ラスティが疲れてはいけないだろう……と言うことで、アスランとキラは適当なところで話を切り上げた。そして、そのまま医務室を出て行く。
「……怖いね、彼……」
 その後ろ姿が見えなくなったところで、ラスティがこう呟いた。
「怖い? キラのことか?」
 ミゲルの問いかけに、ラスティは素直に頷く。同時に、ミゲルにとってはあれが自分が認識している《キラ・ヤマト》の姿なのだろう。
 最初から隠していなかったからこそ、ミゲルは彼に怖さを感じないのか。
 それとも、キラがミゲルを《味方》だと思っているからそう感じさせないようにしているのだろうか。
 そのどちらなのか、ラスティには今ひとつ判断が出来かねた。
「そう。あれだけの会話で、俺の性格を把握されたんじゃないのかな、彼に」
 他にもあれこれと……とラスティは口にする。
「そのくらい、普通だろう、あいつには」
 さらりっとした口調でミゲルが言葉を返してきた。同時に、優しくラスティの頬に触れてくる。
「あいつが普段の言動のギャップだけで《天然小悪魔》と呼ばれていた、って思っているのか? あの無意識の観察力と判断力があるからこそ、TOPで単独潜入任務を任されたんだってぇの」
 それを怖いっていうのであれば、ラスティもまだまだだ……と厳しいようなことを言いながらも、頬を撫でてくれるミゲルの指先は優しい。
「それに、あいつの保護者は隊長だぞ、隊長。見かけだけで判断すると痛い目を見るって」
 実際、キラに手を出そうとして病院送りどころか除隊させられたバカもいたのだ……とミゲルは笑う。それに関しては、お前らも覚えがあるだろう……と付け加えられて、ラスティも大きく頷いてしまった。
 どういうわけか、見た目だけでどうこうできると判断されて、そう言うことを強要されそうになった経験はクルーゼ隊のパイロットに共通のものらしい。だから、彼は見た目だけで部下を選んでいるのだ……という噂も出るのだろうが。
 だからといって、そう言った行為を認められるかというと《否》だ。自分にとって、その対象になるのはミゲルだけで、キラにとってはアスランだけなのだろう。
「わかってはいるつもりだったんだけどさ。俺達のTOPがあれだろう? どうしてもギャップを感じちゃうんだよね」
 その片割れのことを思い出して、ラスティは苦笑を浮かべる。
「アスランって、遊ぶには丁度いい相手だけどさ」
 しかし、キラはそう言うことが出来そうにない……と感じたのだ。
「キラは……遊んでも気にしないだろうけど何かな……俺がそういう気持ちにならないわけ」
 それが怖いと感じた理由だ、とラスティはミゲルに告げる。
「お前って、昔からカンだけはいいのな」
 この言葉に対するミゲルの感想がこれだった。
「まぁ、キラの方もお前が気に入ったようだから……大概のことは大丈夫だと思うぞ」
 ついでに、最高のカスタムをしてくれるはずだし……と言いながら、今度はミゲルの唇が頬に触れてきた。
「むしろ、何かするときはあいつを巻き込んでしまえって」
 そうすればアスランだけではなくクルーゼも細かいことは言えないぞ……とミゲルの唇が、直接、ラスティのそれに伝えてくる。
「なぁる……それいいかも」
 ついでに、あれこれ手伝ってもらえそうだ……とラスティも頷く。
「でもさ。ちょっと面白くないかも」
 しかし、そのままキスをさせることは許さない。
「何がだ?」
 あと一息、と言うところでお預けを食らわされてむっとしたらしいミゲルが、その感情を隠さずに問いかけてくる。
「だってさ……俺の前であいつのフォローをしていたじゃん。面白いわけないだろう?」
 自分の方を優先して欲しいんだって……と言い返せば、ミゲルが小さく笑う。
「だから、だろうが。キラを怒らせると、隊長よりも怖いぞ」
 それよりは仲良くなって欲しかったんだって……とミゲルは口にする。それもラスティのために、と。
「それも、何だかな」
 ラスティがわざとらしくため息をつけば、
「お前がアスランで遊ぶのと同じなんだけどな、俺にしてみれば。アカデミー時代からのすり込み」
 こう言われてしまう。それには納得をするしかないラスティだ。
「と言うわけで、キスしてもいいよな?」
 ミゲルの言葉に、ラスティは素直に頷いて見せた。

「これで、だいたいパイロット達の性格が把握できたかな?」
 アスランの胸に背中を預けながらキラがこう呟く。同時に、膝の上に乗せたパソコンに何やら打ち込んだ。
「キラ?」
 いったい何の話だろう……というようにアスランはキラの手元を覗き込む。そうすれば、自分を含めたクルーゼ隊のパイロットについてのキラが感じたことがメモされているのがわかった。
「機体はあのまま固定……と言うことになりそうだからね。機体の特性と本人の性格を考えてOSをカスタムしようかなって思っただけ」
 ついでに、ラスティに使わせる予定のジンのも……と答えを返しながら、キラの指はさらにキーを叩く。
「……クルーゼ隊のパイロット……としては、喜ぶべきセリフ、なんだろうけど……」
 恋人としては悲しいかも、とアスランはキラの耳元で囁いた。
「アスラン?」
 どうかしたの? と言うようにキラはアスランを振り返る。
「二人だけでいるときは、仕事のことを忘れて欲しい……って言うのはワガママなのか?」
 微苦笑を浮かべつつ、アスランはキラに問いかけた。それにキラはすぐに微笑み返してくる。
「ワガママじゃないと思うけど……こっちも手を抜けないんだ」
 次の瞬間、キラはほんの少しだけ眉をひそめた。
「あの新造艦のこともあるし、他にも不安なことがあるから……こういう時のカンだけは外れないんだよね、僕」
 だから、焦っているのかもしれない、とキラは告げる。
「そう言われてみれば……そうか」
 確かに、キラは昔からそう言うところがあった。もっとも、キラが口にしているように不安なときだけに彼のカンが働くわけではなかったが。印象からすればそうなのかもしれない、とアスランは納得をする。
「でも、俺もかまって欲しいんだけどな」
 こうして、キラを抱きしめられるようになってまだそんなに経っていないのだから、と少しすねたような口調でキラの耳元で囁く。そのままアスランは彼の耳たぶを軽く噛んだ。
「……もう、少しだけ待ってくれる? ラスティの所だけ書いちゃうから……」
 それもすぐに終わる……とキラは付け加える。
「だけど……」
「一度、彼は死にかけているからね……無意識の恐怖がある可能性がある。それが、万が一の時に出ないようにしてあげないと、今度こそ本当に帰ってこないかもしれないでしょう?」
 アスランとも仲が良さそうだし、彼……とキラはアスランの肩に頭をすり寄せてきた。
「そうなれば、アスランが悲しむかなって思ったから」
 ミゲルはもちろんだけど、と言葉を返して来るキラにアスランは『まさか』と思う。
「ひょっとして……俺のため?」
 自分が悲しまないように、キラはあれこれ手を尽くしてくれているのだろうか……とアスランはキラに聞いてしまった。
「だって……アスランはもう、大切な人を失うのはいやでしょう?」
 そうすれば、キラは素直に認めてくれる。
「バカだな……キラ以上に大切な存在は、もういないよ」
 だから、そんなに無理はしなくてよい、とアスランは付け加えた。でなければ、自分が出来ることは任せて欲しい、とも。
「うん、わかってる。でも、僕は慣れているから」
 だから心配しなくても大丈夫だ、とキラはさらに笑みを深める。そんな彼の唇にキスをしたいな、とアスランは思ってしまった。こんな時に、とは思うがどうしてもそう思ってしまうのだ。
「代わりに、キスしていい?」
 そして、その気持ちを素直に口にする。これにはキラもすぐに頷き返してくれた。



ただのいちゃいちゃを書きたかっただけ……と言うところでしょうか(^_^;