この照らす日月の下は……
32
何故か、引っ越し先にはカナードがいた。
「どうして?」
無意識にこうつぶやく。
「どうしてって……リフォームの理由がこれだからよ」
そしてもう一人、ギナもだ。
「ギナ様?」
しかし、そこにミナの姿はない。それもいつもとは違う。
「姉上はモルゲンレーテに行っておる。我は出入りを禁止されたからの」
「仕方がないよ。セイランのバカ息子がいるから」
ギナの言葉を補足するようにカナードが言葉を口にする。しかし、キラにはわからないことばかりだ。
「お兄ちゃん?」
「キラは知らなくていいことだよ」
会うことはないだろうから、と彼は続けた。
「そうよの。会うことはあるまい」
ギナもきっぱりと言い切る。
「ムウも留学することになったからの。これの面倒を見られるものがいなくなったのだよ」
我らも忙しくなる、とギナは続けた。
「サハクの名を背負っている以上、仕方がないことだがな」
面倒くさいが、と彼はつぶやく。
「あらあら。ギナくんは相変わらずね」
そんな彼に向かってカリダが平然と言い返している。
「姉上はともかく、我はあまり人と関わるのは得手ではないからの」
直そうと思っても直せなかった、と彼は言う。
「そちらの方は姉上に任せれば良いからの。我は裏で動くようがよい」
そのための双子だ、と彼は目を細める。
「キラは頑張って普通の子どもの暮らしをするのだぞ」
その表情のままこう告げられた。しかし、キラには意味がわからない。
「頑張るものなの?」
それって、とキラはカナードに問いかける。
「ギナ様にしてみれば頑張るものなんだよ。この方の場合、自分よりも能力が劣る人間がたくさんいる場所は苦痛なんだってさ」
説明するが面倒らしい、と彼は教えてくれた。
「……僕、たくさん質問しているけど?」
「それはかまわん。キラは特別だからの。カナードもまぁ、特別な部類だな」
これの場合は将来こき使うためだし、とギナは笑う。
「……ひでぇ」
「仕方があるまい。信用できるものは少ない。信頼できるものはさらに少ないという事よ」
それならば自前で教育した方がいい、と彼は続けた。
「お前はサハクの一族だからな。あきらめよ」
この言葉にカナードは反論できないらしい。悔しそうに頬を膨らませている。
「キラはそのまま好きな道を選ぶがいい。どの道を選んだとしてもお前ならサハクの力になれよう」
女の子なのだから、戦場に立つ必要はない。ギナはそう言いながらキラの身体を抱き上げた。
「だが、今しばらくは男の子のままでいておくれ。さもなくば、バカが『愛人によこせ』と言い出しかねないからの」
全く、月の地球軍の軍人だけではなく味方であるはずの五氏族のうちにも気をつけねばならぬとは……とギナはぼやく。
「そんなやつ、キラに近づけない」
カナードはカナードでそう言い切る。
「良かったわね、キラ。ナイト様がたくさんいるわ」
カリダだけはいつものふわふわとした表情を崩さなかった。