この照らす日月の下は……
33
「キラからのメールは本当に久しぶりですわ。あれがあきらめたのでしょうか」
前に来たメールで『アスランが邪魔をしてメールを書けない』と言ってきたから心配していたのだが、とラクスはつぶやく。
そのままキーボードを操作してメールを表示する。
「……あらあら」
内容を読めばそれが違うとすぐにわかった。
「悪化しているのですね」
困ったこと、とそうつぶやく。
「わたくしがキラのために出来ることは何でしょうか」
邪魔をしに行ければいいのだが、今プラントを離れることは避けたい。母がテロに巻き込まれて入院しているのだ。たいしたけがではないと聞いているが、それでもと思う。
「お母様が退院なさったら月に行ってもいいのでしょうけど」
本当にタイミングが悪い、とため息をつく。
「何か困ったことでもあるのかな?」
その時だ。入り口の方から声が響いてくる。
「お父様。お仕事はよろしいのですか?」
「あぁ。パトリックに『こんな時ぐらい早めに帰ってお嬢さんを安心させてやれ』と言われてね」
お言葉に甘えて仕事を押しつけてきた。彼はそう言って笑う。
「……ザラ様、ですか」
思わず声にとげが含まれてしまったのは、間違いなくキラからのメールを読んだからだ。
「パトリックがどうかしたのかな?」
「いえ……問題なのはお子様の方です」
ラクスはきっぱりと言い切る。
「その方のせいで、わたくしの大切なお友達が困っているのですわ」
行動を制限されているらしい。そう続ける。
「……ある意味、パトリックにそっくりだな」
シーゲルが苦笑を浮かべた。
「そうなのですか」
ため息とともにラクスはそう言い返す。
「それでは良くなる可能性は少ないわけですね」
困ったこと、と続ける。
「月にいればわたくしが撃退して差し上げられるのですが」
「おやおや。ずいぶんと勇ましいね」
ラクスの言葉にシーゲルはそう言って目を細めた。
「だって、キラは本当にお可愛らしいんですもの」
遠く離れていてもそれが変わっていないのがわかる。近くで見られないのだけが残念だ。
「でも、それ以上にお父様とお母様が大好きですわ」
ラクスはそう言って微笑む。
「私もお前が大切だよ」
ただ一つの宝物だからね、と言葉とともに彼はラクスの身体を抱き上げてくれた。
「彼女も待っているだろう。お見舞いに行かないと」
「はい」
母の顔を見るのは嬉しい。たとえやつれていてもその姿はいつもりんとしていて美しいのだ。
自分も彼女のようになれるだろうか。
いつもそんなことを考えてしまう。
もし、自分が母のようになれたならば、自分はキラを守れるのかもしれない。少なくとも、アスラン・ザラが自分の言葉に耳を貸さざるを得ない状況になるはずだ。
「お母様にも『キラは元気だ』とお伝えしないと」
「あぁ、彼女もあの子を気に入っていたね」
「えぇ。キラのお歌は聴いていて気持ちいいのです」
まだまだつたない歌声は、それでも聞く人を引きつける。それはキラの優しさが込められているからだ。
「また、直接キラとお話がしたいですわ」
「彼女が元気になったならまた会えるよ」
「はい」
シーゲルの言葉にラクスはうなずいて見せた。
そんな日は来ないと、このときの彼女はまだ知らなかった。