この照らす日月の下は……

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 予想以上にキラ達が元気そうで安心した。
 それでも、ここは彼女にとってよい環境ではない。だから、早々に連れ帰らなければいけない。ギナはそう考えながら女性士官へと視線を向けた。
「子供達が世話になった。必要な物資はカーゴに詰んである。まずは確認するがよい」
 その言葉に彼女はうなずく。そして背後にいたクルーへと視線を向けた。
「キラ。それにカガリ。よく顔を見せてくれぬか?」
 彼らが動き出したのを確認して、ギナはそう声をかける。
「ほら、キラ」
 カガリがそう言いながら彼女の腕を引いて近づいてきた。
「少しやつれたか?」
 そう言いながらギナは彼女のほほをなでる。メールに添付されてきた写真のそれよりもほほの丸みが失われているような気がしたのだ。
「どうでしょう?」
 自分ではわからないのか。キラは首をかしげてみせる。
「やせたわよ、キラ」
 彼女の友人の一人がそう言ってきた。
「確かに。食欲もなかったようだし」
 もう一人の少女もそう言ってうなずいている。
「カナード?」
「精神的なものでしょうね。いろいろとありましたから」
 本当に、とつぶやきながら彼は視線を移動した。その先にはあのブルネットの女性士官の姿がある。
 カナードの視線に気づいたのだろう。彼女は慌ててムウを盾にするように場所を変えた。そんな仕草も気に入らない。本当ならば物資も渡さなくてよかったのではないかと思うのだ。
 それでもムウがいる以上、多少は妥協する必要がある。
 何よりも、とギナはキラへと視線を戻しながら心の中でつぶやく。これはあくまでも前哨戦。本番はザフトとの交渉だろう。
「確認終了しました。目録と差違はありません」
 クルーの一人がそう報告をしている声が耳に届いた。
「さて。では子供達は引き渡してもらおう。あぁ、安心するがよい。貴殿らがこの宙域を離脱するまでは我らがザフトを抑えておくゆえ」
 さっさと振り切るのだな、とギナは言う。もちろん、その後のことは責任を持つつもりはないが。
 同時に、そろそろムウには戻ってきてもらった方がいいかもしれないとも考える。
「さて子供らよ。ランチに乗り込むがよい。あちらでは姉上達も待っておるゆえ」
 スイーツも用意してある、とギナはほほえむ。
「本当ですか?」
 しかし、カガリが真っ先に反応をするとは思わなかった。
「よかったな、みんな。キラも一緒に食べるんだぞ」
 だが、理由がわかれば納得できる。ともかく、キラに食べさせたいだけらしい。他の少女達もうれしそうにしているから、普通の娘とはそういうものなのかもしれない。ミナが特別だと知っていても、ついつい彼女を基準にしてしまう。それはやめなければ、と心の中で付け加えた。
「うまくいけば、小父上達と話ができるだろう。そのときまでに少しはほほの丸みを戻しておかないと、小母上に泣かれるぞ」
「……はい」
「まぁ、我らがいればすぐに戻るだろうがな」
 言葉とともにギナは手をのっばすとキラの体を抱き上げる。
「いつまでもここにいても仕方があるまい。早々においとましよう」
 そして、床を蹴るとランチへと向かって移動を開始した。

 地球軍の艦から出発した瞬間、キラが崩れるように意識を失った。
「キラ!」
 反射的にカガリは近寄ろうとする。
「気が抜けたのだろう。眠らせておくがよい」
 そんな彼女をギナが止めた。
「カナード。他の子らを任せてもかまわぬな?」
 キラを寝かせてくる、とギナは奥へと進んでいく。
「とりあえず席についてベルトを締めてくれ。万が一はないと思うが、念のためにな」
 周囲に護衛がいるようだし。そう言いながら彼はコクピットへと向かう。
「ともかく、座ろう。あぁ、ドリンクは用意されているようだな。飲むか?」
 それを確認してからカガリも動く。自分が真っ先にそうしなければ他のもの達が動けないだろうと判断したのだ。
「そうですわね。その方はリラックスできますわ」
 ラクスもそう言ってほほえむ。
「味の方は……多分大丈夫だろう。ギナ様はキラに甘いからな」
 彼女が飲むかもしれない以上、味に妥協するはずがない。そういうところは昔から変わっていないし、とそう続ける。
「私には厳しいことも言うのにな」
 キラがあいてでは仕方がないのかもしれないが。
「相手がキラじゃ仕方がないわね、確かに」
 フレイがため息とともにそう告げる。
「確かに、キラじゃ仕方がないわ」
 さらにミリアリアもそう言ってうなずく。
「あいつ、頭いいのにどこか抜けているし」
 トールもそう言って苦笑を浮かべた。
「ところでさ」
 不意にサイが口を開く。
「ギナ様ってキラの傷のこと、知っているのかな?」
 キラの服を緩めている最中に見えないとも限らないだろう。彼の言葉にカガリ達は一瞬動きを止める。
「そういえば、私は伝えてないな」
 もちろん、カナードにもその機会はなかったはずだ。
「まずくない?」
 それだけキラをかわいがっているのであれば、とミリアリアがつぶやく。
「……大丈夫だろう、今は」
 自信のみじんも感じられない声でカガリが言い返す。
「約束をした以上、破るはずがない。そうなればオーブの理念は失われるからな。それはギナ様もわかっているはず」
 だから、やるならば個人的にだ。
 それもキラ本人にばれないように細心の注意を払って内密に事を進めるはず。間違いなくカナードもそれに協力するだろう。
 ただ、その原因の一端は自分にあるからなぁ、とカガリはため息をつく。
「それよりも、今は、ラクスの方が問題だろう」
 ともかくと話題をすり替える。
「……あれですわね?」
 それにラクスも真っ先に反応を返してくれた。
「あぁ、あれだ」
 キラのそばをうろつく害虫、と二人の声がハモる。
「わたくしがいる以上、来ないようにはいえないですものね」
 キラをどうやって隠しておくか。それを考えなければ。その言葉に他の四人も大きくうなずいて見せた。


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最遊釈厄伝