「少し働き過ぎ、なのではないか?」
 報告をしに行けば、クルーゼにこう聞かれてしまう。
「隊長ほどではない、と思いますが?」
 そんな彼にキラは苦笑を浮かべながらこう言い返した。
「そうかな?」
「そうです」
 きっぱりと言い返せば。次の瞬間、彼は声を上げて笑い出してしまう。
「隊長?」
 そんなクルーゼの様子に、一体何があったのだろうかとキラは思ってしまった。
「本当に、お前は変わらないね」
 おいで……と言われて、キラは小首をかしげた。本当にいいのだろうかと思ったのだ。だが、クルーゼはさらに腕を広げてキラを誘ってくる。そうされなければならないほど自分は幼くないのに……と思いながら、キラは彼の腕の中に滑り込んだ。
「ふむ……やはり、軽いな」
 次の瞬間、キラは彼の膝の上に座っている自分に気がついてしまう。
「隊長!」
「任務に関する報告は聞いたからな。今度は保護者として話を聞こうか、と思うのだが」
 かまわないかな? とさらに笑みを深められては、キラとしても頷かないわけにはいかない。
「だったら、それ、取ってください」
 仮面を付けている理由は知ってはいるが、それでは自分の知っている《ラウ》ではない、と思うのだ。同時に、キラとしては仕事とプライベートを区別するためのアイテムになっている。
「もちろんだよ」
 クルーゼもまた気軽に仮面を外す。
「いい加減、これを付けていても甘えてくれると嬉しいのだがね」
「……無理です。どこかで線引きをしておかないと、なし崩しになってしまいますから」
 クルーゼの言葉に、キラは即座に言葉を返した。
「そういうところも可愛いんだがね。私達には」
 くすくすと笑いながら、クルーゼはキラの髪を撫でてくれる。その指の感触は昔から優しくて好きだ……とキラは心の中で付け加えた。
「で? アスランとの関係はどうなったのかな?」
 しかし、ここまでストレートに聞かれるとは思わなかった、とキラは思う。同時に、どういえばいいのだろうか……とも。
 彼に関して言えば、誤魔化すことは不可能だと思っている。  と言うよりも、アスランに対する気持ちを自覚したときに、彼に相談していたのだ。自分よりも彼の方が自分の気持ちを理解しているのかもしれない……とキラは思っていた。
「まぁ……そう言うことに……」
 とはいうものの、素直に口にするのは恥ずかしいとも思ってしまう。
「そうか。それはよかった」
 キラの気持ちが通じて……と口にするクルーゼにキラは微笑み返す。
「ラウ兄さんなら、そう言ってくれると思ってた」
 そのまま甘えるように彼の胸に頭を預ける。
「でも」
 その体勢のまま、キラはさらに口を開く。
「でも……何かな?」
 くすくすと楽しげな笑いを漏らしながら、クルーゼがキラに次の言葉を促してくる。
「アスランをいじめないでくださいね」
 やりかねないから……とキラは口にすれば、彼はさらに笑みを深めた。と言うことは、図星だったのだろう。
「いじめるいじめない……の定義はともかく、アスランがお前を悲しませるようなことをしない限り、故意には何もしないよ?」
 だから、安心してもいい……と付け加える彼に、キラは微苦笑を返すしかできなかった。
「あぁ、だが、一応釘は刺させて貰おう。保護者としてね」
 昔、キラ達がいけないことをしようとしていたのを察したときの口調でクルーゼがこう言ってくる。
「ラウ兄さん?」
 一体何を……と、キラは彼に確認をしてしまう。
 思い当たる節は山ほどあるが、それを指摘されるのは当事者の一人としていたたまれないのではないか、と思うのだ。
「もっとも、アスランはミゲルやラスティと仲がいいから、彼らが牽制をしてくれるかな?」
 さらにこう付け加えられては、キラでも理解をしないわけにはいかないだろう。
「……兄さん……」
「保護者としてはもちろんだし、指揮官としても当然のことだともうが?」
 今、キラが動けなくなるような状況になれば、困る……という彼の言葉に、キラはとうとう頬が熱くなってしまった。直接ではないとは言え、免疫がないキラには刺激が強すぎる。
「ふむ……こういう事はあいつの方が適任だったかな?」
 少し、純粋培養しすぎたか……とクルーゼは苦笑を浮かべた。
「まぁ、そのうち、アイツも合流してくるだろうしな。その時に、二人でアスランに話をしよう」
 クルーゼはこう言ってキラの頭をぽんぽんと叩く。
 彼が合流してくることに関しては、別段、キラとしても異存はない。最初からその予定であったし、必要があると判断してのことだ。
 しかし、それとこれとは別問題なのではないだろうか。
「でも、それって、僕とアスランの間のことで、兄さん達には……」
「そう言うけどね、キラ。私達としては、アスランよりも可愛いお前の方が大切だしね」
 そして、いろいろな意味で負担はキラの方が大きいのだ、とクルーゼは口にする。だから、正しい知識を持っていることを確認してからでなければ最後までは認められないとも。
「兄さん!」
 そんなことを言われても困る、とキラはクルーゼを怒鳴ってしまう。
「お前達は今やりたい盛りだ……と言うことは理解しているからな。まぁ、最後まで行かなければ妥協してやるが……最後まで進んでしまうと、どうしてもお前の体の負担が大きすぎる。今回の作戦が完了するまでは、我慢してくれ」
 こう言われてしまえば、キラとしても頷かないわけにはいかない。
 実際、いつ、戦闘になるかわからないのだ。そのようなときに動けないパイロットは必要ないと言われても仕方がないだろう。
 そして、そういう注意を出来るのはやはり《保護者》としての《ラウ》でなければならないこともわかっている。
 しかし、だ。
「もう少し、インパクトが少ない方法で言ってくれればいいのに……」
 キラは思わずぼやいてしまう。
「だが、勝手にものごとを進めるとお前は怒るだろう?」
 だから、事前に話をしておこうと思っただけだ……とクルーゼは言葉を返してきた。
「そうですけど……」
「まぁ、基本的に応援はしてあげよう。ただ、節度は忘れないように」
 任務に支障が出なければ、何をしてもいい……と言う言葉は寛大だというのだろうか。本気で悩んでしまうキラだった。



隊長、遊んでいませんか? キラとアスランで……まぁ、それも保護者としての愛情でしょう、たぶん……