その頃、シンはミナ達の元へと呼び出されていた。 「本当ですか?」 その場で告げられた言葉に、彼は喜びを隠せない。 これで、少しでも彼に近づくことが出来るのだろうか。 シンの反発心すら打ち砕いてしまうほど、キラが操るアストレイの動きはすばらしかったのだ。そして、その動きに負けないだけの実力を自分も身につけたい、と本気で思う。 「ただし、条件付きで、だ」 しかしミナの言葉が彼の希望をあっさりと打ち砕く。 「お前は、あくまでもオブザーバーとしてあちらに向かうことになる。戦場に出られるかどうかは、あちらの指揮官次第だ」 つまり、自分はただ見ているだけ、と言うことなのか……とシンは唇を咬む。それでは意味がないだろうと。 実戦経験を積むために、彼と共に行きたいと希望したのだ。もちろん、それだけではない。そうすることで、最終的にはあの瞳を自分に向けさせたい、と考えていたこともまた否定できない事実だろう。 「仕方があるまい。お前はオーブの国民だ。正式な手続きを経てザフトの軍人として動いているキラやラウとは違う。下手なことをすれば、オーブその物を危険にさらすことになる」 そうである以上、彼らの判断は正しい、とミナはさらに言葉を重ねてきた。 「ですが……」 「心配するな。まったくMSに乗れないわけではない。訓練であれば、大丈夫だろう」 それに関しては、キラが面倒を見てくれるはずだ……と彼女は微笑む。 「……それよりも、お前には頼みたいことがある」 この言葉に、シンは微かに眉を寄せた。 「何でしょうか……」 こういう事は、きっと、自分本来の役目とは違うことなのだろう。そう思いながら、聞き返す。 「あちらにはラウもいるし……キラの親友もいるから心配はいらんと思うが……万が一のことを考えるとだな、もう一人、あの子を守ってくれるものが欲しい」 それも、自分が信頼できるものが、と彼女は付け加える。 「俺を……信用してくださるのですか?」 シンは思わずこう口にしてしまった。それが無礼なことであるとはわかっていても、だ。 「俺は……あの方に敵愾心しか持っていませんよ?」 それでもかまわないのか、とシンはさらに問いかけの言葉を口にした。 「だが、同時に認められたい、とも思っているのではないか?」 キラに、と言われれば頷くしかない。 「そのためには、彼に生きていて貰わなければならないのではないかな?」 違うか、という問いかけに、シンは反射的に首を縦に振ってしまう。 「では、がんばってこい。実戦には出られなくても、その空気を感じるだけでも良い経験になるはずだ」 実際、私は実戦に出たことはないからな……とミナは苦笑を浮かべた。それは、彼女が後方で動く方がよい、と誰もが考えているからだろう。しかし、それを本人は良し、としていないらしい。 「ご期待に添えるよう、がんばらせて頂きます」 しかし、それについては何も言う資格はないだろう。そう判断をして、シンはこう口にした。 「……って、何ですか? もう一人、お荷物が増えると?」 ミゲルはラウから聞かされた言葉に、思わずこう言い返してしまう。 「お荷物、とはアスラン達のことかね?」 小さな笑いと共にラウがこう聞き返してくる。 「そう言いたいわけじゃありませんけどね……あいつらの言動を考えれば、そう言いたくもなりますって」 特に、イザークとディアッカだ、とミゲルは言外に告げた。そうすれば、ラウは口元の苦笑を深める。 「心配するな。キラ達も一緒に戻ってくる。半分はあの子に押しつけられるであろう?」 責任を、と口にするラウにミゲルも苦笑を返す。 「本人が嫌がるでしょうけどね」 「それも、あの子の責務の一つだ。本人もわかっているだろう」 自分も、それが理解できないものを副官に取り上げはしない……と彼は付け加える。 「そうでしょうが……その上、バルトフェルド隊の面倒まで押しつけられたら大変だな、と思いまして」 どうやら、連中はあれこれ手招いているようだし、とミゲルはため息をついた。それも、もれ聞こえてきた会話から推測するに、かなり厄介な内容らしい。 その上、オーブからおまけが付いてくるとなれば、キラの負担は大きくなりすぎるのではないだろうか。 だからといって、肩代わりをしてやれるかというと問題なのだが、とミゲルが思う。 「それはない……と思いたいが、新しい機体がくるからな。どこまで彼らの自制心が持つかというと不安だとしかいいようがないか」 とはいうものの、それを止めることは不可能だろう……とラウも苦笑を浮かべる。 「まぁ、あちらから来る少年に関しては、アイシャ殿が引き受けてくれるらしいからな」 普段の任務に支障が出ることはないだろう……とラウはさらに付け加えた。 「……おもちゃ、ですか?」 それとも人身御供か。どちらにしても、彼女に遊ばれるのは間違いのない事実だろう、とミゲルは思う。 「まぁ、キラの負担が減るのでしたらかまいませんか」 本人には不幸なことだろうな……とミゲルは心の中でこっそりとため息をつく。アイシャは間違いなく有能なのだ。そんな彼女がどうして一介の《オブザーバー》という態度を崩さないのかはわからない。しかし、そのおかげで密かに助かっていることもまた事実なのだ。 しかも、彼女はこのバルトフェルド隊の中でも一二を争うほどのキラ大好き人間である。だから任せてしまうのが得策だろう……ということはわかる。 「……部屋の方は?」 「キラと同室……というわけにはいくまいからな」 この問いかけにラウは、意味ありげに言葉を返してきた。そういえば、彼も二人の関係は公認だったな、とミゲルは改めて心の中で呟く。 「彼らの隣に、個室を用意した。それで何とかなるだろう」 問題なのは、こちらに残っている者達だけだが……と意味ありげにラウは苦笑を浮かべる。 「……それは、何とかします。第一世代とはいえ、来るやつも同胞ですからね。そこまでひどいことにはならないのではないか、と」 だが、フォローは必要だろうとミゲルは思う。特に、約一名は要注意なのではないか。 それが誰なのか、ということはラウもわかっているはず。 「キラがその点に関してはうまくやってくれるだろう。それにラスティもな」 だから、そんな彼らのフォローをしてくれ。こういわれて、うなずかないわけにはいかないミゲルだった。 というわけで、シンも砂漠へ(苦笑) 目指せ、明るい泥沼…… この場合、一番悲惨な目に遭いそうなのは間違いなくミゲルですね。 |