アストレイの操縦は、ストライクのそれと代わらない。システム自体も、ほとんど代わらないと、ラスティのために調整したときにわかっていた。
 だから、わずかな時間で、自分に合わせたOSを書き上げることに苦労は感じなかったと言っていい。
「問題なのは、そちらがどれだけカスタムされているか、だね」
 こちらの機体はほぼノーマル状態だ。しかし、ギナがそれで満足しているわけはない。自分に合わせて、カスタムをしている、と考えるのが普通だろう。
 それによる性能の差がどれだけあるか。
 自分が作り上げたOSでそれを埋めることが出来るか。
 それが、キラがこの戦いを互角に戦えるかどうかを大きく左右するだろう。
「まぁ、多少卑怯な手段を使ってもかまわない……よね?」
 元々ハンデがあるんだし……とキラは口元に笑みを浮かべる。
「そういう手段を使わないって、約束しなかったんだしさ」
 それに関しては、ラウ公認だし、とキラは付け加えた。だから、ただの模擬戦闘とはいえ、使ってはいけないわけはないだろう。
「ムウ兄さんには……怒られるかもね」
 あるいは、この機体を開発し、管理しているエリカ・シモンズにか。
 しかし、本気でこれらを戦闘に使おうというのであれば、おきれいなことを言っている場合ではないはずだ。キラは勝手にこう結論付けた。
「戦場では、きれい事なんて言っていられないんだし」
 だから、これ以上これについて悩むのはやめよう。
 キラは今までいじっていたOSを保存して終了させる。そして、視線をモニターに映し出されているもう一機のアストレイに向けた。
 それは、ノーマルのアストレイと違い、まばゆいばかりの黄金で彩られている。
「本当の試作機、っていっていたっけ」
 だから、あんな派手なパーソナルカラーになったのだろうか。それともギナの趣味か。
「……後者、だろうな」
 ギナは昔から派手好みだし……とキラは心の中で付け加えた。
「それだけの実力があるから、誰も文句は言わないんだろうな」
 自分にしても、文句を言う気にはならないのだから……とキラは苦笑を浮かべる。
 その時だ。
『キラ様?』
 通信機からエリカの声が届く。
「様はいりませんよ」
 苦笑と共に、キラはこう言い返す。
「僕は、ただのザフトの一兵士ですから」
 例え、その血の源が何処にあろうとも、今は……とキラは付け加える。
『では、そのように対処させて頂きます』
 彼女は聡い人だ。そして、キラ達と同じコーディネイターでもある。だから、キラがどのような理由でそう言ったのか、理解をしてくれたらしい。
『準備の方は?』
 そして、口調を微妙に変化させるとこう問いかけてきた。
「出来ています。ですので、いつでも良いと伝えてください」
 即座にこう言い返す。
『わかりました』
 エリカが興味を隠せないという口調でこう言ってきた。どうやら、彼女としては、これからの模擬戦闘で得られるであろうデーターが何よりも必要らしい。それは、開発に関わるものとしてキラも理解できる。
『キラ』
 その次にキラの耳に届いたのはミナの声だ。
「はい?」
 彼女がギナではなくキラに声をかけてきたのはどうしてなのだろうか。そう思いながら言葉を返す。
『……自分の片割れのことをあれこれ言いたくはないが……あれは、何かに取り付かれている……最悪の場合、私が割ってはいるつもりだ。それを、先に断っておこうと思ってな』
 お前を失うわけにはいかないのだ……というミナの言葉の裏に、何が隠されているのだろうか。
「そうして頂かなくてもいいように、がんばるつもりですけどね」
 だからと言って、彼女に自分の半身を攻撃させるような真似はさせたくない。キラはそう思う。
『当たり前だろう! 私の半分は、そんなに弱くないのだろう?』
 次に聞こえてきたのはカガリの声だ。どうやら、彼女もしっかりとこのことを聞きつけてきたらしい。そして、ムウとラスティ、それに、他のパイロット達もそこにはいるはず。
「本当に、勢揃いだね」
 なら、余計に無様な真似だけは出来ないか、とキラは呟く。
 この呟きをミゲルあたりが聞けば『何をバカなセリフを言っているんだ』と返されるだろう。そんなことを言われれば、ザフトのほとんどのパイロットが《無様》と言うことになるのだから、と。
 だが、と思う。
 そうして慢心してもいけないのだ。
 何よりも、今回の場合、目的が目的だし、とも。
「……僕の推測が当たっていなければいいんだけどね」
 それなら、オーブは――アスハの一族も含めて――安全だ、と言うことになる。
 後顧の憂いがなければ、自分も安心して戦場に――ラウやアスラン達の元へ戻れるだろう。
 だが、もし……とキラが微かに眉を寄せたときだ。
『待たせたな』
 言葉と共に黄金のアストレイが息を吹き返す。どうやら、ギナの準備も終わったようだ。
「いえ」
 同時に、キラの中で猛々しいものが目覚めた。それは本当に久々の感覚だと言っていい。
 自分の中の闘争心が、彼の強さを認めたのだろう。
 ラウ以外でそう感じたのは初めてだ。キラはスロットルを握る指に力を込めながら心の中で呟く。
「では、始めましょうか」
 不思議な事に、口元に自然な笑みが浮かぶ。それは、自分自身が戦うことを楽しんでいるからなのか。それとも……とキラは思いながら、ゆっくりと自分が乗り込んでいるアストレイを移動させる。
「……これが終わったら、これ、もらってっちゃだめかな?」
 ラスティになら扱えるだろう。
 これから彼のためにディンを調整するのであれば、これでもか舞わないのではないか。戦闘データーを渡すと約束すれば、ミナ達も納得してくれるかもしれない。
 こんな事を考えながら、キラは所定の位置にアストレイを停止させる。
 一瞬おいて、戦闘開始の合図が周囲に鳴り響いた。






キラが乗った場合、アストレイもストライク並の動きをしてくれるだろうと思うんですよ。さすがにフリーダムまでは無理でしょうけど。
一度でいいから、本編で乗ってみてほしかったですね(苦笑)