「アスラン。イージスのOSについて、なんだけど……」 こう言いながら、キラがイージスのコクピットを覗き込んでくる。その表情は二人だけでいるときとは違って厳しいと言っていいものだ。 「……どこかおかしいところがあった?」 だとしたら、何処だろうか。 自分の失態でキラに余計な仕事をさせてしまったなんて……とアスランは自責の念に捕らわれる。それでなくても、キラの仕事は自分たちの倍以上はあるのではないか。それはクルーゼ達の忠告がなかったとしても、アスランに手を出すことをためらわせるほどだ。 「というか……スキュラだっけ? あれが照準をロックするまでの時間が気になって」 イージスの特性を考えれば、少しでも早くロックできるようにしたいのだ……とキラは付け加える。 「だからね、ちょっとコピーさせて貰ってもいいかなって、許可をもらいに来たんだけど」 別にアスランが修正したOSに不具合を見つけたわけではない……とキラは微笑んで見せた。その事実は安心したが、結局、キラは自分で自分の仕事を増やしているだけではないか、とも思う。 「かまわないが……勤務時間外にいじるのは禁止にしてもいいか?」 無駄とは思いながらもアスランはこう口にしてしまった。 「アスラン?」 意味がわからない……というようにキラは小首をかしげてみせる。 「だって、キラが部屋でも仕事をしていれば、俺は見ているだけしかできないだろう?」 せっかく、同室なのに……と告げれば、キラにも意味がわかったのだろうか。微かに頬を赤らめている。 「アスラン!」 いきなり何を言うわけ、と言うキラは、完全に動揺を隠しきれない。そんなキラの様子を見て、アスランはどこかほっとしたものを感じていたのは事実だ。 「仕方がないだろう。俺だって、一応、健全な男なんだから……」 あれこれ煩悩があっても仕方がないじゃないか……とアスランは呟くように口にする。 「そうかもしれないけど……でも、今は勤務時間だろう?」 せめて、部屋にいるときに言ってくれ……とキラはハッチに寄りかかるようにして脱力をしてしまった。そんな彼の様子に、アスランは本気で彼が疲れているのではないか、と思ってしまう。 「……悪い……俺にはそこまで割り切れないんだ、まだ……」 と言うよりも、ようやく両思いになれたおかげで、どこか舞い上がっているのかもしれない……とアスランは素直に口にする。 「それは……僕だって同じだけどね……」 だからこそ、余計に気を遣っているのに……とキラは呟く。その言葉に、アスランが嬉しいと思ったときだ。 「だから、自制しろって言っただろうが」 不意に彼らの上に声が飛んでくる。 「ミゲル?」 「……何か用か?」 確認しなくてもわかってしまう声の主に、キラは慌てて居住まいを直した。同時に、アスランはどこかむっとした表情を作ってしまう。せっかく、キラが本音を口にしてくれていたのに……と思ったのだ。 「お前に用があるわけじゃない。キラに頼まれていたものがあったんだよ」 それで、キラを捜していればとんでもない会話が耳に届いたのだ……と彼は付け加える。 「周囲には誰もいなかったはずだが?」 だから、安心して気を緩めていたのだ……とアスランは言い返す。 「そうでなければ、ぶん殴っているところだって」 この言葉に、ミゲルは苦笑混じりにこう言ってきた。 「まぁ、アスランの気持ちもわからなくはないがな」 目の前に恋人がいるのにお預けされていればな、とミゲルは口調を和らげると意味ありげな笑みを二人に向けてくる。 「……ミゲル?」 一体、彼は何を言いたいのだろうか……と確かめようとするかのようにキラは彼の顔を覗き込んだ。もちろん、それはアスランも同じ気持ちだと言っていい。 「隊長から釘を刺されたって?」 顔を寄せてきた二人に向かってミゲルはこう問いかけてくる。 「……何で知っているの……」 「どうせ、隊長から見張っているように言われたんじゃないのか?」 キラの言葉にアスランがぼやくようにこう呟く。昔から《ラウ兄さん》はキラのこととなるとなりふり構わなかったんだから……と。 「半分あたりで、半分外れ」 だが、ミゲルはこう言い返してくる。 「俺とラスティの時にも同じように言われただけだって……だから、お前らは余計にかな、と思ったんだよ」 任務中には最後まで行くんじゃないって……とミゲルは平然と笑って見せた。そう言うことが出来るあたり、ミゲルの人柄を表している……と言っていいのだろうか。あるいは、こういう性格だからこそ、彼は好かれるのだろう。 「……あの人は……」 この言葉に、キラは頭を抱えている。アスランはアスランで、思わず天を仰ぎたくなってしまった。 「隊長としては正しい判断だろうとは思うんだが……さすがに、作戦前にラスティをつぶしちまったのはまずかった、と今ならわかるけどさ」 だが、俺も健全な男だったしなぁ……と二人のそんな反応を無視してミゲルはさらに言葉を続ける。 「アスランだけならあたふたしているところを眺めて楽しんでおいたんだけどさ。キラが妙にがんばっているところを見ると、忠告をしてやろうかって思うわけ」 倒れられると、ラスティとは比べものにならないくらいの大混乱を巻き起こしそうだからな、と言われて、アスランは思わず納得をしてしまう。 だが、キラの方はそうではなかったらしい。 「だから、何を言いたいわけ?」 さっさと言え! とキラは八つ当たりのようにミゲルに突っかかっていく。 「ようするに、適当に発散しろって言いたいわけなんだな」 くくっと笑いながら、ミゲルはキラに言葉を返す。 「……発散?」 「そう。つまりは、任務に支障がないように、最後まで行かなきゃいいんだろう? そう言うときはな、手とか口でしてやるとか、素股とかいろいろと方法があるんだな」 自分たちはそうしているぞ……と言う言葉に、いったい何と言い返せばいいのだろうか。そうは思うのだが、同時にいい考えだ、と思うこともまた事実だ。それならば、自分の中でわだかまっているものも消えるのではないか、とアスランは思う。 しかし、キラはそうではなかったらしい。 「手や口……は想像付くんだけど……素股って、何?」 ぼそっと問いかけてくる彼に、ミゲルだけではなくアスランも驚いてしまう。 「……マジで知らないわけ?」 確かに、アカデミー時代にそういう話をキラにしたことはないが、普通この年代になれば知っているものじゃないのか、とミゲルはアスランに問いかけてくる。 当人に問いかけないのは、今の様子で無駄だとわかったからかもしれない。 「過保護だからな、隊長も含めて……」 そう言えば、その手の話をキラの前でしたことはない、とアスランは思い出した。 いや、正確に言えば約一名があれこれ教えてくれようとはしたのだ。それを他の者たちが一丸になって阻止していた、と言うのが正しい。 その代わりというように、彼はアスランに教えてくれたのだから、結果的にはよかったのだろうか。 「お前は……わかっているようだな?」 アスランの表情からそれを読みとったのだろう。ミゲルが苦笑と共にこう言ってきた。 「キラ相手で……とは思わなかったんだろうがな。教えてくれた人がいるんだよ」 だから、それなりに知識はある……とアスランは言葉を返す。 「なら、今晩にでも、アスランから教えてもらえ」 実践こみでな、とミゲルはキラへと視線を向ける。 「……今ひとつよくわからないけど……アスランが知っているなら」 そうする、と言うキラに、アスランはほんの少しだけ罪悪感を覚えてしまった。 任務中に何の話をしているのか……と思ってみたりして。というか、あんたら、そういうことしているのか、とミゲルにつっこみを入れていいでしょうか。この場にイザークがいなくてよかったかも(^_^; |