「イザークって……面白いくらいに真っ直ぐな人だね」 キラがこう言いながら、アスランに視線を向けてくる。 「だろう? 他のメンバーは一癖も二癖もあるが、あいつはわかりやすい」 だからといって、あまりからかってくれるな……とアスランは言い返す。そんなことをしているうちに、イザークがキラにそういう感情を抱いてしまったら困るから、と。 「でも、僕がその気にならなきゃ意味がないでしょう?」 長期戦ならともかく、短期戦ならば、間違いなく自分は負けない……とキラは言い返してくる。 「それとも、簡単に誰かに乗り換える性格だ、とでも思っていた?」 そして、さらにこう聞き返してきた。 「キラのことは心配していないよ。ただ、イザークは根に持つ性格だしね……それに、母君が少し過保護気味だ……と言うことだ」 あちらからキラに何かをするかもしれない……とアスランは思う。もっとも、さすがに任務に支障が出るようなことまではしてこないだろうが、と信じているのだが。それでも、万が一、と言うことは否定できない。 「多少のことは、隊長が何とかしてくれる、と思うけどね」 そのくらいはして貰わないと困る……とキラは苦笑混じりに口にした。 「……期待しておこう……」 キラがそういうなら、大丈夫なのでははないか。自分よりもあの仮面の上司を個人的に知っているキラの言葉だし……とアスランは思う。 「遊ばれる可能性は否定しないけどね」 あの人ならやる、とキラは言い切る。それでも、まだ一人だからマシだろう、とも。もう一人の兄貴分が来れば、被害が二倍ですむはずがない……と付け加えるキラに、アスランも思いきり同意を示したくなってしまった。 「あの人が来る可能性が低いことだけが救いか……」 「かな?」 微妙な口調でキラが言葉を返してきたときだ。目的地に二人は辿り着く。 「遅かったな」 一足先に辿り着いていたらしいミゲルが即座に声をかけてきた。 「一応、隊長に報告をね。本国の開発局に依頼しないといけないことが出来ちゃったし、勝手にやるわけにいかないからね」 クルーゼは怒らないだろうが、本国からの突き上げが怖い……と言うキラに、 「そこいら辺のしがらみは諦めろ、としか言えないよなぁ……俺のジンの件もあったし」 ミゲルも大きく頷いてみせる。と言うことは、アスランが知らないところ――と言うよりも、彼がまだアカデミーに入学しようと思う前か――に何かあった、と言うことなのだろう。そのころのキラをフォローしていたのがミゲルだ、ということは二人の様子から推測できる。その事実がありがたいものの、どこか妬ましいと思うのは自分が未熟だからか、とアスランはため息をついた。 「まぁ、僕のジンも無駄にならないようだし……いいことにしようか」 本人が操縦できるようにならないと、微調整が出来ないけどね……とキラは話を終わらせる。 「と言うわけで、軽く話を聞いておきたいんだけど……」 「了解。あいつからもせっつかれていたんだよな」 お前に会わせろって……と言いながら、ミゲルはさりげなくアスランに視線を移してきた。 「なんせ、アスランがお前とのことをあれこれ相談していたし。あいつも暇をもてあましているから、興味だけが先行しているんだよな」 さらに付け加えられた言葉に、アスランは思わずこの場から逃げ出したくなってしまう。と言うのも、キラの表情が微かに変化したのだ。 「……そう言うことをしていたんだ、アスラン」 微妙に低くなった声が怖い……とアスランは思う。その怖さがどれほどのものか、と言えば、キラの機嫌を直してもらうにはどうすればいいのか……ととっさに考えてしまったほどだ。 「仕方がないだろう……こいつらは、それに関しては間違いなく《先輩》だし……他に相談できそうな奴を知らなかったんだ」 口が堅いことだけは保証できるし……と付け加えれば、キラの全身を包み込んでいた気も微かに和らぐ。 「それに……ラスティはアカデミー時代から仲が良かったし……」 キラにとってのミゲルのようなポジションにいた奴だから……とアスランは口ごもりながらさらに言葉を重ねた。 「そう言うことにしておいて上げるよ」 後は、本人に会ってから判断をする……とキラは言葉を返してくる。その事実に、アスランはほんの少しだけだがほっとした。 「と言うところで、入れよ」 そろそろしびれをきらしているぞ、といいながらミゲルがドアのロックを外す。そして、そのまま中に体を滑り込ませた。 アスランとキラは頷きあうとそのまま後に続く。 点滴のためだろうか。それとも他の医療行為を行うためか。医務室は1Gの重力がかけてある。その事実に、アスランはほんの少しだけ眉を寄せた。これが日常だったはずなのに、どうしてか煩わしいと思えてしまったのだ。 「よ!」 だが、ベッドに横になっているだけの人間は気にならないらしい。明るい口調で彼らに笑顔を向けてきた。 「この前よりも顔色が良くなったな」 言葉を返しながら、アスランはすぐに彼のベッドの側に寄っていく。 「食べて寝るしかないからさ。ひょっとしたら、太ったかも」 ミゲルに嫌われるか? と冗談交じりにいう彼に、アスランも笑みをかえす。 「で、彼が『キラ・ヤマト』?」 すいっと視線を移すとラスティが問いかけてきた。 「だとしたら、何?」 さすがに、頭の先からじっくりと検分されるのは気に入らないらしい。少しむっとしたような色を含ませながら、キラは聞き返した。 「まずは礼を言おうかなって」 助けて貰ったし……とラスティはキラに笑いかける。 「おかげで、またミゲルといちゃついてイザークをからかえるしぃ」 それは違うのではないか……と彼のセリフを耳にした瞬間、アスランは思ってしまう。しかも、キラにはちょっと衝撃だったらしい。ただでさえ大きいと言える瞳を、さらに丸くしていた。だが、次の瞬間、盛大に爆笑し始める。 「その性格で、ミゲルを落としたんだ」 笑い声の合間にキラは何とかこれだけを口にした。 「黄昏の魔弾をたたき落とせる人間はいない、って言うのが同期のメンバーでは定説だったのに」 この言葉に、ミゲルが思わず腰を浮かしかけたのはどうしてなのだろうか。もっとも、その理由を問いかけないだけの情けはアスランにもあった。 「あぁ、やっぱり。でも、ミゲルって意外と押しに弱いよな」 「そうそう。後、泣き落としも通用するよね」 一気に意気投合してしまったらしい二人の会話が怖い。アスランもこう思ってしまう。一体何を暴露されるのだろうか、と不安になってしまったのだ。 「と言うわけで、改めて自己紹介かな?」 だが、はやりキラには分別があったらしい。こう言って、一端話を終わらせてくれた。 「そうだね。お互い、あれこれ知っているけど、本人の口からは何も言っていないもんな」 ラスティもこのあたりの切り替えは早い方だ。いや、そうでなければ、戦場では生き残れない……と言うべきなのかもしれない。 「キラ・ヤマトだよ。一応、クルーゼ隊のMSに関してはOSも担当しているから」 だから、ラスティが復帰次第、そちらの方で付き合って貰うことになる……とキラはきっぱりと言い切る。 「地球軍から貰ってきたのじゃないけど、自分専用のMSが貰えるのは嬉しいよな」 それにラスティもまんざらではないと言う表情を作った。その気持ちは、アスランだってわかる。ミゲルのジンを見てからと言うもの、いつか自分専用にカスタマイズされたMSを欲しいと思っていたのだ。 「と言うわけで、俺はラスティ・マッケンジーだ。命を助けて貰ったから……というわけじゃないけど、何かあったら味方に付くよ」 特に、イザーク関係については……と付け加えるラスティに、キラは笑顔に苦いものを含ませる。 「まぁ、大丈夫じゃないかな? アスランさえしっかりとしていれば」 その表情のまま、キラはアスランに話題を振ってきた。 「そうだな。アスランさえイザークを無視できればいいんだし」 「そうそう。イザークがキレルのは、大概アスランがらみだしねぇ」 キラの尻馬に乗るように、ミゲルとラスティもアスランに言葉を投げつけてくる。 「……俺だけが悪いのか、それは……」 キラの味方が増えたのは嬉しいが、何か複雑な気持ちになってしまうアスランだった。 キラとラスティの正式な顔合わせ……ですが、まだお互い腹のさぐり合い、と言うところでしょうか。そのとばっちりがアスランとミゲルに向けられていますね(苦笑) |