表情を作る。
「何でお前に言わなければいけない」
 しかし、アスランはどこか勝ち誇ったような口調でこう言い返す。
「隊長達の指示だ、ということは命令と同じだぞ」
 それに従えないと言うことは、自分たちにとって邪魔だということだ。アスランはこう付け加える。
 その口調も、いつもの彼らしくないものだ。
 ということは、本気で彼が煮詰まっている証拠でもあるだろう。
 本当にどうしようか……とキラが心の中で付け加えたときだ。
「あいつも、本当に困ったもんだな」
 苦笑混じりの声がキラの耳に届く。
「ミゲル?」
 一体どこからやってきたのか。視線を向ければ苦笑を浮かべているミゲルと手のひらで顔を覆っているラスティの姿が確認できる。
「……予想していたけどな」
 あの二人の対立というか、キラの取り合いは……と言われて、キラはなんと言葉を返していいものかわからなくなってしまった。
 確かにそうなのかもしれないが、もう少し言葉を選んでもらえないだろうか、とも思うのだ。
「……ミゲル……」
 思わず恨めしそうに彼の名を呼べば、
「本当に事だろうが。もっとも、ここまですごい……とは思わなかったけどな、俺も」
 だから、アスランを自由にさせていたのだが、とミゲルは言葉を口にする。こうだとわかっていれば、他の仕事を押しつけていたのだが、と彼は付け加えた。
「……といっても、お前らは先に隊長達のところだろう? その間、責任を持ってあいつらを見張っていてやるって」
 止められるかどうかは自信がないが……とラスティが呟く。
「ありゃ……難しいだろうな、本気でけんかを始めれば」
 自分で求められる自信がない、とミゲルまで口にする。
 言われてみればそうかもしれないが……と思ってしまうあたり、自分でもフォローのしようがないと思っていたのだろうか。キラはこう考えてしまう。
「そのときは……周囲に応援を求めろ!」
 それしかない、とミゲルは断言をする。
「そこまでしなくていいよ。たぶん……アスランもわかっていてやっているんだろうし……僕がいなくなったら、おとなしくなるんじゃないかな?」
 たぶん、自分に見せつけているだけだろう、とキラは付け加える。
「その可能性はあるな。どちらに味方をするか、確認したいだけかもな」
 もっとも、下手な行動をとればやっかいなのは事実だが……とミゲルもうなずく。
「というわけで、俺と一緒に隊長のところに行こうな。拉致していってやるから」
 それなら、連中もどうすることもできないだろう……とミゲルは口にすると同時に、キラの体を抱え上げた。そのまま、軽々と肩に担ぐ。
「ミゲル!」
 キラはとっさにこう叫ぶ。
「相変わらず軽いよなぁ、お前。本当にさ」
 ラスティ並みとは言わなくてももう少し太れ……といいながら、ミゲルは歩き出す。
「ミゲル!」
 ようやく、キラ達の様子に気がついたのだろう。アスランがあわてたように彼の名を口にした。
「何をしていんだよ、お前!」
 その後に続いたのはシンの声だ。
「何って……隊長のところに行くだけだって」
 こいつとセットで……とミゲルが笑う。
「お前らはそこで待機な」
 この言葉のまま、彼はさっさと歩き出した。
「命令だからね。そうでないと追い出されるかもしれないからね!」
 言葉尻に乗るのは不本意だが、と思いつつキラもこう口にする。さすがにこのセリフは効果があったらしい。追いかけようとしていたシンの足が止まる。
「後はお願いね、ラスティ」
 キラはミゲルの担がれたままさらに付け加えた。
「わかっているって。ミゲルが失言しないように見張っててくれよな」
 そうすれば、ラスティも明るい声を返してくれる。それを不満そうに見つめるアスランを後でなだめるのが大変かもしれない。キラは心の中でこう付け加えた。





ミゲルのキラお持ち帰り……じゃなくて、連れ去りですね。いいのか、それで……と思いつつも、ラスティ公認のようですし。本当にこいつらは(苦笑)
アスラン、立場がありませんね。