数日後、ラスティはようやくベッドから解放された。 「良かったな」 ミゲルとキラは手が放せないから……と言うことで、そんな彼を迎えに来たのはアスランだった。 「おかげさまで」 いや、退屈だった……とラスティはそんなアスランに笑い返す。 「その間に、誰かさんは幸せな時間を過ごしていたようだけど? 俺達の助言は役に立った?」 そしてこう問いかければ、珍しくもアスランがうっすらと目元を染める。 まさかこんな反応を返されるとは思っていなかった。それがラスティの本音だった。だが、同時に面白いとも思ってしまう。あの鉄面皮と言われた存在がこんな風に本心を見せるなんて、彼の存在がそれだけ強いのかと思ったのだ。 「その表情からすれば、それなりに進展したわけだな」 良かったな……とこれは素直に声をかける。 「ありがとう、と答えを返すべきなんだろうな」 だが、アスランの口から出たのはこんな言葉だった。何やら複雑なものが感じられるのはラスティの錯覚ではないであろう。 「何かあったわけ?」 興味津々……と言っては申し訳ないのだろうが、ついつい問いかけてしまう。 「……キラが俺よりも仕事を優先しているだけだよ、今は」 特に、彼が以前使っていたジンのOSの件で……と付け加えられて、ラスティは思わず視線を泳がせてしまった。 ミゲルの言葉が正しければ、そのジンは自分が使うことになるはず。 そして、昨日もキラがふらっと顔を出してあれこれ聞いていった、というのは事実だ。そして、それは間違いなくOSのカスタムに必要だ、と彼が感じているはずのことで……結果として、アスランの愚痴は自分のせいだと言うことになるのではないか、とラスティは判断をした。 「……悪い……」 何かを言わなければ……と思いながらも、口から出たのはこんなチープなセリフだけだ。 「謝られても困るな。理由がわかっているから……」 ただ、キラに触れられないことが辛いだけだから……というセリフの方が堪えるのだ……と言うことをこの男は認識していないのだろうか。 「確かにさ。もう、親しい、と思っている相手を誰も失いたくないと思うのは俺の本音だからさ」 それなのに、さらにこう言われてはもう降参するしかないだろう。 「悪かったって……ミゲルには謝ったけど、お前には謝ってなかったもんな」 考えてみれば、自分が撃たれたのはアスランの目の前だった。その分、ミゲルよりも衝撃が大きかったのではないか、とラスティはようやく気づく。 「そう思うなら……もっと気を付けろよ!」 でないと、キラの努力が無駄になる……とアスランは付け加える。結局はそこに結論が行くのか……とラスティは思わず苦笑を浮かべてしまう。だが、それも尤もなことだ、と納得をする。 「了解」 だから、素直にこう答えてやった。 次の瞬間、アスランがほっとしたのがわかる。 これは本気で気を付けないと、ミゲルだけではなく彼やキラにも恨まれる結果になりそうだな……とラスティは改めて認識したのだった。 「だから……こっちの方がいいと思うんだけど……」 その方が、バッテリーにかかる負担が減る……とキラは主張をする。 「そうはおっしゃいますが、その分、制御が難しくなるかと」 しかし、整備の者もすかさずこう言い返してきた。クルーゼ隊のMSのカスタムにも関わっている彼にしてみれば、それは当然のことだと言える。 「それについては、OSの方で対処できるよね?」 ならば、自分が何とかする、とキラは言い切った。それだけのことが出来る自信がある、とも。 「そうおっしゃるのはわかっていましたが……負担が大きすぎますよ。今でさえ、あれらの面倒を見ておいででしょう? ジン、に関しては我々を信用してはいただけませんか?」 少しでも負担を軽くしておかないと、また再びキラが隊を離れるようになったときに困る、と彼は主張をする。 「だよなぁ……お前は、ある意味貴重な存在なんだから」 このまま放っておけばいつまで経っても結論が出ないのではないか。そう判断してミゲルが口を挟んだ。 「あちらに潜り込める人間は、引く手あまただと言っていいだろうしさ」 キラがクルーゼ隊の一員で、なおかつ、クルーゼ個人の庇護を受けている人間だからこそ、そのような機会がほとんどない、と言っていい。でなければ、今頃はまたどこかに飛ばされているに決まっているのだ。 だが、それでは困る、と言うのも事実で……だから、クルーゼの公私混同とも言える任務の選別をこの隊の者は全員が諸手をあげて歓迎しているのだった。 実際、キラがいなかったここしばらく、と言うもの、あれこれ困った状況に陥っていたのは言うまでもない事実だろう。 「いろいろと心配してくれているのはわかっているんだけどね」 だが、キラはそんな彼らの言葉にも納得していない。 「ただ、このままだと奪取してきた機体との性能の差が大きくなっちゃうんだよ」 それでは、フォーメーションが組めないだろう……とキラは口にする。その結果、どちらかに比重がかかってしまう。それが最悪の結果をもたらさないとは言い切れない、と言うのがキラの主張だ。 「確かにその通りですが……それに関しては、今、本国にあれこれ依頼をしている最中ですし……」 それができあがるまで待ってもいいのではないか、と言う意見にミゲルも頷いてみせる。 「でも……敵は待ってくれるとは限らないんだよ?」 違う? とキラは小首をかしげた。それだけではない。上目遣いでミゲル達を見つめてくる。 それは反則だろう……と心の中で彼らが呟いていることにキラは気づいているだろうか。 きっと気がついているだろう……とミゲルはこっそりとため息をつく。 「ともかく、オロール達については後でいいことにしろ。俺とラスティがお前らと組めればかまわないんだろう?」 この二機であれば、さほど手を加えなくてもいいだろう。 ジンでありながら、シグーとほぼ変わらない。だから、あの五機と比べても機動性に関しては遜色がないのではないか、とミゲルは妥協案を口にした。 「……問題は装甲だけだが……それに関しては、実力で何とかするしかないか」 結局、自分たちはあくまでもフォローしかできないだろうし……とミゲルは苦笑を浮かべる。 「それで、ミゲル達が我慢できる……って言うならいいんだけどね」 問題はそれなのだ、とキラはため息をついた。 「ミゲルはいいだろうけど、問題はラスティの方だよ。汚名返上に励むのはいいけど、それに命をかけかねないって言うのは問題だと思うんだよね」 それとも、ミゲルが制止をかけてくれるのか……とキラは言外に問いかけてくる。 「あいつに関しては、俺が責任を持つって。だから、心配はいらない」 それよりも、少しでも休め……とミゲルは付け加えた。 次の瞬間、何かを思いついたのだろうか。すいっとキラの耳元に口を寄せてくる。 「でないと……俺がアスランに恨まれる」 そして、キラ以外には聞こえないような声でこう囁いた。 「……ミゲル……」 キラの声が微妙に低くなる。だが、それで諦めるわけにはいかない、とミゲルはさらに言葉を重ねた。 「ついでに、隊長に殺されろって言うのか? 一応、パイロット達のとりまとめは俺の仕事って事になってるんだぞ?」 他の誰かであれば、ミゲルの報告を耳にしてもクルーゼは冷笑を浮かべるだけだろうが、キラ相手では機嫌を損ねかねない。その結果がどうなるかは言わなくてもいいだろう……とミゲルはキラに訴える。 「わかったよ……妥協すればいいんでしょ? ただし……わかっているよね?」 「もちろんだって。俺だって、あいつを失えないんだから」 ミゲルのこの囁きに、キラはようやく淡い微笑みを口元に浮かべた。 と言うわけで、ラスティが戦線復帰。ついでにキラとミゲルのお仕事中の会話……と言うよりはただののろけ合戦のような気も(^_^; |