なんとか、目標物を確保して母艦に帰還できたのは、それから小一時間ほど経ってからのことだった。 その間に、システムがフリーズした者、数名。 バッテリーがなくなり、フェイズシフトダウンしたものも数名。 そして、キラとミゲルに抱えられるようにして戻ったものもいたほどだ。 「……ともかく、誰も怪我がなかっただけでも上出来、って思っていいのかな?」 それぞれのシステムの不具合もわかったようだし……といいながら、キラはパイロットスーツを脱ぐ。 「ついでに、自分の実力を改めて認識させられたようだしな」 まぁ、鼻っ柱を叩き折ってやることも必要だろう……と口にしながらも、ミゲルは隅でうなだれている二人へと視線を移す。 「とはいうものの、ちょっとやり過ぎた、のかな?」 その視線を追いかけたキラが苦笑と共にこう告げる。 「いいんじゃねぇ? これで、自分の考えが甘かったって認識できただろうし」 実際の戦闘中にこんな状態になるよりはよっぽどマシだ……とミゲルが言い切った。それに関してはキラも同意を示す。パニックとは言わないまでも、一瞬の困惑が死を招きかねないのだ。 「それよりも、これからだよな」 言葉と共にミゲルの瞳がラスティに据えられる。どうやら、体調の方を確認しているらしい、とキラにもわかった。少しでもおかしいところが見られたら、即座に医務室なり部屋なりに放り込むつもりなのだろう。 「フォローの方だね……OSに付いては任されるけど」 ついでにアスランについても……と付け加えなくてもミゲルには伝わったらしい。 「了解。ガモフ組も含めて、他の連中についてはチェックしておくさ。あちらについては……オロール達に押しつけてもいいだろうし」 それについては、先輩達で話し合うか……と口にしたミゲルにキラは頷き返す。そうすれば、必要なケアも手分けをしてできるだろうと判断したからである。 「じゃ、まずはあそこの二人かな」 てはじめは……といいながら、キラはアスランへと視線を移す。 「だな」 キラが言おうとしていたことをミゲルも察したのだろう。ニヤリと笑いながら頷いてみせる。そのまま、彼はさっさとラスティへと近寄っていく。その行動の早さはさすが《黄昏の魔弾》とわけのわからないことを心の中で呟きつつも、キラもまたアスランへと近づいていった。 「アスラン、まずは汗を流そう? 反省はそれからでも遅くはないよ」 そして、彼の顔を覗き込むようにしてこう囁く。 「……キラ……」 この言葉に、アスランがようやく顔を上げる。 「俺は……」 いつもは自信満々と言っていい光をたたえている瞳が、今は暗く濁っていた。その事実が、キラには面白くない。 しかし、今後のことを考えれば必要な経験なのだろう……と自分に言い聞かせる。 「大丈夫だよ。誰だって、最初は、ね」 柔らかな笑みを浮かべながら、彼の頭をそうっと抱きしめた。 「僕だって、ミゲルだって、最初は隊長のフォローがなければ何も出来なかったようなものだし」 それが普通なのだ……とキラは優しく囁く。 「……わかっている……」 でも、割り切れないのだ……と言葉を返しながら、アスランもまたキラに腕を回す。そして、痛みを感じるくらいの力で抱きしめてきた。 「俺は……キラの側にいたいんだ、どんなときも」 それも、自分の実力で……とアスランはキラの胸に顔を埋めながら告げる。 「それは……僕も同じ気持ちだよ。だから、こうして努力してきたんだ……」 アスランのような後ろ盾を持っていない以上、実力で何とかするしかなかったのだから……と。 「そして、それは成功しただろう?」 だから、次はアスランの番だよね……とキラは小さな声で囁く。 「……わかっている」 キラが言いたいことは……とアスランは頷き返す。 「なら、これからだよ。何処が悪いかわかったんでしょ?」 それを直していけばいいだろう、とキラは告げる。 「と言うわけで、シャワーを浴びて気分転換をしてこよう? 僕、汗くさいのいやだよ」 キスもそれまでお預け、とキラはアスランの行動を制止した。 「キラ〜っ!」 まさしく、今にもキスをしようとしていたアスランはショックを隠せないと言う表情を作る。 「だから、シャワーを浴びたら、ね」 いつ、クルーゼから呼び出しが来るかもわからないのだから、と囁くついでに、キラは彼の頬――それもかなり唇に近いところに――にキスを贈った。 「……わ、かった……」 今まで人前――それが、自分たちの関係を隠すつもりもないミゲル達の前でもだ――こんな事をキラがしたことはなかった。 そのせいだろうか。 些細、とも言えるこんな行為だけでも、アスランの機嫌はひとまず回復したらしい。 後は、部屋に戻ってからこの前のアレをすればいいのではないか、とキラは心の中で呟く。 もっとも、それは自分も気持ちよかったから……と言うことが理由にあることも否定はしないが…… 「続きは……後でね」 その思いのまま、こう囁けば一気にアスランの機嫌は浮上したらしい。 「行こう」 この言葉と共に彼は立ち上がった。 そして、逆にキラの手を引くようにして移動し始める。その現金さに、キラは苦笑を浮かべつつも後をついて行こうとした。 何気なくミゲル達の方へと視線を向ければ、あちらはあちらで落ち着いたらしい。その事実に、何をやったんだろうな、彼……とキラが考えた、まさにその時だ。 『アスラン・ザラ! 大至急隊長の元へ出頭せよ。繰り返す。アスラン・ザラ、大至急隊長の元へへ』 彼らの耳にこんな放送が届く。 「……一体、何が……」 それを耳にした瞬間、アスランがこう呟いた。 今のことで呼び出されたのではないことはキラにもわかる。そうであるのであれば、間違いなく自分もまた呼び出されるに決まっているのだ。 では、一体何が……と思う。 あるいは《ザラ》家の嫡男である彼に関係していることなのかもしれない。 「アスラン」 急がないと……とキラは彼の背中に手を当てる。 「わかっている……」 出来れば、付いていて欲しい……と振り向いたアスランの瞳がキラに告げてきた。その中には不安が見え隠れしている。 それに、キラは小さく頷いて見せた。 いい雰囲気になりつつあったのですが、その前に一波乱を(^_^; ようやく、話が進む……40回で終わらせたいかな(おい) |