おもしろくない。
 何が……といえば、目の前の光景が、だ。
「キラが戻ってきてくれたのに……」
 何で、あんな御邪魔虫がくっついているんだ……とアスランは心の中で付け加える。
 しかも、キラはそれを困ったような表情で受け入れている。それがますますアスランの機嫌を損ねる結果になっていた。
「アスラン!」
 しかし、それは一瞬のこと。自分たちの姿を見つけたラスティがアスランの名を口にする。
 次の瞬間、キラの視線がアスランへと向けられた。そして、その口元にうれしそうな笑みが浮かぶ。
「アスラン、ただいま!」
 この一言だけで、すべての不快感が消えてしまうのだから、自分も現金だとは思う。
「お帰り、キラ!」
 こう言うと、アスランは軽く両手を広げてみせる。そうすれば、キラがまっすぐに駆け寄ってきた。そして、そのままアスランの腕の中に飛び込んでくる。
「父さんと母さんのそばもいいけど……やっぱり、ここが一番落ち着くね」
 この言葉だけで、思わず舞い上がりそうになってしまうになるのはどうしてなのだろうか。
「俺も……キラがいなくて寂しかったよ……」
 それでも、キラが自分を求めてくれるという証拠ならばかまわないか、とアスランは腕の中の存在を抱きしめる。
「……あれ、何なんだよ!」
 そのとき、アスランの耳に聞き慣れない声が届く。それが、御邪魔虫の者だとわかったのは、すぐ後に続いたラスティの言葉からだ。
「何って、あの二人は公認であぁいう関係だぞ。その程度で驚くなら、帰れば?」
 別段、ここじゃ珍しくないし……と言う言葉の裏には、自分たちの関係もにじませているのだろうか。
「じゃなくて!」
 だが、それで納得をする相手ではないらしい。
「何で、あの人があんなに甘えているんだよ」
 それが気に入らないのだ、と御邪魔虫は叫ぶ。
「だから、キラにとってアスランはそう言う相手なんだって。甘えてもわがままを言ってもいい存在。キラにとって、それがアスラン・ザラという相手なだけ。俺にとってあいつがそうなようにな」
 そう言いながら、ラスティは御邪魔虫を振り払う。そのまま彼が歩き出した先にはミゲルがいる。
「だから、人を放り出していくな!」
 御邪魔虫がこう叫ぶ。
「……そう言えば、忘れてたね……」
 その声に、キラがアスランの胸から顔を上げる。
「何なんだ、あいつは」
 その仕草はともかく、原因を作ってくれたやつは気に入らない、とアスランは眉間にしわを深めた。
「シン・アスカ……オーブのMSのパイロットだよ……」
 オーブの、第一世代だ……とキラは付け加える。
「……オーブというと……」
「サハクと……アスハの私兵……になるのかな、今のところ。あれらをもらってくる代償として、彼と彼の機体も面倒をみることになっただけ」
 隊長の許可が得られれば、ミゲルとラスティに使わせるつもりだ、とキラは付け加える。そのためのOSの調整はすんでいると言って、キラは舌を出した。
「……お前は……」
 なんと言うべきか……とアスランは悩む。ひょっとして、彼は最初からそのつもりでオーブで工作をしてきたのだろうか、とまで思う。
「……ともかく、あそこで吼えさせておくわけにはいかないな……隊長のところに連れて行こう……」
 不本意だが……とアスランは付け加える。それにキラは満面の笑みでうなずき返してきた。

 ずいぶんとまた、ここの空気はオーブとは違う。
 いや、それは当然のことなのだろう、と考えるのが普通なのだろうか、とシンは心の中で付け加えた。
 しかし、とても戦場とは思えない。
「キラ達の上官だって言うやつは変な仮面を付けているし……もう一人は、コーヒーマニアみたいだし……本当に、あんなので有能なのか?」
 シンは思わずこう呟いてしまう。
「……とは言っても、あの仮面のやつはムウ様の弟で……ミナ様も信頼しているって言うから……我慢しなきゃないんだろうな」
 それに、とシンは心の中で付け加えた。
 彼が顔を隠しているのは、いずれカガリの夫になる身だからだろう。そんな人物が――おそらくアスハの意向とはいえ――ザフトで隊長をしているとは知られるわけにはいかないはずだ。
 もっとも、キラもそれは同じだといえる。
 しかし、彼の場合、表舞台にたたないという選択肢もできるからこそ、普通に顔を出しているのだろう。
「本当、複雑だよな」
 政治の世界は……とシンはため息をつく。
 それ以上に複雑なのは《キラ・ヤマト》という存在かもしれない。
 オーブで見せていた表情と、先ほど見せられた表情。そのどれが彼の本質なのだろうか。それとも、そのすべてが彼のものなのか。
 それを確認するにはデーターが少なすぎる、とシンは心の中で呟きながら、体の向きを変えた。
「少なくとも……俺の方がいい男だよな?」
 あいつよりは……とシンは無意識のうちに言葉をつづり始める。
「確かにさ……俺の方が年下かもしれないけど……でも、オーブの人間だし、何のしがらみもないし……」
 自分の方がキラのそばにいられるだろう、と思う。ザフトに属しているわけでもないから、彼を一人でどこかに行かせることもないだろう、と。
 だが、自分がどうしてこんな事を口にしているのだろうか、と言うことまではシンにもわからない。
 ただ、これだけは言えるだろう。
 自分は《キラ》に認められたいのだ。
 だから、と表情を引き締める。これからの行動は注意をしなければいけないだろう、とも。
「ミナ様達の評判を下げるわけにもいかないしな……」
 シンは自分に言い聞かせるようにこう呟く。
「ともかく、明日からだ、明日。全部は……」
 他の二機とともに自分のアストレイも、キラが調整をしてくれるといっていた。それからでなければ、何もできないだろう、と思う。
「それに……いつでも戦闘をしている訳じゃないんだしな、ここだって」
 だから、今は体を休めることを優先すべきなのだ。そう考えながら、シンはまた体の向きを変える。そちらの方向には、キラ達が使っている部屋があるはずだった。
「今頃、あいつと何をしているんだろう、あの人は」
 あいつと話でもしているのだろうか。
 こう考えてしまう自分は、シンはなぜかたまらなくいやだった。





やはり、こういう事になりましたねぇ
隣で何をしているか。それは次回のお楽しみと言うことで(苦笑)
しかし、これで無自覚だというシンは……バカですね(^^;