「見つけても、攻撃を加えるな……だと」
 デュエルのコクピット内でイザークは憤りを隠せないと言う口調で吐き捨てる。
『ラクス嬢が乗っている可能性があるんだ。当然だろう?』
 自分たちのせいで彼女の安全が脅かされたとなれば大変だ、などという事件ではすまないだろう、とディアッカが言葉を返してきた。
「それはわかっているが……」
 だが、とイザークは思うのだ。
 ここでそれなりの戦果を上げなければ、自分はいつまで経っても《その他大勢》としてしか認識されないのではないか、と思ってしまうのだ。
 それも、クルーゼにではなく《キラ・ヤマト》に、だ。
 もっとも、自分が《ジュール》である以上、そのようなことはないとはわかっている。しかし、それは自分が望んだ形ではない。
 自分自身の実力以外――それも、偶然その両親の元に生まれただけと言う状況――で認められても嬉しいわけがないだろう。それは自分でなくて他の何でも同じだ、と言うことでもあるのだ。そのような認識は、極端な話、美術品や何かと同レベルだと言っていい。
 ミゲルのように、とは言わないし、言えることでもないことはわかっている。
 そして、アスランがキラにとって特別だ、と言うことも十分理解をしているつもりだ。幼なじみという過去を消し去るわけにはいかないだろうから。
 だからといって、それと戦場でのこととは全く別だろう。
 キラもクルーゼも、そのようなことでアスランを特別扱いをするつもりはまったくなうようだし、と。
「別段、俺はあいつが欲しいわけではないからな」
 ただ、自分の実力がアスランより上だ、と認めて欲しいだけなのだ……とイザークは呟く。
「そのためには……大人しく任務を全うするか」
 今は捕捉だけでも、ラクスを取り戻すときに戦争になる可能性はある。その時には、自分たちだけではなくキラやアスランも参加するに決まっているのだ。
 ならば、その目の前で自分の実力を発揮すればいいだろう。
 イザークは自分を納得させるようにこう考えた。
『そうそう。それが一番だって』
 そんなイザークの内心を知っているのかいないのか。ディアッカがどこかからかうような口調で言葉をかけてくる。
「貴様、何が言いたい!」
 人をからかうのがそんなに楽しいか! とイザークは思わずディアッカに怒鳴り返す。
『何にしても、焦りは禁物だってことだよ』
 俺もお前もな、と彼は言い返してくる。
 つまり《キラ・ヤマト》に自分の実力を見せつけたい、そして、自分の存在を認めさせたいと思っているのはイザークだけではなかった、と言うことなのか。
「その忠告、一応聞いておこう」
 もっとも、貴様にも負けるつもりはないが……とイザークは心の中で付け加える。
 そして、再び、捜索のためにデュエルを移動させた。

「キラ」
 通路をデッキへと向かっていたキラの耳に、呆れたような声が届いた。それが誰のものかなどと確認しなくてもわかってしまう。
「何か用?」
 こう言い返しながら、キラは振り返る。そうすれば、声の主であるミゲルだけではなくラスティの姿も確認できた。
「用っていうか……お前、今、睡眠時間だったんじゃないのか?」
 言葉と共に彼が近寄ってくる。
「……ちょっとね……」
 苦笑と共にこう言い返せば、あからさまにミゲルは顔をしかめた。
「ひょっとして……命令違反の真っ最中?」
 ラスティにいたっては直球勝負、と言うようにこう問いかけてきたほどだ。
「違うよ」
 一体、彼らは自分をどんな目で見ているのか、これでわかってしまう。そして、わざとらしくため息をつく。
「整備陣から呼び出されたんだって」
 ストライクがいきなり不具合を起こしたのだという。
 もちろん、それに関してはキラのあずかり知らぬ所だ。整備陣の一人が好奇心でOSをのぞき見ようとして、キラが作ったトラップにはまってしまった、と言うのが真実である。
「あらららら……それはまた、馬鹿な奴がいたもんだな」
 よりにもよって、キラのOSに手をだそうだなんて、とミゲルの表情が変化をした。
「そいつ、明日、顔見れるかな」
 ラスティはラスティで無邪気な笑いと共にこう告げる。
「さぁ……多少のことは大目に見てもらえるだろうけど、今回の件はどうだろうね」
 よりにもよって今は作戦中なのだ。今回のことによってキラが出撃できない、となった場合、MSのフォーメーションはもちろん、作戦にも大幅な変更を求められるだろう。だが、果たしてそれを徹底できるだけの時間があるだろうか。
「まったく……タイミングを考えろ……って所だな」
 パイロットにとって《休息》を取るのも重要な任務だ。キラがいくらクルーゼ隊――あるいは本国の開発局――のMSのOS整備に関わっているとは言え、彼はあくまでもパイロットとしてこの場にいるのだ。
 そんな彼が、最悪、命を失うような可能性がある状況に追い込むことは許されていないはず。
 しかも、ただの《好奇心》で行われてはやっていられないレベルのことで呼び出されるものの立場になれ! とキラも考えてしまう。
 同時に、自分の中からこれだけ余裕が失われているのか、とも。
「……まずいな……」
 キラは無意識のうちにこう呟いてしまう。
「そうだよなぁ……お前、かなり疲れてるようだし」
 しっかりとそれを聞きつけたか。ミゲルはさりげなくキラの隣に並びながらこう言ってくる。
「アスランもやりたい盛りだろうし」
 さらに声を潜めるとミゲルはこう囁いてきた。
「ミゲル……ジンのリミッター、いじってもいい?」
 ラスティの……とキラは満面の笑みで言い返す。
「あいつの理性も、ナイロンザイル並みだね。それとも、やせ我慢なのか」
 どちらにしても、現状では非常にいいことだ……とミゲルも同様の笑みで言い返してくる。だが、その表情はすぐにまじめなものへとすり替わった。
「他のことなら変わってやれるんだろうが……さすがにな」
 OS関連であれば、自分もその馬鹿な整備兵と同じことをしかねない……と彼は付け加える。
「バックアップがあるから、すぐに何とかなると思うんだけど……部屋に帰って寝直す時間はないと思うんだよね。最悪、パイロット控え室で仮眠、かなって思うんだけど」
 これだけでミゲルにはキラが何を言いたいかわかったらしい。
「了解。寝袋でもさがしておいてやるよ」
 ひょっとしたら、自分たちも使うかもしれないし……という彼に、キラは手を挙げて了解の意を告げる。そして、そのまま分岐点で彼らと別れた。



と言うわけで、あれこれ準備中です。しかし、イザークを索敵に出すのは不安ですが……まぁ、パイロットの数が限られているから仕方がないのでしょうね。