「すごい、な」 アストレイのコクピットに収まったミゲルがこう呟く。 「だろ?」 そんな彼の耳に、ラスティの自慢げな声が届いた。 「お前の手柄じゃないだろうが」 あきれたように苦笑を浮かべるミゲルに、ラスティはさらに胸を張って見せた。 「キラがOSを調整するときに手を貸したのは俺なんだけど」 でないと、とんでもないものになりかねなかったんだぞ……とラスティは主張をしてくる。それがどこまで本当かはわからないが、確かにこのOSなら、十分に戦えるだろうとミゲルも思う。 後は、自分用に微調整をするだけだ。どうやら、ラスティはそれもキラにやってもらっていたらしいが、自分までキラに甘えるわけにはいかないのではないか。 第一、朝からというもの、キラは少しも休む暇がないのではないか、と思えるほどあちらこちらか声をかけられている。 その上、そのそばにはあの少年――シン・アスカが、まるで子犬のようにくっついているのだ。 「問題は……あれか」 その二人の姿を、アスランが苦々しい思いで見つめている。 「……キラのやつ……思い切りとばしていたからな……」 オーブで……とラスティは小さくため息をつく。 「あの場合、あれは仕方がなかったし……キラが確認したいこともわかっているからいいんだけど……でもなぁ……」 あれは自分が見ていても見ほれてしまうものだった。だから、何も知らないオコサマが一発で堕ちても仕方がないだろう、とラスティはさらに付け加える。 「そんなにすごかったのか?」 ラスティがここまで言うとは、キラはかなりのことをやらかしたのではないか、と思いながらミゲルは問いかけた。 「俺さ……キラが本気で戦っている姿をまじまじと見たの初めてだったし……あれって、本当に総毛立つって感覚かな? あまりのすごさに」 クルーゼとミゲルの模擬戦闘を見たときよりも、すごいと思ったのだ……と彼はさらに付け加える。 その感覚は、ミゲルにも理解できた。 というよりも、自分たちにとってはそれが日常だったのだ、といえるかもしれない。 アカデミー時代から、キラの操縦は一種神懸かり的なところがあったのだ。しかし、彼の場合滅多にそれを見せることはしない。それは、彼の性格からすれば当然のことなのかもしれない、とミゲルは思っていた。 キラが本気にならざるを得ないときは、それこそ、本気で相手を『殺さなければならない』と考えている事と同意語でもあるのだ。 だが、キラはできるだけ他人を傷つけないようにと考えている。いや、傷つけたがらないといった方が正しいのだろうか。 しかし、それをやった……ということは、相手は何をやらかしたのか。キラの逆鱗に触れたと言うことは、彼の大切な存在を傷つけようとしたことなのかもしれない。 しかし、オーブの中にもバカがいるもんだ、とミゲルは心の中で呟く。 「そう言えば、そのとき、キラが使っていたのがこの機体なんだけど……OSそのままだって言ってたな」 なんか、いきなり性能が段違いにアップしたんだよな……とラスティが思い出したように呟く。 「あぁ……キラならそのくらいやるだろう。お前が宇宙で使っていたカスタムジンにも同じようなプログラムが組み込まれていたぞ。ただし、キラがロックしていたはずだが」 あれは状況を考えずに使えるものじゃないからな、とミゲルはうなずく。しかし、それをこの機体に組み込んだままだ、ということは、自分なら大丈夫とキラが判断してくれたと言うことだろう。 「……ともかく、俺とお前はこのままでいいとして……問題は連中だよな……」 ただでさえ、調整がうまくいっていない上に、キラのそばにはシンがくっついている。声をかけようとして邪魔をされたイザーク達がどうでるだろうか。それ以上に、キラのそばに寄れないアスランがいつ切れるか。こちらの方が重大な問題かもしれない、とミゲルは思う。 「……まぁ、明日になれば、あいつをアイシャさんが引き取ってくれるだろうが……それまで、他の連中が持つかな?」 「って言うより、アスランが……だな?」 どうやら、ラスティも同じ不安を抱いていたらしい。こんなセリフを口にした。 「ただでさえ、キラ不足でいらついていたからな、あいつも」 こう言いながら、ミゲルはさりげなく手を伸ばす。そして、そのままラスティの体を自分の膝の上へと引き寄せた。 「……ミゲル……」 何をするんだ、とラスティがにらみつけてくる。 「俺もちょっと、ラスティ不足だったからな……アスランの気持ちがわからなくもない、と思っただけだ」 こうして、人目を盗んで抱きしめたくなるんだよな……とミゲルは口にした。 「バ〜カ」 こういいながらも、ラスティはどこかうれしそうだ。 「バカでいいんだよ。俺たちはそう言う関係なんだし……ただ、それができないあいつらはストレスがたまるかもしれないな、とは思うが……」 キラはともかく、アスランの方がその度合いは大きそうだ……とミゲルは付け加える。 「こうして、息抜きができれば、そうじゃないんだろうが」 御邪魔虫がいるしな……とミゲルはため息をついて見せた。 「……何か、連れてきて悪いような言いようだな」 「少なくとも、アスランはそう思っているだろうな。俺は……隊長から状況を聞かされているから、そうは思わないけどな」 アスランは当事者だけにそうは思えないだろう……とミゲルは苦笑を浮かべる。 ついでに言えば、まだいくらかでも余裕があるのは、きっと夕べそう言うことをしたからかもしれない。などと下世話なことまで考えてしまう。 「どちらにしても、少し、あれと話をしてくるか……つきあってくれるよな?」 アスランのためにも、少し引き離した方がいいだろう、とミゲルは言外に付け加える。そうすれば、ラスティもうなずいて見せた。 「そうだな……あいつも、ミゲルがキラと互角の実力を持っていると知れば……興味を持つだろうし……」 アスランにキレられれるのはごめんだ、とラスティは呟く。 「キラがキレたところは見たことがあるが……アスランもすごいのか?」 さすがに、自分は見たことはないぞ、とミゲルは興味を覚える。 「キレたっていうか……本気で怒ったことは一回かな? あのときはマジで空気が冷たくなったからさ」 別の意味で怖かった……とラスティは呟く。 「なるほどな……二人いっぺんにキレられないようにしないと……」 恐ろしいことになる訳か……とミゲルはうなずいた。そして、そのままラスティを抱えて立ち上がる。 「……おい……」 「そこまでだって」 このまま外には出ないから、安心しろ……とミゲルは笑った。そうすれば、ラスティは仕方がないというようにため息をつく。 それをいいことに、ミゲルはハッチぎりぎりまで彼を抱きしめていた。 バカップルその2のいちゃいちゃシーンです。しかし、こいつらもなんなんだか(^^; まぁ、キラ達に比べればある意味、刺激が少ないカップルですね、今は |