この照らす日月の下は……
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目の前に見えているコロニーを見てムウはため息をつく。
「よりにもよってここかよ」
どうせなら他の場所で開発してくれればいいのに、と心の中でつぶやいた。だが、今更どうこう言ってももう遅い。
「あいつを巻き込まないようにしないと、な」
自分たちの宝物を、と口の中だけで付け加えた。
「まぁ、そのあたりのことはあの双子が考えているはずだが」
今の世の中『絶対』と言うことはあり得ない。
実際、セイランがバカをしているというのは公然の秘密となっている。しかも、連中が抱き込んだせいでモルゲンレーテの技術が地球軍に流れているのだ。
その結果、ここが戦場になるかもしれない状況が生まれた。
「本当、世知辛い時代だよな」
こんな風に憎しみあうためにナチュラルはコーディネイターを生み出したわけではないだろうに。
最初は自分たちの未来を切り開くための手助け優秀な人材がほしい。そう考えていただけなのだろう。
だが、自分たちが生み出したものだから好きにしていい。どんな理不尽なことを押しつけても、あちらが我慢すればいいのだ。
そう考えているバカが多すぎた結果が今の状況なのだろうと言うことはもちろんわかっている。
問題なのは、その凝り固まった理論を新しい世代にまで押しつけていることだ。
大西洋連合の教育は本当に徹底している。あくまでもコーディネイターはナチュラルの下にいる存在。だから、こき使おうが何をしようがかまわない。物心ついた頃からそんな教育を受けていればどうなるか。考えなくてもわかるだろう。
もっとも、世の中にはネットというものがあるから、それでその教育がおかしいのではないかと思う者達もいないわけではない。
オーブと関係が深い者達ならばなおさらだ。
だが、上層部が排斥論者である以上、おおっぴらに口に出せない。それをもどかしく思っているものも少なくはないとわかった。
「……まぁ、この戦争がどういう終わりを迎えるのか。俺にはわからないけどな」
それについて考えるのはあいつらの仕事だ。自分は守りたいものを守れればそれでいい。
「あいつに会える時間があればいいんだがな」
現地休暇はもらえるはずだから、と意識を切り替える。
「大きくなっただろうな」
その姿を見るのが楽しみだ。このときはそう考えていた。
もたらされた報告にラウは深く息を吐き出した。
「全く……どうせなら、あのことは関係のないところでやってくれればいいものを」
そうであれば、罪悪感など放り出せたのに、と心の中でそうつぶやく。
しかし、現実は違う。
今、キラが住んでいる場所のそばで開発が行われていた。それは《アスハ》と《サハク》のあずかり知らぬところであちらとのつながりが出来ていたと言うことだ。
それが何者の仕業かなど、考えなくてもわかる。
しかし、今はそれはどうでもいい。いずれつぶせばいいだけのことだ、と割り切っているのだ。
問題なのは、これから行う作戦でキラとその家族、そして彼等の知人や友人を巻き込みかねないと言うこと。そして、この間にあれが乗り込んでいると言うことだ。
どちらが厄介かと言えば後者だろう。
普通なら離れていた四年間で別の執着対象を見つけるはずだ。だが、あれ──アスランは違った。キラ以外のすべてを否定していると言ってもいい態度を見せる。
「本当に厄介だね」
それ以外は間違いなく優秀なのに、とため息をつく。
「厄介と言えば、他の者達もそうかな」
優秀だが厄介というカテゴリーに入るであろう部下の顔を思い出しながらラウは微苦笑を浮かべる。
「まぁ、苦労するのは私ではないからね」
彼等をまとめる立場にある青年の顔を思い出しながらそうつぶやく。
「まぁ、彼にはいい試練かな」
いずれは一隊を率いなければいけないのだ。その時に素直な担任ばかり集まるとは限らない。逆に癖のある者ばかり押しつけられるという可能性の方が高いのではないか。
その時に今回の経験が生きてくるだろう。
もっとも、生き残ればの話だが。
「久々に君に会いたいね」
ハルマとカリダのことだ。あの頃のまま成長させているはずだ。だから、あの頃のまま素直な浮かべているだろう。
それが無性に見たいと思うラウだった。