クルーゼと話をすることは好きなのに、今日は何故かぐったりとしてしまった。そんなことを考えながら、キラは部屋へと戻る。
「お帰り、キラ。食事は取ったか?」
 そうすれば、先に戻っていたらしいアスランが声をかけてくれた。
「……忘れてた……」
 一瞬の間の後、キラは正直に言葉を返す。誤魔化してもばれてしまうのであれば、素直に口にした方がいい……と判断してのことだ。
「じゃ、丁度良かった。俺もまだなんだ」
 しかし、アスランの口から出たのは、こんなセリフだった。
「アスランがまだ食べてない?」
 信じられない……というようにキラは思わず呟いてしまう。
「ちょっとね……あれこれ野暮用を片づけていたら、時間がなくなったし、どうせ、キラも食べていないだろうと思ったから」
 一緒に食べれば楽しいかなって口にするアスランは、珍しく照れているようにキラには思える。
「そうだね」
 実際、キラにしてもアスランと一緒に食事を取れるのは嬉しいかもしれない。第一、この艦内では、デートなんてする場所があるわけがない。
 だから、せめて……と思っても仕方がないのではないか。
 ただでさえクルーゼから厄介な条件を付けられているのだから、それが元でアスランに嫌われかねないとも思うのだ。
「一緒に食べよう」
 にっこりと微笑めば、アスランも嬉しそうに頷いてみせる。そのままゆっくりと彼はキラに近づいてくる。
「じゃ、行こうか」
 しっかりと食べさせるからね……とアスランはキラの肩に手を置きながらこう言った。
「……アスラン?」
「ミゲルからね。放っておくとキラはほとんど食べないから、責任を持って太らせろ、って言われただけ」
 だから……というアスランに、キラは盛大にため息をついてしまう。
「ミゲルの奴……後で覚えてろよ……」
 アスランに余計なことを吹き込んで……と、この場にいない友人に向かってこういった。彼のジンのOSにロックでもかけてやろうか、それともアラームをクルーゼの声にすり替えてやろうか。どっちが嫌がらせとしては効果的だろうか……と本気で考えてしまう。
「キーラ。ミゲルだって、キラのことを心配してくれているんだって」
 実際、ヘリオポリスに行く前よりも身長は伸びているのに体重は減っているそうだし……とアスランがミゲルのフォローをしてくる。
「それは……否定できないんだけど……」
 だからといって、アスランに伝えなくてもいいではないか……とキラは思うのだ。
「それに、俺にはキラを心配する権利も義務もあるはずだよ?」
 だから、ミゲルから話を聞いても当然だ、とアスランは言い切る。
「でないと、あれこれ心配で出来ないからね」
 こう言いながら、彼が囁いてくる意味も、キラには十分わかってしまった。しかし、それにすぐに頷くわけにもいかないだろう。
「……あのね、アスラン……」
 いい機会だから、今、クルーゼに言われたことを伝えてしまおうか。そんなことを考えながら、キラは口を開く。
「何?」
 キラの言葉に、アスランはとっておきの笑顔を浮かべてくれた。
「えっと……えっとね……」
 しかし、そんな風に嬉しそうな表情をされては実に言いにくい……とキラは思う。だから、ついつい口ごもってしまう。
 そんなキラの態度から、何事か察したのだろうか。
「……隊長から、何か言われてきた?」
 俺達の関係のことで……とアスランはストレートに問いかけてくる。
「……うん……」
 どうしてこんなに察しがいいのだろうか……と思いながら、キラは素直に頷いた。
「……俺もさ……ラスティの見舞いに行ったときに、釘を刺されてきたよ……」
 だから、だいたい想像が出来ているんだけどね……とアスランはさりげなく視線をそらしながら言葉をつづってきた。
「せめて、今回の作戦が完全に終了するまでは……って……」
 頬を軽く赤らめながらアスランが告げた内容に、キラは彼に負けないくらい真っ赤になってしまう。
「……ばれているわけ……」
 そう言いながらも、ラスティというのはミゲルの相手だったかもしれない、とキラは考えた。ならば、知っていてもおかしくはないかもしれない、とも思う。というか、絶対にミゲルが教えるに決まっているのだ。
「まぁ……キラに再会できるとは思っていなかった頃から……あれこれ相談していた相手だし……」
 いろいろと情報を仕入れておきたかったこともあるから、とアスランは付け加える。だから、とも。
「それに関しては……僕も同じか……」
 自分だって、ミゲルやクルーゼにこっそりと相談していたのだから……とキラはすぐに考えを改めた。
「結局、ミゲルは当事者二人から相談されていたって言うわけなんだね」
 まさか、そうとは知らなかっただろうけど……とキラは呟く。だから、今回のことに関しては妥協しておこうとも。
「で? 隊長から何を言われてきたわけ?」
 だいたい想像付いているけど……とアスランは苦笑混じりに問いかけてくる。
「……本国に帰還するまで……最後まではするなって……」
 でないと、後でアスランを二人ががりで説教というなのいじめをするって言っていた……とキラは一息に口にした。
「……二人がかり?」
 一人は隊長だろう……と言いながらも、アスランはもう一人が思い浮かばないようだった。それは無理もないのだろうか、とキラは思う。彼は今、プラントに足を踏み入れられるはずがないのだから、とも。
「下手をしたら……三人になるかも……」
 こう付け加えれば、アスランにもわかったらしい。
「当分、オーブには足を踏み入れられないな……」
 二人のうち年長者についてはからかわれるだけですむだろう。それもさりげなくいじめを含んだセリフでだ。
 だが、もう一人に関しては、下手をすればアスランの命に関わるような行動に出かねない。
 それがわかっているだけに、二人はため息をつくことしかできなかった。
「ともかく……ご飯を食べに行こうか……」
 今はまず目の前のことから片づけていこう。アスランがそう言ってくる。
「そうだね。食べに行こうか」
 キラもまたその提案に頷いて見せた。
「その前に」
 次の瞬間、アスランが少しだけ表情を変えてこう言いながらキラの顔を覗き込んでくる。
「アスラン?」
 何、と問いかければ、彼はふわっと微笑んで見せた。そして、そのままさらに顔を寄せてくる。
「これくらいはいいんだよね」
 言葉と共に唇が重ねられた。反射的にキラは瞳を閉じる。そのぬくもりが、キラの心にほんの少し幸せを積み重ねてくれた。



と言うわけで、甘々な二人です。これが今後どう繋がるか……いろいろとバリエーションが考えられますね(苦笑)