「……地球軍の動きが?」 耳に届いた言葉に、ラウは眉を寄せる。 「正確に言えば、ブルーコスモスだそうだ……何やら、オーブで不穏な動きを見せているらしい」 先ほど、連絡が入った。バルトフェルドはそう口にすると同時にため息をついた。どうやら、それは正式なルートから来たものではないらしい。 「それが、キラに関係していると?」 これは問いかけではない。確認の意味しか持っていないことを、ラウも自覚していた。そして、目の前の男もそうだろう。 「……あの子は、優秀すぎるからね……しかも、第一世代だ。利用するには好都合だろう」 認めたくはないが、地球軍――ブルーコスモスに協力をしている第一世代も多いのだ。 それに関しては、本人の好きにすればいい、とラウは思う。 だが、望んでいないものにそれを強要するのは許せない。キラに同胞を裏切る気持ちがないことは、ラウ自身が一番よく知っているのだ。 何よりも、こちらにはキラが何よりも望んでいる《アスラン》がいる。彼から離れることをあの子供が望むわけがない。 「……あちらには、ムウもいるが……一応、声をかけておくべき、だろうな……」 そうすれば、彼らのことだ。適切な処置をしてくれるはずだ、とラウは思う。 「そうだね。そうしてもらえれば確実だろうが……連絡は取れるのかね?」 バルトフェルドの言葉に、うっすらと笑みを浮かべると彼は頷き返す。 「そうか。では、そちらについては君に任せよう」 自分は関わらない方が良いだろうし……とバルトフェルドは付け加える。 「うちの基地の設備なら、好きに使ってくれてかまわないよ」 これが、その話題に対する集結の合図だ、と言うことはラウにもわかった。 「お心遣いに、感謝致しましょう」 こう口にすることで、その気持ちを彼に伝える。 「何。あの子にまた会いたいのは僕も同じ気持ちだからね。さて……そちらの隊のMSだが……」 そのまま、彼もまた話題を変えていく。 「ディンとイージスだったかな? あれらは使えるようだから……今度の戦闘に参加してもらってかまわないかな?」 上空からの偵察と援護が中心になるだろうが、と言われて、ラウは《キラ》の保護者としての表情からザフトの指揮官の表情に戻る。 「そうですね。その程度ならば使えるでしょう。援護というのであれば、バスターも使って頂きたいところですが……」 だが、彼が大人しく後方支援で満足するはずがない。 「そうしたいのは山々だが……我々の方もフォローしきれなくてね」 それは彼も理解しているのだろう。苦笑と共に言葉が返ってくる。 「申し訳ないですな」 「何。若いうちはそんなものでしょう。だが、こうなればますます、あの子がいてくれれば、と思いますな」 キラがいてくれれば、二手に分けても大丈夫だったろうに、とバルトフェルドも口にした。 「あちらでの用事が終われば……早々に戻ってくるとは思いますが……」 問題は、彼らがあっさりとキラを解放してくれるか、と言うことだ。 だが、そのためにラスティを付けたのだし、ムウもいる。彼らを信じるしかないな、とラウは心の中で呟いた。 確かに、技量という面だけを見れば、ギナはキラよりも上かもしれない。 だが、実戦経験となればどうやらキラに軍配があるようだ。 「……悪いけど……早々に片づけさせて貰うよ」 いい加減、付き合っていてつけあがらせるのはやめよう。それよりも、早々にその鼻っ柱を折らせて貰った方がオーブのためではないか。そんなことを考えて、キラは行動を開始する。 事前に保存しておいた裏技満載のOSへと現在のそれを切り替えた。 これを使えば、一時的にだがアストレイの反応速度が上がる。ただし、それだけ機体への負担もかかる以上、少しでも早く片を付けたいときにしか使えない方法だ。 だが、今であれば有効的に使えるだろう。 ギナは、これのOSが昨日のままだと考えている可能性が高い。 だから……と呟きながら、キラは限界以上まで機体の性能を引き出したアストレイを横に移動させる。 『何!』 それは相手の予想を超えた動きだったのだろう。キラの乗った機体に対する反応が遅れた。 「悪いけど、これで終わり!」 その好きを見逃すつもりは、キラにはない。 背後からコクピットがある場所へとサーベルの切っ先を押しつけながら、こう口にする。 『……まだ、だ……』 だが、ギナはまだ諦めていないらしい。こういうとキラの機体から離れようとする。 今の体勢でそれを行うことは不可能だと言っていいだろう。 「本当に、あきらめが悪い……」 さて、どうしようか……とキラは考える。 『いい加減にしろ、ギナ! 見苦しいぞ』 その時だ。ミナの怒声が通信から響き渡った。 『お前は負けたのだ! そのことを認識しろ』 『しかし、ミナ!』 『今、キラが少しでもアストレイを動かせば、コクピットごとお前は串刺しだ。それはわからないお前ではないだろうが』 違うのか、とミナがさらに冷静な口調で告げる。 『……だが……』 ギナはさらに何かを口にしようとしてやめた。小さくため息をつくと、その体勢のままアストレイの動力を切ったらしい。 『で、お前が私に聞きたいこと、とは何なんだ、キラ』 キラが勝ったら、何でも質問に答える約束だったな、とギナは付け加える。 「簡単なことですよ」 そんな彼に、必死に冷静な口調を作りつつ、キラは言葉を口にした。 「どうして、月軌道で、僕たちが乗った艦を攻撃してきたのか、それを教えてください」 まさか、気づかれていなかった、などとは言いませんよね? とキラはさらに言葉を重ねる。 『ギナ!』 『あれは、ギナ兄様だったのか!』 通信機からこぼれ落ちた驚愕の言葉が、キラの耳に届いた。 キラがギナに勝負を挑んだ理由がこれです。 オーブに帰ってくるまで、あれこれあったわけですよ、いろいろと。 |