この照らす日月の下は……

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 微妙なバランスを保ちながらもキラ達は年を重ねていった。
 成長すれば耳に入る情報も増えていく。コーディネイターとナチュラル──プラントと地球連合の関係が悪化していると言うこともだ。
 いずれは戦争になるのではないか。
 そう考えるのも無理はないだろう。この自由都市と言われているコペルニクスですらコーディネイター排斥を叫ぶ者達が現れた。ここの研究所を支えているのが誰かを知っていても、だ。
 むしろ『黙って奴隷をやれ』と言いたいのではないかとカナードはつぶやく。
 それについてはどうでもいい。
 今でも万が一の時にはキラとカリダ、それにハルマぐらいなら自分が守って避難することが可能だ。
 それがわかっているのだろう。ハルマも二人を任せてあれこれと動いている。もちろん、サハクの双子もだ。
「……今日も三人、転校していったよ」
 ただ、キラはクラスメートが徐々に少なくなって行くことに不安を抱いているらしい。どこか寂しげな表情でそう報告してくる。
 その気持ちは理解できる。
 昨日まで隣にいた存在が今日はもういない。
 その喪失感には自分でも衝撃を受ける。キラならなおさらだろう。
 だが、それ以上に問題なのはとカナードは今、キラの隣にいる相手をにらみつけた。
「キラ。迎えに来たぞ」
 そのまま声をかける。
「お兄ちゃん」
 カナードの声にキラはほっとしたような表情を見せた。どうやら、またアスランがキラを辟易とさせるようなセリフを口にしたのだろう。
「一人じゃ危ないからな。一緒に帰ろう」
 カナードがさらに言葉を続ければ、キラは小さくうなずいてこちらに来ようとする。しかし、それを邪魔するようにアスランがキラの手首をつかんだ。
「一緒に帰るなら、僕と一緒でいいだろう?」
「どうして? お兄ちゃんは一緒に住んでるけど、アスランは違うじゃないか」
 それに、とキラは言葉を重ねた。
「今日は用事があるからまっすぐ帰らないよ」
「そう言うこと。お前はまっすぐに帰るんだろう?」
 気をつけて帰れよ、といいながらカナードはアスランの手首を軽く握る。それだけで彼の指からは力が抜けた。
「お前!」
「年上に向かってその口調は何だろうな。礼儀知らずと言われても仕方がないぞ」
 親のしつけが悪いのかと言われかねない。そう続ければアスランは悔しげに唇をかむ。
 個人的に言えば、レノアの悪口を言ってしまったのは申し訳ないとカナードは心のなかっでつぶやく。
 彼女はアスランを少しでも矯正しようと頑張っているのだ。それなのに、こいつは全く変わる様子を見せない。
 本当にこいつの思考回路はどうなっているのだろうか。
 普通なら、あれだけ言われれば自分が悪いのではないかと思うはずだ。少なくとも自分はそうだった、とカナードは心の中だけで付け加える。
「……危ないんじゃなかったのか?」
 忌々しそうにカナードはそう言う。
「大丈夫だろう。知り合いと合流するから」
 大人だし信頼できる人だし、と彼は笑った。
「ママの誕生日だから、パパと一緒にプレゼント選ぶんだ」
 さらにキラにこう言われればアスランにはもう反論できないらしい。
「……ママに話したら許さないから……」
 さらにキラはこう釘を刺す。
「キラが一緒にプラントに行ってくれるならいいよ」
 そうか。キラが困っていたのはこれか、とカナードは納得する。
「無理だっていつも言っているでしょう。パパとママはナチュラルなんだよ? ナチュラルはプラントに行けないでしょう」
 自分はまだ未成年だから保護者がいなければ他国に行けないのに、と続ける。
「母上に頼めばいいだろう?」
「どうして?」
「プラントに行くためだよ」
 このままでは堂々巡りではないか。
「そもそもどうしてプラントに行かなければいけないんだ?」
 そう考えてカナードは疑問をぶつける。
「地球連合の支配地域はコーディネイターにとって危険だからだ」
 胸を張ると彼はそう言い切る。
「なら、オーブの支配地域に戻ればいいだけだな。俺もキラもおじさま達もオーブ籍だぞ」
 プラントに行かなくても十分安全は確保される、と言外に告げれば、アスランはその場に凍り付く。
 これはちょうどいい。
「と言うことで、行くぞ」
 言葉とともにキラの背にそっと手を当てる。そして促すように軽く押した。


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最遊釈厄伝