この照らす日月の下は……
44
キラとミリアリアとフレイ、それに荷物持ちにと同行させられたトールとサイの五人でショッピングモールへと足を踏み入れたときだ。
頭の上でいきなり警報が鳴り響く。
「何!」
そう言いながらキラは周囲を見回す。
「ともかくシェルターに移動しよう」
サイが冷静な口調を作りつつこう言った。
「あぁ……そうだな」
トールがどこか夢を見ているような声音で同意をする。
「ミリィとフレイを優先しないと」
大丈夫か、と不安を覚えた。しかし、今はそれをフォローできる余裕はキラにもない。とりあえず優先すべき事を口にするのが精一杯だ。
「どうして?」
しかし、それが気に入らなかったらしいフレイがその真意を問いかけてくる。
「どうして自分のことを優先しないの?」
「僕がコーディネイターでフレイ達がナチュラルだから」
何でもないことのようにキラは言い返す。
「体力的には多分僕が一番あるから」
遠くまで移動しても大丈夫だ、と付け加える。
「そう言う意味だったの」
キラの応えにフレイだけではなくミリアリアもほっとしたような表情を作った。
「ともかく、移動しよう。エレカは使わない方がいいね」
「そうだな。あぁ、ここから一番近いシェルターは……」
「ショッピングモールを抜けてモルゲンレーテの敷地の方だね」
ショッピングモールの客だけではなく、モルゲンレーテ関係者の避難も見越してかなり大きなものが設置されていたはず、とキラは言う。
騒動が起こっている方向へ近づくことにはなる。だが、それより手前に空きのあるシェルターがあるのではないかと推測したのだ。
「じゃ、急ぎましょう」
フレイがそう言いながら歩き出した。その後を残りのメンバーが慌てて追いかける。
「……ここも戦場になるのかな」
ふっと視線をモルゲンレーテの敷地へと向けるとキラはつぶやく。そこでは小規模な爆発が続いていた。
パニックを起こした人々が逃げ惑っている。これでは目的地に着くのにどれだけ時間がかかるだろうか。
「……まさかこんなに早く動くとは……」
情報がどこで遅れたのか。後で確認しなければいけない。
だが、とカナードは手にしていたモバイル端末を起動しながらつぶやく。
「今はキラを保護する事が最優先だな」
ヤマト夫妻が不当に帰宅を伸ばされている。その情報を耳にした瞬間、カナードはアメノミハシラを飛び出してキラがいるヘリオポリスへと立ってきた。だが、それは少し遅かったらしい。
ヤマト夫妻──ハルマと同じようにヘリオポリスに住んでいる優秀な技術者が本土からの帰宅を拒まれていることと、目の前の光景から判断しておそらくどこかで今回の情報がオーブ側に伝わっていたのだろう。しかし、それを公表しなかったのには何か策略が働いていると判断していいのではないか。
もっとも、今はそれはどうでもいい。
それについては伝えてきたから、きっと今頃サハクの双子が動いているはずだ。
それよりも自分にとって重要なのはキラの安全だ。
「自宅ではないな……だが、厄介な場所にいる」
シェルターを探しているのだろうが、モルゲンレーテへと近づいている。
他の人間であればそれでもいい。
だが、問題なのはあの攻撃を加えているのがラウの部隊であり、そこにあれがいると言うことだ。
事前にラウからの連絡が来ていればなんとしてもあれを出撃させないように頼んだものを。
だが、今となっては言っても仕方がないことだ。それよりも早くキラと合流すべきだろう。
「間に合えばいいが」
間に合わなかったとしてもなんとかするのが自分の役目だ。
そうつぶやくとカナードは人混みを縫うように走り出した。