「気づかれていた……とは思っていたがな」 アストレイから降りたギナは苦笑と共に言葉を口にし始める。 「誓って言うが、あれにカガリとムウが乗っているとは知らなかった。二人は別の――それこそ、シャトルに乗ってくるものだ、と思っていたからな」 キラ達だけであれば、あの程度は十分乗り越えられるだろう――乗り越えて貰わなければ困ると思ったのだ、とギナは付け加えた。 「……その言葉を信じろ、と?」 相手を恫喝するような口調でこういったのはキラではない。カガリだ。 「信じて貰うしかないだろうね」 ギナは平然とこう言い返す。 「知りたかったのは、クルーゼ隊の実力だ。それがわからなければ、我々が今後どう動くべきか、決断できなかったのでな」 同時に、キラとラウが生き残れるかどうかも……と彼は付け加える。 「……ギナさん?」 いったい、彼は何を言いたいのか……とキラは眉を寄せた。 「……地球連合での、あの厄介な話か?」 だが、ムウには何か思い当たることがあるらしい。こう問いかけている。 「どうやら、そちらの耳にも入ったようだな」 言外に、ギナはムウの言葉を肯定した。 「二人とも……何の話をしているわけですか?」 キラだけではなくアストレイの関係者も全て彼らの会話に居心地の悪さを感じているらしい。何処かそわそわとしている。それを何とかしたくて、キラはこう問いかけた。 「それについては、今は教えられないな……裏を取っている最中だ……」 キラが現在、オーブの中軸には関わっていないのだから、教えられないとムウは付け加える。 「そんな!」 それに不満を見せたのはカガリだ。だが、キラは 「仕方がありませんね」 と口にしただけでやめる。 「キラ! お前は……」 それでいいのか、とカガリが怒りの矛先をキラへと向けてきた。 「仕方がない。現在、僕はこの国では何の発言権も持っていないのは事実だからね」 カガリの気持ちは嬉しいけど……とキラは微苦笑を浮かべつつ言葉を返す。 「……そのおかげで、俺達は助かっているけどな」 キラの傍らに当然のように立っていたラスティがニヤリと笑いながら口を挟んでくる。それは、ミゲルの真似なのだろうか。彼には今ひとつ似合っていないような気がする、とキラは思う。 「おかげで、最高のOSを組んでもらえるから、生存率が上がる」 最後にものを言うのは自分の実力だ、とはわかっているが、と彼はさらに付け加えた。 「だから、今、キラを持って行かれると非常に困る」 それ以上に泣き出しそうになる奴もいるだろうし……とラスティが言えば、 「あぁ……アスランか……」 カガリもあっさりと頷き返す。 「……本当……あいつの何処がエリートなんだか……」 ただのキラバカだろう、あいつは……とカガリは容赦のないセリフをさらに続けた。それは、この場にはまったくそぐわない種類のものだと言っていい。 「二人とも……今はそういう話をする時間じゃない、と思うんだけど?」 違う? とキラはにこやかに付け加えた。 「そう言われてみれば、そうか」 ついつい、アスランのことを思い出して、とラスティは唇をゆがめる。だが、それは絶対故意にだろうとキラは思う。 「……すまん……こっちの話なら、私も加われるから」 ムウ達が話をしている内容に関しては、自分もシャットアウトされているのだ、とカガリも素直に謝罪の言葉を口にした。 「まぁ、いいけどね」 どうせ、これ以上彼らも教えてくれないだろうし……とキラは判断をする。が、唇からため息がこぼれ落ちてしまうのは仕方がないことなのだろうか。 「そう言えばさ」 キラのその気持ちを切り替えさせようと考えたのか、ラスティがまじめな口調で言葉をつづり始める。 「急にアストレイの動きが代わったけど……何をしたんだ?」 個人的には、そちらの方が気にかかる、とラスティは付け加えた。 「それは……私もお聞かせ願いたいわ。アストレイのスペックで、あれだけの動きが出せるとは思えないもの」 それに、エリカも同意を示してくる。 「……戦場で培った裏技ですよ……」 説明していいものか、と思いつつキラは言葉を返した。 「機体に負担をかけることになりますが、一時的にオーバースペックを出せるよう、OSを調整しただけです」 本来は、そんな危険な真似は行わないが……とキラは微苦笑を浮かべる。 「ギナさんに勝つためには、それしか方法が思いつきませんでしたからね」 使い慣れている機体であれば、何処までが限界かわかるし、紙一重のところで収めるようにしておくが、この機体ではそうも言っていられなかった。だから、メンテが大変かもしれない……とキラはエリカに謝る。 「それはかまいませんわ。限界を引き出すための試作機ですもの。それよりも、あんな動きをさせて各部位の消耗がどうなっているか、その方が楽しみですわ」 それから、新しいシステムを開発すべきかどうか、検討しないと……と言う言葉に、キラも頷き返す。 「そうですね。それが普通でしょうが……ただ、今回作ったOSはコーディネイターの中でもトップクラスのメンバーしか使いこなせないと思いますよ?」 もちろん、自分以外には呼び出せないようにロックをかけさせて貰っている、とキラは付け加える。こんなものがあちらこちらに流出してはただではすまないだろうと判断しての事だ。 「それは……残念ですわね」 どうやら、彼女としてはそのOSごと確認をしたかったらしい。あからさまに残念だ、と言う表情を作った。 「仕方がないわ、エリカ主任。それを搭載させて頂いても、うちのパイロット達では使いこなせないでしょうし……」 ギナの機体は、彼が好みになるように調整をしたのだから手を加えられないだろうとマリューが彼女を慰めるように、声をかける。 「……結局は機体や技量だけではなく、経験経験も重要……という事なのかしら?」 だとすれば、オーブではそれを身につけることは難しいだろう。エリカはそうため息をつく。 「一つ提案だが……」 彼女たちの話を黙って聞いていたミナが、不意に口を開く。 「このうちの一機――出来れば、パーソナルナンバーが入っていないものが好ましいな――を彼らに預けないか? 戦闘データーだけでもこちらに渡してもらえるのであれば、こちらの不利益にはならないだろう?」 いざとなれば、ヘリオポリスでクルーゼ隊の手に渡った……と言えばよいのだから……とミナは付け加える。 「……そりゃ、良い方法かもしれないが……」 ただし、それでパイロットの技量が上がるわけではないぞ……とムウが眉を寄せた。 「わかっているが……だが、データーがあれば、今後の開発に役立つだろうしな」 パイロット育成に関しては、ギナが手を貸すだろう……彼女は笑いながら付け加える。どうやら、それが今回の件に関するペナルティらしい。 「……ミナ様……それならば、俺も彼らと一緒に行かせて頂けませんか?」 オーブの一員であることは捨てるつもりはない。だが、実際の戦場を経験をしたいのだ、とシンが訴える。 「……それに関しては、他の者たちと協議してからだ」 ミナがため息と共にこう言い返した。 そうするしかないのだ、と言うことは彼にもわかっているはず。でなければ、最悪、オーブその物を巻き込むことになるだろう。機体だけでも、かなり危ない橋を渡ることになるのだから。 だが、シンは諦めきれない、と言う表情を作っていた。 これも、棚ぼた? というわけで、アストレイに乗り込むのは誰でしょう(苦笑) |